太陽になれない月は暗闇の公爵を照らす

しーしび

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2章 太陽になれない月

2−7

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 エレンに用意されたのは、使用人と同じ部屋。
 セレーナは知らなかったが、子どもでも働くことがあり、使用人として引き取る事になんら問題はないのだとか。
 知らないことはまだまだある事を、セレーナは痛感した。

「セレーナ、エレンを一緒に案内しよっ! 」

 ソルが誘ってきた。
 けれど、もうすぐデジレ夫人がやってくる時間。
 ソルはきっとサボるつもりなのだろうが、セレーナはそれはデジレ夫人に失礼な気がする。

「授業が始まるよ」
「でも、エレンは初めてここに来たんだよ? 一人にするのは可哀想だよ」

 ソルがいなくても他の使用人がしてくれると思うがとセレーナは思ったが、ソルが彼を連れて歩くのはいい事かもしれないと思った。

──ソルが気に入っている彼に誰も下手な事はしないよね

 最初からそれをアピールするのはいい事のように思えた。
 けれど、待たされるデジレ夫人の事を思うと複雑な気分になる。

「なら、授業の後にしたら? 少しだけ待ってもらって、デジレ夫人には事情を説明すればいいと思う」
「えぇー、だって、デジレ夫人は絶対ダメって言うよ」

 それはソルの日頃の行いが悪いからだとセレーナは思った。

「なら、セレーナは来ないの? 」

 批難するようにソルはセレーナを見るが、セレーナはそれを気にしない。

「行かない。授業に出るわ」

 その方がいいと思う。
 彼にとってもそれが一番な気がした。
 ソルとなら彼も気が楽だろうと。
 後ろでソルは不満を口にしていたが、セレーナは気にする事なくデジレ夫人の元へ向かった。





 案の定、デジレ夫人はまたしても姿を現さないソルに目を釣り上げた。
 セレーナはできる限り事情を説明したが、デジレ夫人は「貴方はそれが彼女の為だと思って口にしているのですか? 」と問われ、何も言い返せなかった。
 正直、ソルを説得しなかったのはソルのためではない。
 ただ彼だけのためだった。
 黙りこくったセレーナにデジレ夫人は、「これ以上時間は無駄にできませんので」と言って、さっさといつも通り授業を始めた。
 セレーナは、恥ずかしい自分を消すために授業に集中した。

 その日の昼食、ソルの希望でエレンと一緒にすることになった。
 弟のウーノも丁度授業が終わり、4人で食べることとなった。

「セレーナ姉様も一緒に食べるの? 」

 ウーノが目を丸めた。

「人見知りなのに珍しいね」

 セレーナは人見知りをした記憶がないので、首を傾げると、ウーノは「お祖父様がくると隠れてるから」と言った。
 セレーナはあれを人見知りと解釈されているのかと初めて知った。

「別に、人見知りとかではないわ」

 セレーナは特に事情を説明することなくやんわりと否定した。
 ウーノもさほどこの話題に興味がないのか、それ以上は追求してこない。
 ウーノはソルが部屋に入ってくると、顔を輝かせた。

「ソル姉様! 」

 そう言って、ソルの元に駆け寄った。
 彼はいつも遊び相手をするソルの方に懐いている。
 太陽だから仕方ないとセレーナはそれをぼんやりと見ていた。

「じゃじゃーん! エレンだよ。エレン、ウーノ。ソルの弟! 」
「エレン、よろしくな! 」

 元気な姉弟に挟まれ、彼は明らかに戸惑っていた。
 セレーナは、彼の周りでわいわいとする二人に声をかける。

「お腹が空いたわ。早く席について」

 するとソル達が振り向く。

「セレーナがそう言うなんて珍しいね」
「セレーナ姉様はソル姉様に比べて少食だからね。ソル姉様はお母様に似たんだろうね」
「だったら、セレーナはお父様似だ。お父様もあんまり食べないもんね」

 確かにそうだなセレーナは思った。
 ソルも公爵夫人も食欲旺盛。
 公爵夫人は自分に似ていないセレーナが嫌いなのだろうか。
 少しだけ、セレーナは気分が落ちた。

「あ、エレン、ここに座って」
「ソル姉様の隣は僕だよ」
「今日はエレンがここなの。ウーノはセレーナの隣ね」

 ソルに追い出されたウーノは、渋々セレーナの隣に腰をかけた。
 2歳年下のウーノは、ソルにべったりしたいらしい。
 けれど、彼には公爵家の跡取りとして授業が詰め込まれていて、ソルとは違いサボるほどの勇気はない。

「そうだ。エレンとウーノは同じ年なんだよ? 」
「・・・だから? 」
「友達ができてよかったね! 」

 けれどソルにウーノの心情を察するほどの能力はない。
 ウーノは文句をソルに言うこともできず、頬を膨らませた。

 そんな二人を眺めてると、セレーナは視線を感じた。
 それに反応すれば、彼と目があった。

──あっ・・・

 なんて反応するべきなのかセレーナは戸惑った。
 すると、グッとエレンは顔をしかめて下を向いた。

「エレンどうしたの? 」

 ソルが心配そうにエレンを覗き込む。
 エレンは反応しない。
 そして、目を隠す様に手で顔をおおった。

──嫌われているのかも

 セレーナはそんな事を思いながら、配膳された食事に手をつける。

「・・・」
「エレン食べないの? 」

 エレンの隣に座っている、ソルはエレンを見つめる。
 セレーナは向かい側に座っていた。
 エレンはチラチラとテーブルの上を見ているも、なかなか動かない。

──そっか

 セレーナは、彼がどう食べていいのか分かっていないのだと思った。
 ソルから聞いた治療院での彼の食事とは確かに異なっている。
 多すぎる食器に困惑しているのかもしれない。
 素直に、食欲に負けて食いつかないところはすごいなと感心した。

「ソルは最近、食べ方が綺麗になったよね」

 セレーナはソルに言った。
 「うん」とソルは元気よく返事をした。

「見てて! 」

 そう言って、ソルは自分が食べるのを自慢げにエレンに見せ始めた。
 エレンはそれを見て、食べ方がなんとなく分かったようだ。
 ガチャガチャと音を立ててはいるもののの、ソルを見習って食べていた。

──頭が良さそう・・・

 セレーナは素直に思った。
 無闇矢鱈に動いたり、発言しないのも、確かに賢いやり方。
 それに確か彼が自分を8歳と答えたのも、頭がいいとセレーナは思った。

 彼は、5歳の誕生日の後に母が亡くなって、街を彷徨って生活をしていたそう。
 母が亡くなってから今までの正確な期間は彼にはわからないらしいのだが、孤児院を出て3回街の祭りを見たから、エレンは自分が8歳なのだと認識しているのだとか。

 そう言うことも含めて、彼は周りをよく見ている。
 セレーナの場合は考え過ぎて何もできないが正しいが、エレンの場合は様子を伺ってあえて何もしていないように見えた。
 髪を整えて顔がよく見える様になった為かセレーナはそう思った。

 ソルはエレンばかりに構い、それにウーノが嫉妬し、セレーナは傍観するだけという奇妙な食事会は、大きな問題が起きることなく終わった。
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