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3章 暗闇と月
幕間 エレン③
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エレンのお月様はなかなか周りに理解されない。
「ソルお嬢様は本当にお優しい方よ。だからあなたもこのお屋敷に来れたのよ」
仕事を教えてくれる使用人の一人はエレンにそう言った。
けれど、エレンには彼女の優しはよく分からなかった。
エレンの意思とは関係なく振り回され、彼女は一人で満足している。
エレンがどう思っているのか、彼女は考えてないように思った。
使用人の言葉が理解できず、エレンは彼女に尋ねた。
「セレーナ様は? 」
「セレーナお嬢様は・・・なんて言うか、そうね、優しい方かもしれないけどよく分からないのよ」
困った様に彼女は答えた。
「表情も変わらないし、あまりお話にならないしね・・・」
彼女がそう言えば、他の者も同調する。
「何考えてるかいまいち分からないのよね」
「でも、奥様をよく困らせているわ」
「まぁ、奥様もソルお嬢様ばかり可愛がっているけどね」
「でも、ウーノ坊ちゃんも可愛がってるわ。セレーナお嬢様だけよ」
「あからさまでそれは可哀想だけど・・・ん、なんていうか、ねぇ? 」
そう言って彼女達は頷き合う。
「それに比べてソルお嬢様は天真爛漫でね。かわいい方よ」
「ま、エレンはソルお嬢様もお気に入りだから大丈夫よ」
「セレーナお嬢様に関わるなんてまずないでしょ」
そう言って彼女達は笑った。
エレンはおかしいなと思う。
セレーナはいつも、後ろで控えているが、常に周りを見ていた。
そしてやんわりと助け舟を出す。
ソルに連れ回されて、エレンが疲れ切っていると、セレーナが助けてくれるのだ。
それにエレンは、彼女達の言うソルの優しさがいまいち分からない。
「エレンも騎士になればいいよ。2人で悪い奴をやっつけよ」
エレンが神殿から帰ると、ソルは何かスイッチが入ったようで楽しそうに言った。
「・・・」
別になりたいわけではない。
エレンはそんな事をするより、セレーナを見ていたい。
だが、この屋敷に止まるには、太陽に従うしかない。
「エレンも、あまり話さないよね。セレーナみたい」
ソルはそんな事を言うこともあった。
「そうですか」
エレンはほんの少しだけ口角を上げた。
心からの笑顔ではないが、笑顔は自分を偽れる。
ほんの少し笑みを作るだけで、環境が良くなることを知ったエレン。
エレンにはソルがいつ掌を返すか分からない存在に思えて、セレーナとの時間が恋しく感じていた。
次の日、エレンは使用人達と共に慌ただしい1日を過ごしていた。
家令の男が公爵夫人と言い争いをしているのを見た。
言い争いというよりかは、公爵夫人は適当に家令の男をあしらい、家令の男がなんとか話をしようと取りつこうとしている様子だった。
ただ、それをじっくり聞く余裕などエレンにはなく、言われるがまま働く。
しばらくすると、セレーナはいつの間にか彼女の家庭教師と共に出かけたことを耳にした。
だから、今日は書庫に彼女がいない気がしたのかとエレンは納得した。
昼前になると、エレンはソルが呼んでいるからと温室へ行くよう言われた。
そういえば足を踏み入れたことがないなとエレンは言われた場所へ向かう。
よくエレンはソルから母と温室で過ごす事を聞いてはいた。
──どうせどこも一緒
エレンはあの月が隠れている書庫以外に興味は湧かなかった。
早くセレーナが帰ってくればいいのに。
そう思いながら、青い花だらけの場所に向かった。
温室は、その中に入る前からエレンの知らない種の花がそこら中に広がっていた。
そこだけ青一色という異質な光景にエレンは驚く。
他の使用人は幻想的だとか言っていたが、エレンには全くそう思えなかった。
そして始まった、ソルのためだけの誕生日会。
それはもっと異質なものに思え、エレンはひっそりと過ごしていた。
もう一人の主役であるセレーナのことなど誰も気にしない。
公爵夫人の態度は使用人に聞いていたが、ソルに対する溺愛ぶりにエレンは顔を顰めそうになる。
