太陽になれない月は暗闇の公爵を照らす

しーしび

文字の大きさ
18 / 36
2章 太陽になれない月

2−8

しおりを挟む


 ただ、ソルの歓迎の気持ちは数時間では収まらなかったよう。
 1日彼を連れ回し、夕食を共にした後、今度はエレンと一緒に寝ると言い始めた。
 それにはウーノも難色を示す。

「僕だって一人で寝てるのに、おかしいよ」

 セレーナもその通りだと思った。
 家令も流石によくないと思っているようで、「公爵の許可が降りなければ」となんとか言いくるめようとしていた。
 けれど、ソルがそれで納得するわけがない。
 公爵は、この前時間を作った皺寄せがきているのか、また忙しくて帰ってきていない。

──お母様だったら・・・

 最終兵器を投入すべきかと思ったが、ソルの身に危険があるわけではないし、公爵夫人は許可するかもしれない。
 それに公爵の許可なく彼女に近づくのはよくない、そんな気がした。

「ソル、一人で勝手に決めてはダメ」

 そう注意するも、ソルが聞くわけがない。
 ソルはセレーナが意地悪を言い出したと警戒し始めた。

 けれど、これはよくないと思った。
 彼は1日ソルに振り回されてるというのに、文句の一つも言わない。
 それは、ソルとそれなりに楽しんでいるのかもしれないが、セレーナ達は彼を無理矢理でも振り回せる立場にある。
 彼は使用人で、セレーナ達は公爵家、雇っている側。
 本来なら食事だって、他の使用人達と一緒にとるべきだった。

「ソルがしたくても、相手は嫌かもしれない」
「やっぱりセレーナは意地悪だ。エレンだって一緒がいいに決まってるよ」
「ソル」
「ね、エレン、一緒に寝るよね? 」

 そう尋ねられて、エレンはびくりとする。
 そして目を彷徨わせた後、小さく頷いた。

「ほらね」

 ソルは勝ち誇った顔で振り向口が、セレーナはそれは半分強制じゃないかと呆れてしまった。
 けれど、それを主張したところでエレンが板挟みになって困るのが目に見えていた。
 ソルが引き下がるわけがない。

 セレーナは、今回はエレンの意思を確認することを諦めた。
 これについては、どうにかしてソルには理解してもらわないといけない。
 ソルがエレンを気に入ってしまっている以上、これからも起こり得ることだ。
 セレーナは後で喧嘩になりそうだなと思いながら、家令の方を振り返る。
 家令もかなり困った顔をしていた。

「それなら、私も一緒に寝ます」

 セレーナはそれでもいいかと家令に尋ねる。

「セレーナ姉様! 」

 ウーノが裏切りだと言わんばかりの声を上げた。
 彼まで不貞腐れてしまえばセレーナの手に負えない。

「ウーノも一緒によ。4人なら、問題ありませんよね? 」

 セレーナが確かめると、家令はそれならと引き下がる。

「では、私の部屋で4人が寝れるように準備をお願いします」

 ウーノは、エレンを部屋に招き入れるのは拒むはず。
 ソルの部屋は、張り切って色々と自分の持ち物を出してきて、寝るどころではなくなる。
 エレンの部屋は論外。使用人部屋のエリアの出入りは禁じられている。
 そうなると、残るのはセレーナの部屋だけ。
 多少荒らされるのも覚悟の上でセレーナは家令に頼んだ。

 彼はセレーナの考えを汲んでか、頷くと近くの使用人達に指示を出していた。

「やった! ありがとう、セレーナ! 」

 ソルがセレーナに抱きついて来た。
 さっきの不機嫌は完全に飛んでいいった様子。
 セレーナは明日からはどうにかしてソルを止めないとなと、少し疲れた顔をしていた。





「ねぇ、あの子、ソルお嬢様が助けたんですって」

 それぞれの支度をしてからセレーナの部屋に集合することが決まり、部屋に戻ろうとしたセレーナ。
 誰もここを通らないと思っていたのか、使用人達が話し込んでいた。

「孤児で倒れてた所を見つけて、公爵にあの子を助けてくれって泣いて頼んだそうよ」
「まぁ、ソルお嬢様って本当に心が綺麗なのね」
「でしょ? 私たちにも気さくに声をかけてくれるし」
「さすが太陽の神の子よね」

 彼女達は好き勝手話していた。

──私なのに

 セレーナは違うと言い出したかった。
 彼を見つけたのは自分だと言いたかった。
 けれど、それはとてもいけない事のような気がして、セレーナは立ち止まる。

「それにしても、セレーナお嬢様は大人びてるわね」

 彼女達の話が変わる。
 セレーナはいきなり出た自分の何にどきりとした。

「そうね。甘えたところなんて見た事ないわ」
「ソルお嬢様とは全然違うわよね」

 侍女達が小声で言い始めた。

「孤児を見ても表情が一つも変わらないのよ? 」
「あ、それにセレーナお嬢様はあの子が屋敷に入るのを嫌がったって聞いたわ」
「あぁ、だからずっとソルお嬢様がついて回っていたのね」
「まだ小さいのにこんなに性格って違ってくるものなのね」

