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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その7

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 正式に個人事業主として登録していないので内職扱いとなるが、美恵は縫製、おもにコスプレイヤーの衣装を縫うという仕事をしている。
 おかげで毎回変わったコスチュームを見ているのだが、今回のは現代の普通の家庭(?)の話である。どうしてまわってきたのか訊いてみる。

「作品の中でね、高校生の弟を誘惑するシーンがあるんだけど、ヒロインは下着のラインが出るスカートを履いているの。ところがたまにラインが出てないの、思春期の弟はまさか履いてないのかとドギマギしてスカートの中を覗こうとするのね」

──気持ちはわかるな。

「それはヒロインの作戦で、じつはティーバックを履いていて弟はがっかりするんだけど、後日そのティーバックが部屋に落ちている。ドギマギしながらそれを手に取り匂いを嗅いでるところをヒロインに見られて、お父様に言うわよと脅すの」

──僕もやられたら引っかかるだろうな。

「黙っててほしいならいうことをききなさい、といって関係を持つんだけど、依頼してきたレイヤーさんは見えそうで見えないラインのスカートを発注してきたんだって」

「そのくらいなら普通の仕立て屋さんでやるだろう」

「目的がコスプレだからという理由でこっちにまわってきたの」

「もう出来たのかい」

「うん、結局は採寸直しだからね。たぶん年内はこれで仕事納め」

 そりゃよかった。あんなのをまたやられたらたまらないからな。

「それよりなんかあったの? 難しい顔をしてるけど……」

 パジャマに着替え寝化粧を終えた美恵が隣に座る。

「あ、いや……」

 別に話すことでもないと思ったけど、恵二郎のことをちゃんと言ったほうがいいかなと思い、かいつまんでどうして女装することになったか美恵に話した。

「ふうん、そんな過去があったんだ」

「どう思う」

「うーん、恵二郎くん、あ、メグミさんと言ったほうがいいかな」

「どっちでもいいよ」

「じゃメグミちゃん。たぶんねメグミちゃんにとって女装は鎧なのよ」

「ヨロイって、あのスカート姿がかい」

「そ、心の鎧。それをすることによって心の支えとなったり強くなったりしてるの。あたしだって化粧をすると心強くおもうもの」

「……つまり本来の恵二郎は相変わらず内気な性格だけど、女装して化粧することによって、別人となり外交的な性格となると?」

「たぶんね。レイヤーさんでもコスをしてないと大人しい人いっぱいいるから」

「そうなら説明はつくな」

 そしてそう思えば恵二郎の女装も受け入れられるかな。今までは、そんなに好きなら勝手にしろ、と思ってたが、あれが恵二郎なりの生きるための答えなら……。
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