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02 泡沫
泡沫
しおりを挟むこの気持ちは泡沫の夢なんじゃないかと、彼の横顔を見ながら開きかけた唇を閉じた。
蓋をするように運んだ指先へは乾いた冷たい唇。
気持を言葉にするのが苦手だ。
『気持→言葉』が素直に出来ずに、『気持→考える→言葉』となるから拗らせる。
のみ込んだ言葉は心の中で熟成されてゆき、唇から溢れ出しそうになる。
二人の隙間へと零れ落ちてしまうのが怖くて、すました彼の隣で彩り始めた紅葉をただ眺ることしかできなかった。
彼も言葉少ない人だった。
それがなんだかとても淋しくて、帰りの電車の中ではいつも刺すような悲しみに襲われた。
彩り終えた紅葉がハラハラと地面に落ちる頃、熟成された心だけが取り残された。
薄ぼんやりとした灯りの中で「好き」と、隣でビロードのような舌あたりの赤ワインを口に含んだ男の耳元で囁く。
男はゆっくりこちらへ振り向き、ゴクリとのみ込む。
「好き」、「好き」、「好き」…………。
あのとき発せられなかった言葉をふんだんに使う。
あのときと違う濃度の想いを言の葉にのせて飛ばす。
『想いが足りないから言葉に出来ない』よりも、『言葉を使えば想いは後からついてくる』と考えた方が悲しみから遠のける。
どうせ泡沫の恋ならば、泡沫の夢でかまわない。
それなのに嬉しそうな男に微笑みながらも、心震わせる切なさが恋しいのはどうしてだろう。
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