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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その12

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「え、そうだったの?」

女装していてハッチャケているだけだと思ってた。

「やっぱりわかっていなかったのね圭一郎くん。いい? 言わなくても分かる、分かってくれるなんて妄想よ。話し合うの、自分と」

「じ、自分と?」

「そう、自分の気持ちも分からずに話しても、相手に伝わらないの。まずは自分とよ。もちろんメグミちゃんもよ」

 そう言うと美恵は立ち上がり腕を組んで小回りで歩きはじめる。本当に生活指導している先生みたいだ。

「お、おいあれは……」

美恵の後ろの席に座っている二人組のお客さんがこちらを見て驚く。

「[どんなヤンチャな生徒でも更生させるのがアタシの使命、特務教師冴木アヤカに任せなさい!!]のアヤカ先生じゃないか」
「なんと、累計発行部数は振るわなかったがコアなファンにより根強い人気のあるあのアヤカ先生だと」
「間違い無い、[学生運動華やかし頃、時の文部省が秘密裏に組織した特務教師。彼らは問題のある学校に赴任しては決して目立たず静かにそして速やかに問題の芽を解して消え去る。]……」
「おお、それは第一作目のプロローグ部分。暗唱できるとはさすがですな」
「いやいや、それが分かるオヌシもなかなか」

──説明ありがとう、知らないお客さん達よ。そういう話なのね。つまりさっきの美恵の言葉はタイトルを言っただけなのか。

 キャストであるメグミックスが座って、お客さんに怒られているこの状態はやはり目立つ。店内すべての目がこちらを向いているようだ。

「メグミちゃんはちゃんと自分と話してるでしょ?」

「……」

「でもそれを圭一郎くんに伝えてない」

「……」

「わかってくれない、と思って諦めたの?」

「!!……」

「それと圭一郎くんに嫌われたくなくて言えなかった……」

「先生、どうしてそれを!!」

「アヤカ先生はすべてお見通しです!!」

ビシッとこちらに向けて指差すポーズはとても決まっていた。

「さ、さすが特務教師冴木アヤカ。すべてお見通しだ」
「うむ、特務教師は全員特殊能力を持っている。冴木アヤカのそれは超推理、僅かな情報をもとに推理して問題を確定。それだけでなくその奥にある生徒の深層心理まで理解して解決へと導くのだ」

──すごいなあのお客さん達。絶妙のタイミングで解説してくれるぞ、おかげで分かりやすい。

 というか美恵って恵二郎にそんなに会ってないよな。それなのにそこまで分かるのか、なんでだ? ま、まさかスイッチが入るとそのキャラと同じ事ができるようになるのか?!
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