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第1部

その3

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「どうしてそれを……」

「キジマ達を調べて5年前の事件に行き着き、さらに彼らの事を調べたら動画データを見る機会があったの」

「やめて!!  」

スズキは課長から手を離し、自らを抱き締める。世のすべてを拒絶するかのような姿だった。
千秋は声を和らげ、スズキに優しく語りかける。

「安心して、動画データはすべて削除したわ。もうこの世には無いわよ」

スズキは顔を上げ、千秋の目を見る。

「ホント?  」

「私だって女よ、あんなもの赦せるわけないでしょう、だから警察に捕まらせたの」

「捕まらせたって」

「ちょっとね。まあそれはおいといて、動画データは削除したのは間違いないから安心してね」

千秋はスズキに微笑んだ。
いきなり無くなったから安心して、と言われても納得いかないだろう、スズキは半信半疑の目で千秋を見る。

その様子を見て、しかたなく千秋は襲撃計画を事前に知り、それを逆手にとって警察沙汰にしたことを簡潔に説明した。

「で、その間に探偵さんに頼んで、キジマ達のPCとスマホ、それからクラウドにあるデータを削除してもらったの」

実際、ノブがいちばん活躍したと思う千秋であった。

キジマが課長を脅していたネタは、不倫の証拠画像だから、それを削除すればいいと思っていた。
だけど蛍がレイプの動画を見つけた時、これ等のデータもすべて削除したくなった。ノブにその事を話すと

「いいっスよ、選り分けするより全データ消す方が楽っスから」

と、あっけらかんと請け負ってくれた。あとはタイミングである。
はやくに消して不信感を持たせる訳にはいかないし、事がバレて流出してもいけない。

土曜日、キジマ達が壱ノ宮に集まって、確実に襲撃(の準備)をしている、そのタイミングですべてのデータを消す。それがあの日のノブの仕事だった。

そしてそれを見事にやってのけたのである。

「そういう訳でもう無いの」

「あ、ありがとうございます」

「別に感謝しなくてもいいわよ、ついでにやっただけだから」

「でも」

「佐野君、それはほんとうなのかい」

「あの探偵さんは信用できるし、仕事も確実です」

「ありがとう、と、言っていいのかな」

「スズキさんは感謝しなくてもいいですけど、課長は別です。私は課長から感謝の言葉より真相を知りたいんです。もし本当に感謝しているのなら、私の質問に答えてください」

サトウは黙っていたが、スズキがかまわないわと目で合図したので話すことに決めた。

「なにを訊きたいんだ」

「もちろん全部です」
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