『ダンジョンdeリゾート!!』ダンジョンマスターになった俺は、ダンジョンをリゾートに改造してのんびりする事にした。

竹山右之助

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第二章 エンドレスサマー

第二章幕間

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 俺の名はジョルジュ。
 孤高のスナイパーにして、ロッジ・メルビンの用心棒(自称)だ。

 今まで俺は獲物を射抜く事で全てを勝ち取ってきた。
 そんな俺が今となっちゃ、レナに叱られながらベッドメーキングをしたり、バンチの為に薪を割ったりと笑い話にもなりゃしねえ。

 俺はスナイパーなんだ……こんな、のほほんとした毎日を過ごす為に弓の腕を磨いたわけじゃない!
 愛弓ジークフリートも泣いているぜ。


 全てを射抜いて来たそんな俺だが、一つだけ射抜けないものがある。

 それは……女心だ!

 ……そう、俺は恋をしちまっている。
 そのお相手は、アルモンティアのヤキメン屋台で名を馳せ、今ではここエンドレスサマーで『海の家カモメ』の女店主となったアイラさんだ。

 黒髪のロングヘアーをポニーテールにして、今日もお客の為にヤキメンや料理を作り続けているのだろう。

 そんなアイラさんの心だけ……心だけは俺はまだ射抜けないでいる。

 俺はそれまで知らなかったんだ。
 この俺の腕と愛弓ジークフリートを持ってしても、この世に射抜けない物があるなんて……な。


 だが、最近のアイラさんの様子が少しおかしい気がする。

 エンドレスサマーに来てからというもの、急に開放的な格好で仕事をしだしたのだ。
 確かに魅力的で美しいのだが、嫁入り前の女性が肌をそんなに露出するものだろうか?

 ─────否!!

 彼女はこの常夏の暑さにやられてしまっている!!

 アルモンティアでの彼女と言えば、白いTシャツにデニムにエプロンと言った普通の格好だったのに、エンドレスサマーで暑さにやられ開放的になってしまった彼女は、上はビキニ、下はショートパンツにサンダル、それにエプロンと言うリゾートスタイルになってしまっているのだ!

 ……え? リゾートなんだから、リゾートスタイルで良いんじゃないかだって!?

 良い訳がないだろう!
 彼女は嫁入り前なんだぞ!

 出来れば肌の露出は出来るだけ控えて欲しい。
 それが俺の素直な感想だ。


 そんな悶々とした、口にはできぬ感情をどうにか出来ぬものかと毎日自問自答を繰り返していた。
 そんな時はナイトウルフ達の山を散歩するのが決まりになっていたのだが、俺はそこで禁断の扉を開いてしまった。
 開けてはいけないパンドラの匣を見つけてしまったのだ。


 ナイトウルフ達の山のとある一角から下を見下ろすと、なんとアイラさんとマルチナが住む家が見える事に気付いてしまったのだ。

 しかも!
 しかもだ!!

 ここからは、アイラさんの部屋が丸見えなのだ。
 アイラさんは普段から男勝りで姉御肌なところがある人だが、自分の家の裏は山だからと全く警戒していない……カーテンがいつ見ても開いているのだ。


 そしてある晩、俺は遂に行動に移した。

 俺の中の猛る衝動を遂に抑えきれなくなってしまったのだ。


 はあっ……はあっ……はあっ……。

 やめておけ、やっちまえよ……山を一歩登る度に、俺の中の天使と悪魔が交互に囁き続ける。


 俺はナイトウルフ達がほとんど出払っていない夜、彼らの山の例の一角に、黒い格好をして来ていた。

 そしてアイラさんの部屋に明かりがついていない事を確認してから、地面に伏せる。
 ここからは忍耐力勝負だ。

 だが耐える事には慣れている。
 スナイパーは職業柄、狙撃などの依頼も多い。
 狙撃の時は、ターゲットが現れるまで何時間も身を潜めている事もあるからだ。

 飲まず食わずで息を潜め、周りの背景と一体化する。
 そこに俺という個は無く、あるのは依頼達成への執念のみ。

 今回も夜の山と一体化してアイラさんターゲットを待つ。


 どれくらいそうしていただろう。
 時間の感覚が薄れ、自分が山でうつ伏せに寝ている事すら忘れてしまう。
 まるで自分が自然の一部になったようにさえ感じる。
 今なら小鳥なども無警戒で俺の背に留まりそうだ。

