翠雨の音✴︎短編集✴︎

ねむりありす

文字の大きさ
8 / 24
04 昔の恋の夢

その3

しおりを挟む

カーテンの隙間から洩れ入る光の剣が痛い。
いったい何時になったのだろう?
こんな夢を見てしまったのは、数日前に似た姿を見かけたからだろうか。
こんなところにいるはずないのだから彼のわけないのに、似たその姿に心臓が跳ね上がった。
胸の中でかってに飛び回る蝶を抑えながら、被っていた帽子を目の上までグッと下げた。
そして似ている後ろ姿をこっそり目で追った。
もし本当に彼だとしても私には気付かないだろうと思いながら。
お化粧もしていない私。
白髪も染めていない私。
目尻へ皺が刻まれた私。
躰へ脂肪をまとった私。

日が暮れてくると玄関を開ける音がした。
「ただいま」
リビングの扉から夫が顔を出す。
「おかえりなさい」
「お風呂入れる?」
「まだお湯を張っていないわ」
「シャワー浴びながら、お湯を張って入ってくる」
「夕食の支度をしておくわね」
「ゆっくりでいいよ」
バタンと扉が閉まる音がすると、廊下で響く足音が遠のいてゆく。
リビングへ入ってくる前に匂いを落としておこうという気遣いはまだあるようだ。

あなたはどこでどんな夢を見てきたの?

ずっと仕舞い込んでいたリップスティックの桜色をのせた唇を指先でそっとなぞった。

寝室へ入ると広い背中がつくる藍色の山が静かに沈んだり膨らんだりを繰り返している。
灯を落として、私も自分のベッドへ入った。
平安時代の人は、『夢へ現れるのは、その人が自分を想ってくれているから』と信じていたらしい。
もちろんそんな自惚れた思いは無いのだけど、そう思うことで玉響でも心が華やぐのならばいいような気がする。
家の外の世界で夢を見つづける夫。
ベッドの中の世界で夢を見はじめる私。
「おやすみなさい」と瞼を閉じた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

戦いの終わりに

トモ
恋愛
マーガレットは6人家族の長女13歳。長く続いた戦乱がもうすぐ終わる。そんなある日、複数のヒガサ人、敵兵士が家に押し入る。 父、兄は戦いに出ているが、もうすぐ帰還の連絡があったところなのに。 家には、母と幼い2人の妹達。 もうすぐ帰ってくるのに。なぜこのタイミングで… そしてマーガレットの心には深い傷が残る マーガレットは幸せになれるのか (国名は創作です)

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...