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変動的不等辺三角形はじまる メグミ編

その2

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 ひと通り話したあと、しばらく無言の後ため息が聴こえた。

──美恵がそんなことしたんですか

「めずらしいことなの」

──あ、うーんと……そうですねめずらしいというか初めてですね。

「そうなんだ」

 昨夜の話からするとわりと頻繁に友達相手にやっているかと思っていた。

「まあおかげで弟、じゃなかった妹と縁を切ることにならなくてよかったよ」

そう言うとくすくすと笑い声がかえってきた。

「どうしたの、なにか可笑しかった」

──いえ、昨日の話からも思ってたんですけど、班長ってメグミちゃんのこと好きなんですねぇって。

「え? どういう意味。弟、じゃなかった妹に恋愛感情なんて無いよ」

──そうじゃなくて、家族愛というか兄弟愛かな。自分の思った通りじゃないから切り捨てる、じゃなくて、つっけんどんな態度でいながらも解ろうとしたじゃないですか。ひとりっ子としてはうらやましいお兄さんですよ。

 そんなふうに見えたんだ。何も考えず、というか見栄とか保身の事ばかり考えていたと自分では思っていた。

──班長ってブラコンなんですね。

そう言ったあと蓮池さんのクスクス笑いがまたも聴こえてくる。そんなつもりはないんだがなぁ。
 メグミの方がブラコンだと思ってたのに、他人からみるとそうみえるのか。全否定したいが、コンコースの行き交う人の波が理性を押してくれて大声出さずにすんだ。

──それで班長が美恵を選んだわけが解りました。あの二人、似てますもんね。

「似てるかな」

「班長大好きなところとか、目が離せないところとか、性格もなんだか似てませんか」

 そんな風にみたことなかったが──言われてみればそうかもしれない。だからあんなに早く打ち解けあったのかな。

 そんなことを考えていたら受話口の向こうから蓮池さんを呼ぶ声が聴こえた。お婆さんのようだった。

──はぁぃ、今いくから。

「誰かいるの」

──ごめんなさい、今、実家にいるんです。お婆ちゃんがお節料理料理作れってうるさくって。

「ああそうなんだ。邪魔してごめんね。それじゃ切るよ、ありがとう」

──班長も良いお年を。

 僕も良いお年をと伝えて通話を切った。
 これでメグミとの問題はすべて解決したよな。

 晴々とした気分で百貨店に入ると地下惣菜売り場へと向かう。
 自分でも気がつかないくらい爽快な心持ちだったらしい。売り切るための割引も後押しして特上えび天を五つも買ってしまった。

 帰ってから美恵に叱られたのは言うまでもなかった──。
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