「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

文字の大きさ
7 / 24

6

しおりを挟む
「それで、決意は固まりましたか? 」

 男はアリーチェに問いかけた。
 アリーチェが俯いて答えずにいると、男は言葉を重ねた。

「ここに止まる理由はないでしょうに。幸せな勇者の結婚生活まで見届けて、ご自分の首を絞めるおつもりで? 」

 半笑いでそう問われれば、昨日見た光景が瞼に浮かび、気づけばかぶりを振っていた。
 でも、それでもルッツが自分の人生から消えることは想像できない。

「自分でも、そうすればいいのか分からないの。ルッツのことを思えばこのまま消えた方がいいに決まってる。みんなにとってもきっとそう。でも・・・」

 アリーチェは正直に答えた。

「また随分と絆されてしまったようで」

 男はわざとらしく目を丸める。

「お望みとあれば、あなたから勇者の記憶を消しましょうか? 丁度、それを得意とした者を知っていましね。ご紹介しますよ」

 やっぱり一発は殴っておくべきだったかとアリーチェは思ったが、あまりにタチの悪い冗談には付き合う気にはなれない。
 再び黙り込んだリーチェを見て、男はにこりと笑った。

「まぁ、あなたがここに残るにしても出るにしても決断は早くした方がいいでしょう。ぐるぐる悩むだけ、最悪の結果になることだけはお約束してあげましょう」

 男はアリーチェの感情になど興味なさそうに言いながら、決断を誤るなと釘を刺してきた。

「でも、もし、記憶が戻ったら・・・」
「戻ったとして、それがいつなのかも分からない。方法もない。まず、あなたは彼に近づけない」

 そう、頑張ってあれだった。

「それで、他に言い訳は? 」

 あるわけないよなと微笑む男の顔が迫ってきた。
 アリーチェは口を尖らして、その圧に立ち向かう。

「まずは、お腹が空いたので、お説教は後にして下さい」

 ついでにいーっと威嚇も付け加えた。





「あぁ~やっぱり、ここのご飯が一番美味しいぃ~」

 満腹になったアリーチェはぽっこりと出てきそうなお腹をさすった。
 失恋しようとも腹は減り、食べたらそれなりの幸福感が抱ける。
 けれど、やっぱり頭の端にはルッツの姿がちらついている。

「では、どうせ今日は王都を出られないようなので、こちらをお願いできますか? 」

 神父が満面の笑みでアリーチェの目の前に洗濯物の山を置いた。

「あなたは、ここの水なら大丈夫ですもの、断りませにんよね。それに、どうせこちらも持ち帰るのでしょ? 」

 そう言って、ポーションの瓶の箱を指差した。
 アリーチェはごくりと喉を鳴らし、懇願するように男を見つめた。
 けれど、そんなものこの男に通用するわけがない。

「誰がタダ飯だと言いましたか? 」

 悪魔が笑ってアリーチェの腹を指差す。

「あと、防壁の修繕の方もよろしくお願いしますね」
「こんなのが神父になれるだなんて・・・」
「おや、私の忠誠心は神もひれ伏すほどですよ」

 その通りなので、アリーチェは何も言い返せなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

勇者様がお望みなのはどうやら王女様ではないようです

ララ
恋愛
大好きな幼馴染で恋人のアレン。 彼は5年ほど前に神託によって勇者に選ばれた。 先日、ようやく魔王討伐を終えて帰ってきた。 帰還を祝うパーティーで見た彼は以前よりもさらにかっこよく、魅力的になっていた。 ずっと待ってた。 帰ってくるって言った言葉を信じて。 あの日のプロポーズを信じて。 でも帰ってきた彼からはなんの連絡もない。 それどころか街中勇者と王女の密やかな恋の話で大盛り上がり。 なんで‥‥どうして?

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】私たち白い結婚だったので、離婚してください

楠結衣
恋愛
田舎の薬屋に生まれたエリサは、薬草が大好き。薬草を摘みに出掛けると、怪我をした一匹の子犬を助ける。子犬だと思っていたら、領主の息子の狼獣人ヒューゴだった。 ヒューゴとエリサは、一緒に薬草採取に出掛ける日々を送る。そんなある日、魔王復活の知らせが世界を駆け抜け、神託によりヒューゴが勇者に選ばれることに。 ヒューゴが出立の日、エリサは自身の恋心に気づいてヒューゴに告白したところ二人は即結婚することに……! 「エリサを泣かせるなんて、絶対許さない」 「エリサ、愛してる!」 ちょっぴり鈍感で薬草を愛するヒロインが、一途で愛が重たい変態風味な勇者に溺愛されるお話です。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た

青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。 それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。 彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。 ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・ ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

処理中です...