『ダンジョンdeリゾート!!』ダンジョンマスターになった俺は、ダンジョンをリゾートに改造してのんびりする事にした。

竹山右之助

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第三章

第三章8 〈急襲②〉

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 誰一人動かず時間だけが流れる。

 俺とタロは対処に困っている。
 この女の刀使いも俺とタロ、二人相手にどう動くか考えているのだろう。


 ちくしょう、どう動いたらいいのか全然わからねぇ。

 実はこの女刀使いが、タロを一目見た時からモフりたくて仕方なくなって、我慢出来んくなってモフりに来ました!
 とか言う、超展開は無いよなぁ。
 いや、でもダメ元で話しかけてみるか。

「こ、こんにちは~」

「……」

「バカかな?」

 タロに真顔で突っ込まれてしまう。

「あの……俺、ユウタって言います。で、こっちがタロです。ほら、挨拶して」
「……タロだぞ」

「……」

「ほら無駄だったぞ。やっぱユウタはバカだな」
「うるさいな。あの~、お名前を聞いても?」
「答えるわけないぞ!」

 だが、俺達の予想に反して女は口を開いた。

「……申し遅れた。カナ・ブラックリーバと言う。暗殺を代々生業としてきた家の者だ」

「え? 名乗るのか!?」
「こ、これはご丁寧にどうも。俺は成り行きでダンジョンマスターをやってます」

「……知っている」

「意外に喋れる感じなのか!?」
「あの……今さらアレなんですけど、今日はどう言った用件で?」

「……勘違いするな。私が名乗ったのは、今から死にゆく者が、自らの命を狩る者の名前も知らないのは余りにも不憫だと思ったからだ」

 そう言った女の瞳が、一瞬酷く悲しんでいるように見えた。

「あ……そう」
「ホラな!? ユウタがバカだから御立腹だぞ」

「では、お前達には何の恨みもないが……依頼があった以上は、仕方がない……死んでくれ」

 そう言って暗殺者カナはゆっくり短刀を持つ右手を動かし始めた。
 その動きはあまりにも自然で無駄が無く、他者を傷つけるための動きには到底思えない。

「み、見事な刀ですね!?」

【交渉術】が本当にオンになっているのかと思うほど俺が苦し紛れに言った言葉に、暗殺者カナが反応する。

「……これが刀という名前の武器だとわかるのか?」

「え!? 少し短いなとは思いましたけど、どっから見ても刀でしょ? タロも分かるだろ?」

 俺の問いかけに、タロは眉をひそめて答える。

「オイラは分からないぞ。変わった剣だな~くらいに思ってたぞ」

 マジか……もしかしてこの世界では、刀は一般的な武器では無いのか?

「……少々お前に興味が沸いてきた。我が家に伝わるこの短刀が刀とわかる奴がいようとは……」

「お、お姉さんはお金で雇われてるんですよね?」

「……」

「て事は、依頼主が死んだり依頼を撤回したら、俺達の事は襲わなくなる?」

「……そうだろうな」

(さっきから何ゴチャゴチャ言ってんだ? 状況は全く変わってないぞ)
(俺が一瞬スキ作るから窓から逃げるぞ)

「わかりました。お姉さんとは何だか戦いたくないので、是が非でも逃げさせてもらいますね」

「逃すと思うのか?」

 そう言って暗殺者カナは、またゆっくりと短刀を構える。
 あの構えからはおそらく突いて攻撃してくるだろう。
 宿の狭い部屋の中にいる事を考えれば、自ずと攻撃方法は限られてくる。


「ユウタ!」

 ユラリと暗殺者カナの姿が揺れたと思った瞬間、次の瞬間には、暗殺者カナの姿は俺の懐にあり、最短距離を短刀の突きが飛んできた。

 だが俺は突き攻撃に全ての神経を集中していたので、エクスカリバルを使い何とかいなす。
 そして女の顔が俺に最も近づいた瞬間に光魔法を放った。

「──くっ!?」

 使ったのは光魔法ライオ。
 言ったらただの激しく光るだけの目眩しだが、目の前で発光する瞬間を見てしまった暗殺者カナの目はしばらくの間は使い物にならないだろう。

 その瞬間を見逃さず、俺とタロは宿の窓から逃げ出した。
 部屋は三階だったけど、三階程度の高さなら問題なく飛び降りる事が出来る。

 ギルとリリルを待たせてある店に向かう途中見かけたネスタに、セバスの雇った護衛に襲われた事を手早く伝え、護衛などではなく暗殺者だった事もティルトンに伝えてもらうよう頼んでおく。



