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第二章 エンドレスサマー
第二章2 〈ダンジョンへ!〉
しおりを挟む「ふぅ……ヘヴィな朝だぜ……」
……今日はバンチとレナとダンジョン攻略に出掛ける日だ。
出来る男な俺は、昨日の内に準備は完璧に整えて、全てまとめて枕元に置いておいたから抜かりはない。
だが何か妙な胸騒ぎがする。
朝焼けが嫌に目に染みやがるし、胸からみぞおちのあたりがモヤモヤとスッキリしない。
何か今回のダンジョン攻略を占っているようで、あまり気分の良いものではない。
重怠い体を無理やり動かして、集合場所の門に向かう。
どうやら2人とも既に来ているようだ。
2人が俺に気付いて手を上げる。
「待たせたな」
「顔色悪いわよ?」
「なんか胸が妙にざわついてよ……」
「ジュルジュの事だから、どうせ遅い時間に脂っこい物食べたとかで胸焼けしてるだけだよ」
「またヤキメン!? アンタ本当にアレ好きね~。それで胃もたれしてたら世話ないけどね」
違う……俺が好きなのはヤキメンだけど、ヤキメンじゃない。
俺が好きなのはアイラさん謹製のヤキメンなんだ。
そこんところを勘違いしないでくれ。
「さて……いつまで喋ってても仕方ないし、行くわよ、ダンジョンへ!」
「くぅ~……新ダンジョンかあ、楽しみだな!」
バンチよ……ダンジョンに遊びに行くわけじゃないんだぞ?
そんな軽いノリでどうするんだ、ったく……これだから脳筋は……俺がキッチリと気を引き締めていかなければならないな。
新ダンジョンまでは、アルモンティアからおよそ30kmほどらしい。
まあ、その程度の距離なら今日中にはつけるな。
明日の朝イチからダンジョンに潜るつもりで丁度いいだろう。
ダンジョンへと続く道を、レナ、バンチ、俺の順で距離を取りながら隊列を組み進んで行く。
戦闘になれば勿論バンチが前に出るのだが、レナが【気配察知】【罠察知】などのレンジャースキルも持っているので、斥候を兼ねて先頭を行く。
だが俺としたらレナには俺の前を歩いてもらいたい。
何が悲しくて、バンチの背中を見ながら歩かなくちゃならんのか……。
どうせ見るならレナのケツでも拝みながら歩きたいものだ。
バンチとは親同士が仲が良かったから、それこそオシメが取れる前からの仲だ。
コイツの顔ほど見飽きてる物もない。
それにしても図体ばかりデカくなりやがって……俺の隣で鼻水垂らしてただけのヒョロガリだったバンチが……いや、やめとこう……このデカイ図体に何度も俺やレナは守られて来たんだ。
仕方ねえ……次の休憩地点までは我慢してやるか。
「ピィーーーッ」
レナの敵接近の合図だ。
バンチがすぐ様背中の大盾を両手に構える。
レナが走って戻ってきた。
「キラーラビットの群れよ!」
……キラーラビットか。
群れで行動する凶暴なウサギだが、一羽一羽の戦闘力はさほど高くない。
俺たち3人なら決して遅れを取りはしないだろう。
「っしゃあ!!」
キラーラビットの体当たりや蹴りをバンチが大盾を構え、防ぐ。
その隙に後ろからレナの魔法と俺の弓で攻撃して、キラーラビットの数を減らしてゆく。
実際レナには魔法より剣で戦って貰った方が遥かに強いのだが、まずは数を減らす事に専念した方がいいだろう。
キラーラビットは血抜きさえしっかりすれば、肉は食用に適していて、しかも美味い。
剥いだ毛皮も中々の値段で売れるから、最小限の傷で仕留める。
「ふん……お前らウサギごとき、我が愛弓ジークフリートの敵ではな……」
「ジョルジュ! カッコつけてないで、バンバン撃つ!!」
──くっ!
人が気持ち良くなって決め台詞を言いかけてる時に……なんて奴だ。
腹が立ったから、スキル【連射】を使うべきところだが【乱射】を使って驚かしてやる。
俺の決め台詞を邪魔した罰だ。
「くらえ!!」
おっと心の声が漏れてしまった。
スキル【乱射】を使って、矢を乱れ撃つ。
その何本かがバンチの後ろで魔法を放っているレナに向かって飛んでいった。
──ニヤリ、狙い通りだ。
「ちょ、うわ、あぶなっ!」
チッ……すかさず剣を抜いて切り落としたか。
「アンタ何考えてんの? 危ないじゃない」
「この俺がフレンドリーファイアするとでも?」
「現に危なかったでしょ!? しかも、くらえって言ってなかった!?」
「気のせいだろ?」
「まあまあレナ落ち着いて。実際ジュルジュの矢でほとんど片付いたんだから。ジュルジュだって味方をわざと狙ったりはしないさ」
「バンチはコイツに甘すぎよ」
「そんなに怒ってると可愛い顔が台無しだぜ?」
「次ふざけたら斬る」
「……」
ったく……これだから女はいけねぇ。
ちょっとしたおふざけが通じないからな。
──!