昨日セレーナに怒声を浴びせていた人ととはとても思えない。
隠れて聞いていたエレンは声だけでもその豹変ぶりに嫌悪感しか抱けなかった。
「お前が、あいつが拾ってきた孤児か」
エレンにそう言った皺の濃い老人は、観察するようにエレンをジロジロと見る。
そして「赤目か。所詮は悪魔。太陽神の足元にも及ばぬな」と言い残し、興味がなくなったのか、ソルの方へと向かって行った。
老人の射抜くような目は、底知れない恐ろしさがあった。
取り繕って笑うことさえも忘れていたエレンは、解放された為か、今までに感じたことのない脱力感に襲われた。
それ以降も、奇妙な誕生日会は続く。
その場にいる全員が笑っているのに、拭えない違和感。
どんどんあのしつこい程青い花も強調されてきているようで、エレンはめまいまで覚える。
耐えられなくなったエレンは、気持ち悪さからそっとその場を後にした。
──あれはなんなんだ
空気を吸うために温室から離れ、庭園を彷徨っていたエレン。
あの空間にいるとエレンは自分の色んなものが抜けていく感覚があった。
そして、皆が口を揃えて『愛らしい』というソル。
いくらいつもより綺麗なドレスを着ていても、宝石がはめ込まれたティアラをしていても、エレンには何も感じられなかった。
──セレーナだったっら・・・
そう想像すると、エレンは意図せず笑みが溢れる。
いや、あのティアラはセレーナには似合わない。
セレーナにはもっと嫌に光った宝石よりも、暗闇で美しく光る星達の煌めきの方が似合う。
あの毒のように強調されすぎた青の温室の花よりも、庭に自由に慎ましく咲き誇る花々の方が似合う。
──あ
エレンはセレーナの誕生日が今日であることを思い出し、庭の手入れをしていた庭師に頼んで花を摘ませてもらった。
そして、いつか思い出の中の母のように花の冠を作っていく。
──喜んでくれる、かな
セレーナの笑顔が見たくて、何もない自分にできることをエレンはする。
花々を触っているうちに気分が良くなったエレン。
気持ち悪さから何も口にしていなかった為か、花冠が完成した時にはお腹が空いていた。
しかし、そろそろ戻らねばソルが騒がしいだろうと思ったエレン。
あんな場所に帰りたくはないが行かねばと、重い腰を上げた。
「ソルお嬢様は本当にお優しい方よ。だからあなたもこのお屋敷に来れたのよ」
仕事を教えてくれる使用人の一人はエレンにそう言った。
けれど、エレンには彼女の優しはよく分からなかった。
エレンの意思とは関係なく振り回され、彼女は一人で満足している。
エレンがどう思っているのか、彼女は考えてないように思った。
使用人の言葉が理解できず、エレンは彼女に尋ねた。
「セレーナ様は? 」
「セレーナお嬢様は・・・なんて言うか、そうね、優しい方かもしれないけどよく分からないのよ」
困った様に彼女は答えた。
「表情も変わらないし、あまりお話にならないしね・・・」
彼女がそう言えば、他の者も同調する。
「何考えてるかいまいち分からないのよね」
「でも、奥様をよく困らせているわ」
「まぁ、奥様もソルお嬢様ばかり可愛がっているけどね」
「でも、ウーノ坊ちゃんも可愛がってるわ。セレーナお嬢様だけよ」
「あからさまでそれは可哀想だけど・・・ん、なんていうか、ねぇ? 」
そう言って彼女達は頷き合う。
「それに比べてソルお嬢様は天真爛漫でね。かわいい方よ」
「ま、エレンはソルお嬢様もお気に入りだから大丈夫よ」
「セレーナお嬢様に関わるなんてまずないでしょ」
そう言って彼女達は笑った。
エレンはおかしいなと思う。
セレーナはいつも、後ろで控えているが、常に周りを見ていた。
そしてやんわりと助け舟を出す。
ソルに連れ回されて、エレンが疲れ切っていると、セレーナが助けてくれるのだ。
それにエレンは、彼女達の言うソルの優しさがいまいち分からない。
「エレンも騎士になればいいよ。2人で悪い奴をやっつけよ」
エレンが神殿から帰ると、ソルは何かスイッチが入ったようで楽しそうに言った。
「・・・」
別になりたいわけではない。
エレンはそんな事をするより、セレーナを見ていたい。
だが、この屋敷に止まるには、太陽に従うしかない。