「あ、きたきた。大丈夫だった~?」
「親分! よくぞご無事で!」

「あ~、怖かった……」
「とんでもない使い手だぞ。よく逃げられたんだぞ」

「でもこの後どうするの? もうあの宿には戻れなくない?」

 リリルの言う通り、あの宿はもう使えないだろう。
 料金は前払いしてあるから問題ないとして、あの暗殺者が壊したドアの修理代だけは、なんとかして払わないとな。
 ネスタにお金を預けるのが一番確実な手か。

「とりあえず今日は宿とるのやめて街の外で野営しよう。街中じゃ襲われても満足に戦えない」
「そうだな。オイラも変身出来ないのキツいぞ」

「せっかくの領都だってのに、野宿かぁ……」

「いっその事、こっちも冒険者ギルドに護衛の依頼を出しますか親分?」

「それも考えたけどなぁ……下手したら無関係の冒険者に死人が出ちゃうかもしれんから……」

 もういっそ伯爵邸に乗り込んで暴れてやろうか?
 あそこなら中庭が十分広いから戦えるだろうし、依頼主さえ倒してしまえば、あの暗殺者が俺を狙う理由も無くなるはず。

「ここは伯爵邸に電撃戦……」
「野宿でスキだらけにしてれば、夜襲ってくるんじゃない? 街中じゃなけりゃ、アンタ達負けないでしょ?」

「当たり前だぞ。ん? ユウタ今電撃戦がどうの言ったか? まさか伯爵邸で暴れる気か?」

「……いや? とにかくあの女を何とかしなけりゃな! ギルはリリルを守ってやってくれよ」
「へい!」



 そうして俺達は食料を買い込み、王都の門をくぐって街の外に出た。
 王都から離れすぎない場所で、火をお越し夜になるのを待つ。


「来るかな?」
「来るでしょ」

「勝てるかな?」
「タロいるし勝てるでしょ」

 だけどタロの反応は鈍い。

「何だよその反応は?」

「ん~……よく考えたらあの女の子、本当にオイラ達殺す気だったのかな?」

 タロの口から意外な言葉が飛び出した。

「殺す気だったんなら、もっとやりようがあったと思うんだよね」

 タロの言葉に、暗殺者カナの瞳が一瞬悲しそうに見えた事を思い出す。

「伯爵の屋敷の時だって、無警戒のオイラとリリルが屋敷に入ってから攻撃すればいいのに、わざわざ殺気飛ばして来たんだぞ? おかしくないか?」

 言われてみれば確かに。

「……俺たちに姿を見せて警戒させるのが目的だったって事か!?」

「絶対とは言えんけどね。もしかしたら暗殺なんてやりたくないのかもな」

 そうか……一瞬悲しそうな目をしたのは、暗殺なんてしたくないから、自分を止めて欲しいから俺と会話してくれたのか……少しでも時間を稼ぐために。

「でもそれ憶測でしょ!? 決めつけは危ないわよ」

「それはリリルの言う通りだぞ」

「でもやっぱりって事もある。一応暗殺をやめさせる事に重きを置くか……無理なら倒すしか無くなっちゃうけど」

 いくら暗殺者とはいえ、出来れば宿のドア一枚以外、何の被害も出していない人を倒したくはない。
 相手が女だからってのもあるかもしれないけど、こう思うのが当然のはずだ。

「じゃあタロ、相手を殺しちゃうような攻撃は禁止な」

「仕方ないぞ」

「じゃあ夜に備えて、腹ごしらえでもしときますか」

「!! 待ってたぞ。オイラはお持ち帰りしたオコノヤキ食べるぞ」

「はいはい」

 こうして俺たちは夜になるのを待った。



 そして……辺りはすっかり夜になり、その夜もさらに更けた頃、女は静かにやって来た。
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