チラッとレナを見てみたら目が笑ってない……やり過ぎたか……次からはもう少し気をつけよう。
とりあえず倒したキラーラビットの血抜きを済ませてしまうか。
いい具合に晩飯のおかずができたし、毛皮はこんだけあれば中々いい金額になるだろう。
今回のダンジョン攻略に先駆けて幸先がいいぞ。
「焼くかな~? 煮込むかな~? どっちがいいと思う?」
「私は煮込みかな~」
「俺は焼い……」
「ああん!?」
ヒィィ……さっきのフレンドリーファイア事件からレナが怖い。
ったく本当に女は執念深くていけない。
「もう許してあげなよレナ……ジョルジュだって反省してるさ」
「わかってはいるんだけどね」
「ジョルジュには俺からも話しておくからさ」
「……わかったわ」
「ジュルジュちょっと」
レナと話していたバンチがやってきた。
顔は笑ってはいるが目は笑っていない……。
やれやれ……一度誰がこのパーティーのリーダーかハッキリさせておく必要があるな。
「おいバン──!?」
バンチに首根っこ掴まれた。
首根っこ掴まれて木陰に連れて行かれら俺は、まるでチンピラに路地裏に連れ込まれてるように見えるだろう。
「ええい! いい加減離せ! この筋肉オバケめ!」
「その筋肉オバケに今から説教されるおバカさんは誰かな?」
お前までその目だけ笑ってない顔をするのはやめてくれ。
夢に出てきそうだ。
「リーダーの俺に説教とは偉くなったなバンチよ!?」
「リーダーとか関係ないよ。俺はジョルジュの事は子供の頃からよ~く知ってる。弓の腕も、ムッツリなところも、クールぶってるけど結構卑怯なところもね」
……何が言いたいんだ。
「普段ふざけようが、カッコつけようが、自分に手柄があるように見せようが構わない。だけど、仲間に矢を射るってどういう事!?」
「だからアレはワザとじゃ……」
「ジョルジュの弓の腕を知ってるって言ったでしょ! あの距離では万が一にも外さない事は俺が一番知ってるんだ! いい加減にしてよ!」
「……ごめんなさい……調子に乗ってました」
バンチが久しぶりに本気で怒ってる。
子供の頃、妹を叩いて泣かした時以来だな。
「ちゃんとレナにも謝るんだよ!」
「……はい」
「はぁ……先に戻るから、ちゃんと後で謝るんだよ」
そう言ってバンチはレナの元に戻っていった。
ふう……怖かった。
殴られるかと思ったよ。
「レナ……悪かったな」
「もういいわよ」
「俺が少しの間、先頭歩くわ」
今は少し1人でいたい。
「ったく、子供の頃から変わんないなあジョルジュは」
「説教ありがとね。影のリーダーさん」
「やめてよ。ジョルジュは調子乗ってるくらいが丁度良いんだけどね。たまに調子に乗りすぎちゃうから……」
「だからアンタが手綱握ってるんでしょ? 良いコンビよ」
こうして俺たちは目的地のダンジョン付近に到着し、一晩夜営やしてからダンジョンを攻略する事にした。
「ここをキャンプ地と~する!」
「すっかり元気になったわね」
「ジュルジュはアレくらいが一番なのに、すぐカッコつけるから……」
「オラぁ! くっちゃべってないで手を動かせ、手を!」
「ハイハイ……」
俺たちも冒険者稼業はそこそこ長い。
野営の準備も手慣れたものだ。
テキパキとバンチが焚き火の準備をして、そこにレナが火魔法で火を付ける。
パチパチと焚き木がいい音を奏で始めたら、次は夜飯の準備だ。
この俺が華麗に射抜いたキラーラビットの肉を、バンチが手早く捌いてから煮込み料理に変えていく。
優しいバンチは俺のために串焼きも用意してくれた。
こいつを食べて精をつけて、明日はダンジョンに挑戦だ。
フ……なんだかんだあった1日だが、いい夢見れそうだな。
「ねえ……アレなに……?」
夜飯が出来上がるのを待つ間、ポツリとレナが呟いた。
レナが指差す方を見ると、かなり離れた距離だが大型の獣型モンスターがまるで飛ぶように走っている。
「こっち来ないといいけど……」
「かなり早いわね」
「なあ……アレ……人が乗ってないか? 2人くらい」
「アンタよくそこまで見えるわね」
「さすがスナイパーだね」
この距離でもスナイパーの俺の目はごまかせないぜ。
確かにあのモンスターには人が2人乗っていた。
「でもあんな大きな犬型? 狼型? のモンスターなんていたっけ?」
「……フェンリルだったりして……」
「バカね。フェンリルなんてこの辺にいるわけないでしょ!? いたら国中が大騒ぎになってるわよ」
バンチとレナのやりとりを聞きながら俺も考えていた。
バンチの見立てもあながち間違っているとは言い切れないかもな……。
俺はあんな大型の銀色に輝く毛を持つ獣型モンスターなんてフェンリルしか思い当たらない……実際には見た事はないけど。
「俺たちが行くダンジョン関係じゃなきゃ良いけど……」
「不吉な事言わないでよバンチ」
「ま……アレが何かはわからんが遠く見えなくなったせ。気にするだけ無駄だ」
だがその日夜遅くまで、そのモンスターの話題が尽きる事はなかった。
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