「エレンも、あまり話さないよね。セレーナみたい」
ソルはそんな事を言うこともあった。
「そうですか」
エレンはほんの少しだけ口角を上げた。
心からの笑顔ではないが、笑顔は自分を偽れる。
ほんの少し笑みを作るだけで、環境が良くなることを知ったエレン。
エレンにはソルがいつ掌を返すか分からない存在に思えて、セレーナとの時間が恋しく感じていた。
次の日、エレンは使用人達と共に慌ただしい1日を過ごしていた。
家令の男が公爵夫人と言い争いをしているのを見た。
言い争いというよりかは、公爵夫人は適当に家令の男をあしらい、家令の男がなんとか話をしようと取りつこうとしている様子だった。
ただ、それをじっくり聞く余裕などエレンにはなく、言われるがまま働く。
しばらくすると、セレーナはいつの間にか彼女の家庭教師と共に出かけたことを耳にした。
だから、今日は書庫に彼女がいない気がしたのかとエレンは納得した。
昼前になると、エレンはソルが呼んでいるからと温室へ行くよう言われた。
そういえば足を踏み入れたことがないなとエレンは言われた場所へ向かう。
よくエレンはソルから母と温室で過ごす事を聞いてはいた。
──どうせどこも一緒
エレンはあの月が隠れている書庫以外に興味は湧かなかった。
早くセレーナが帰ってくればいいのに。
そう思いながら、青い花だらけの場所に向かった。
温室は、その中に入る前からエレンの知らない種の花がそこら中に広がっていた。
そこだけ青一色という異質な光景にエレンは驚く。
他の使用人は幻想的だとか言っていたが、エレンには全くそう思えなかった。
そして始まった、ソルのためだけの誕生日会。
それはもっと異質なものに思え、エレンはひっそりと過ごしていた。
もう一人の主役であるセレーナのことなど誰も気にしない。
公爵夫人の態度は使用人に聞いていたが、ソルに対する溺愛ぶりにエレンは顔を顰めそうになる。
昨日セレーナに怒声を浴びせていた人ととはとても思えない。
隠れて聞いていたエレンは声だけでもその豹変ぶりに嫌悪感しか抱けなかった。
「お前が、あいつが拾ってきた孤児か」
エレンにそう言った皺の濃い老人は、観察するようにエレンをジロジロと見る。
そして「赤目か。所詮は悪魔。太陽神の足元にも及ばぬな」と言い残し、興味がなくなったのか、ソルの方へと向かって行った。
老人の射抜くような目は、底知れない恐ろしさがあった。
取り繕って笑うことさえも忘れていたエレンは、解放された為か、今までに感じたことのない脱力感に襲われた。
それ以降も、奇妙な誕生日会は続く。
その場にいる全員が笑っているのに、拭えない違和感。
どんどんあのしつこい程青い花も強調されてきているようで、エレンはめまいまで覚える。
耐えられなくなったエレンは、気持ち悪さからそっとその場を後にした。
──あれはなんなんだ
空気を吸うために温室から離れ、庭園を彷徨っていたエレン。
あの空間にいるとエレンは自分の色んなものが抜けていく感覚があった。
そして、皆が口を揃えて『愛らしい』というソル。
いくらいつもより綺麗なドレスを着ていても、宝石がはめ込まれたティアラをしていても、エレンには何も感じられなかった。
──セレーナだったっら・・・
そう想像すると、エレンは意図せず笑みが溢れる。
いや、あのティアラはセレーナには似合わない。
セレーナにはもっと嫌に光った宝石よりも、暗闇で美しく光る星達の煌めきの方が似合う。
あの毒のように強調されすぎた青の温室の花よりも、庭に自由に慎ましく咲き誇る花々の方が似合う。
──あ
エレンはセレーナの誕生日が今日であることを思い出し、庭の手入れをしていた庭師に頼んで花を摘ませてもらった。
そして、いつか思い出の中の母のように花の冠を作っていく。
──喜んでくれる、かな
セレーナの笑顔が見たくて、何もない自分にできることをエレンはする。
花々を触っているうちに気分が良くなったエレン。
気持ち悪さから何も口にしていなかった為か、花冠が完成した時にはお腹が空いていた。
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