 セレーナは暗闇に自分が溶け込んでしまうように感じた。
 
──私だって・・・

 そう思うも、それを言う勇気はセレーナには無かった。
 セレーナは彼女達に見つからないように、引き返した。





「それで、黒魔女は白魔女にーーー」

 ソルはエレンに絵本を読み聞かせると言って聞かない。
 エレンはどう感じているのか分からないが、黙ってそれに従っている。

「もう寝よう」

 セレーナは時計を見て言った。
 ウーノは既にイビキをかいて夢の中。
 まだ興奮しているのか寝付けないソルに付き合っていたが、セレーナも限界だった。

「今いいところなのに」
「明日もピレウス伯爵夫人の授業があるから、寝たほうがいいよ」

 明日から使用人の教育も始まるのだから彼も休ませた方がいいとセレーナは思った。

「でも、エレンはもっと聞きたいと思うよ」

──彼はそんな事一言も言っていないけど

 そう思いながら、エレンをチラリと見る。
 特に何か感情がある様には見えない。
 ここまでくると、彼もセレーナの様に表情が乏しい部類なのかもなと思い始めた。

「ソル、我儘言うなら自分の部屋に戻って」
「セレーナの意地悪」

 意地悪ではない、寝たいだけ。
 けれど、先ほど聞いてしまった話を聞いて、自分は本当は意地悪なのかもしれないと思った。
 気づいていないだけで、本当は嫌なやつなのかもしれない。
 そう思うとセレーナは耐えきれなくて、勢いよく布団を被った。

「あっ・・・」

 いきなりエレンが声を上げた。
 屋敷に来て初めてのことだった。
 何事かとセレーナが振り返れば、エレンと目が合う。

「せれ・・・」

 何かを言いかけたエレンっだったが、すぐに下を向いてしまった。

「セレーナが怒るから」

 ソルが言った。
 私が怒ったと思って遠慮したのかとセレーナも理解する。
 セレーナはそんな事を気にする必要ないのにとエレンに言葉を投げかける。
 
「眠いなら寝ればいいし、絵本を読みたいなら寝なくていいよ。好きにすればいいから」
「なんか嫌な言い方」

 ソルがムッとして言った。
 セレーナも言い方は悪かったかと思いつつも、愛想がいいのもなんだか違和感があった。
 チラリとウーノが起きてない事を確認し、セレーナは再びソル達から背を向けた。
 もうソルと言い合う気力もない。

 ソルはそれを見届けると、読み聞かせを続行した。
 読み終わらないと寝ないなとセレーナは確信する。

──もういいや。叱られるのは・・・私か・・・

 「お姉さんなのに、なんで注意しなかったの?」と公爵夫人が言う姿が目に浮かぶ。
 ソルには「もうダメよ」と笑って許してしまうのだろう。
 ほとんど彼女とは顔を合わせないのに、セレーナは彼女を思い出し苦い気持ちになる。

 エレンは寝るように動いた気配はない。

 きっと彼もソルを気に入っているのだろうとセレーナは思った。
 やっぱりソルは太陽。
 自分は月にもなれない、小さな存在に感じられた。

 セレーナは目を閉じると、明日はもう少し平穏であるようにと願った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています 

さら
恋愛
――契約結婚のはずが、無骨な公爵様に甘やかされすぎています。 侯爵家から追放され、居場所をなくした令嬢エリナに突きつけられたのは「契約結婚」という逃げ場だった。 お相手は国境を守る無骨な英雄、公爵レオンハルト。 形式だけの結婚のはずが、彼は不器用なほど誠実で、どこまでもエリナを大切にしてくれる。 やがて二人は戦場へ赴き、国を揺るがす陰謀と政争に巻き込まれていく。 剣と血の中で、そして言葉の刃が飛び交う王宮で―― 互いに背を預け合い、守り、支え、愛を育んでいく二人。 「俺はお前を愛している」 「私もです、閣下。死が二人を分かつその時まで」 契約から始まった関係は、やがて国を救う真実の愛へ。 ――公爵に甘やかされすぎて、幸せすぎる新婚生活の物語。

剣士に扮した男爵令嬢は、幽居の公子の自由を願う

石月 和花
恋愛
 両親が亡くなって男爵家を叔父に乗っ取られた令嬢のアンナは、騎士だった父から受けた手解きのお陰で、剣を手に取り冒険者として日銭を稼ぎながら弟を育てていた。  そんなある日、ひょんな事から訳ありそうな冒険者ルーフェスと知り合ったのだった。  アンナは、いつも自分の事を助けてくれるルーフェスに、段々と心が惹かれていったが、彼女にはその想いを素直に認められなかった。  何故ならアンナの目標は、叔父に乗っ取られた男爵位を取り返して身分を回復し、弟に爵位を継がせる事だったから。この願いが叶うと、冒険者のルーフェスとは会えなくなるのだ。  貴族の身分を取り戻したい気持ちと、冒険者としてルーフェスの隣に居たい気持ちの間で悩み葛藤するそんな中で、アンナはルーフェスの重大な秘密を知ってしまうのであった…… ## ファンタジー小説大賞にエントリーしています。気に入って頂けましたら、応援よろしくお願いします! ## この話は、別タイトルで小説家になろうでも掲載しています。

処理中です...