 それからさらに時は流れる。

 そして、ついにその時は来た。

 アイラさんターゲットが帰って来たのだ。
 部屋に明かりが灯り、遠目にだが窓の向こうにアイラさんが確認出来る。
 スナイパーの俺の目になら何とかなる距離だ。

「今日も一日お疲れ様です」

 俺は小声でアイラさんの一日の労をねぎらう。

 ────……ゴクリ。

 アイラさんが、トレードマークとも言えるポニーテールをほどいた。

 ────……ゴクリ。

 その時が刻一刻と迫る。

 案の定、アイラさんはカーテンを閉める素振りすら見せない。

 ────……ゴクリ。

 アイラさんがホルターネックの水着の結び目に手を伸ばす。

 ────キタ。

 と思った瞬間、マルチナが部屋を訪ねて来たのだろう、結び目に伸ばした手を下ろしてしまった。

「チッ!」

 思わず舌打ちをしてしまった。
 マルチナぁぁ! キエエェェェ!
 俺がマルチナに苛つきを隠せずに足をバタバタさせたいた時、さらに俺に不幸が舞い込む。

 から【思念通信テレパス】が入ったのだ。

(ジョルジュ~、何処にいる? レナとバンチが探してるんだけど)

 俺は意を決して無視を決め込む。

(ジョルジュ~! あれぇ? おっかしいなぁ、聞こえてると思うんだけど……何かあったのかなぁ?)

 何もないわ! 何もな!
 頼むから俺の事はそっとしておいてくれ。
 レナとバンチなど待たせておいても何も問題ないわ。
 どうせ奴らの事だから、やれ薪を割れだの、やれ明日の予定の確認だのと、どうせ大した用事ではない。


 ────!!

 からの通信に気を取られていたせいで、危うく肝心なアイラさんの動向から気を逸らしてしまっていた。
 いつのまにかマルチナが居なくなっているではないか!?

 ────……ゴクリ。

 再び止まっていた時が動き出す。

「ハッハッハッハッ」
「…………」

 アイラさんが首の水着の結び目に手を伸ばす。

「ハッハッハッハッ」
「…………」

 なんださっきからハッハ、ハッハうるさいな。
 いまクライマックスなんだ、静かにしろや!

「ハッハッハッハッ」
「…………」

 アイラさんがついに結び目を解き、水着を脱いだ。
 ──!?
 かぁぁぁぁっ!
 水着を脱いだタイミングで後ろを向いてしまったではないか!
 着替えてしまう前にコッチを向かないだろうか……。

「ハッハッハッハッ」
「…………」

「ええい! うるさい! 犬じゃないんだから静かにしろ! 今一番大事なとこなんだよ!」

 そう言って一瞬我に帰り振り返ると、ステアーと上に乗ったタロが俺を覗き込んでいた。

「こんな所で何やってるんだ?」

「いや……! その……少し考え事をだな……」

「こんな山の中でか?」

「う、うむ。静かだからな」

「うつ伏せに寝そべって?」

「少し眠気もあってだな……」

 自分でも苦しいと分かる言い訳を続ける。
 それよりもこのフェンリルの野郎が犬ころサイズの癖に、全てを見透かしたような目で、俺を憐んでいるような目をして見て来やがるのが気に食わない。


「サガ様! ここからアイラ嬢とマルチナ嬢の家が丸見えです!」

「な!?」

「ふーーん……」

 ちぃぃ、このままでは変態覗き魔野郎としてアイラさんに嫌われてしまう。

「ほ、ほんとだ!? 偶然ここから見えるなぁ……全然気付かなかったよ」

「……オイラ達はユウタから連絡受けてジョルジュを探してたんだぞ」

「え? そ、そうなのか? それは手間を掛けさせたね」

「レナとバンチが探してるぞ。オイラが送ってやるからステアーに乗るといいぞ」

「どうぞ」

 そう言ってステアーはジョルジュが乗りやすいよう身をかがめた。


 クッソオォォォ。
 あと一歩と言う所でぇぇぇ。
 このままでは漢ジョルジュ死んでも死にきれん。
 一目……一目だけでも!

 そう思い隙を突いて下を見たが、既にアイラの部屋の明かりは消えていた。

 ……もう死のう……。

 宿願も果たせず、変態覗き魔のレッテルを貼られて生きていくくらいなら、ドブに捨てられたゴミを見るよう目でアイラさんに見られる位なら、もう死のう。

「……今回だけだぞ」

「!?」

「今回だけは、何をしてたか内緒にしといてやるぞ」

「サ……サガ様ぁぁぁ! 一生着いて行きますぅぅぅ!」

「タロだぞ。サガと呼んで良いのはナイトウルフ達だけだぞ。出来ればタロって呼んで欲しいけど」

「サガ様、それは流石に……」

「分かってるぞ。だからステアーも今日の事は内緒にするんだぞ」

「はっ!」

「オイラも男だから気持ちは分からんでもないんだぞ。でも行動に移したら負けだぞジョルジュ」

「はっ! 二度と致しません!」

「さ……みんなが探してる。行くぞ」


 こうして俺の夜は更けていった。
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