上 下
106 / 322
第1部

すべては2年前から

しおりを挟む
千秋の質問に、意地を張ったり見栄を張ったりしてサトウの話はなかなか進まなかったが、まとめるとこういう事らしい。



  スズキショウコは5年前、東京の大学生だった。
単位も取り終え、就活をしている時、同じサークルだが、ほとんど話したことのない女性声をかけられた。

「ショウコさん、人脈や情報を得るには合コンがいちばんよ。今日の合コン、ひとり足りないの来てくれない?  」

まじめで、ほとんど遊ばなかったスズキは遊びで経験値をあげるのも必要だなと思い、参加する事にした。

それが集団レイプサークルの合コンだったのだ。

その後の生活は詳しくは話さなかったし、千秋も聞きたくなかったのでスルーした。ただかなり酷い目にあったのは伝わった。

事件が明るみになった時、運良く卒業のタイミングだったので、逃げるように実家である名古屋に帰ってきた。東京での事は忘れよう、すべてを忘れて名古屋での生活をはじめる事にした。

3ヶ月ほど自営業である実家の仕事を手伝い、中途採用の求人を出したエクセリオンに応募して採用された。

エクセリオンに就職したのは、外資系なら誰にも知り合いに会わないだろうと考えたのが理由だった。

携帯電話の番号も変え、SNSのたぐいもすべてやめた。

スズキショウコは新しい生活を始めたのだった。



その当時、サトウ課長は係長で、現在長期療養中の企画部部長(当時は課長)の腹心の部下として働いていた。
その仕事ぶりは有能のひと言につき、誰もが次の課長はサトウで決まりだと思われていた。

このくだりを聞いたとき、千秋は(私が知らないと思って盛るんじゃねぇ)と思ったのだが、後日、護邸常務と話す機会があり、この話をすると本当だと言われかなりのショックを受ける事になる。

サトウ係長の活躍で大きな仕事を成し遂げた功績で、当時企画部長だった護邸は常務に、課長が部長に、そしてサトウが課長に昇進したのだった。

新たな課員も補充され、新しい体制が始まった。誰もが、企画部はまた会社に多大な利益をもたらす企画を生み出すと信じていた。

しかし、その期待は大きく裏切られる事になる。
サトウの部下がことごとく、異動もしくは退職を願いでたのである。

いったいどういう事かと護邸は部長に訊ねると、どうもサトウの部下に対する接し方に問題があるらしいと答えた。

サトウは人に使われることによって能力を発揮する事が出来るのだが、人を使う能力が壊滅的に無かったのである。
しおりを挟む

処理中です...