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第三章
第三章14 〈推薦状〉
しおりを挟む俺たちは帝国ドランゴニアに入国する手段を得るために、領都グライシングにあるレイモンド伯爵邸に来ていた。
「それで伯爵。ドランゴニア入国って、本当に無理なんですか?」
そう尋ねる俺に、レイモンド伯爵は立派に蓄えたアゴ髭を触りながら答えてくれた。
「いや、不可能ではないぞ? 実際に私も何回も行ったことがあるしな」
「それじゃあ!」
目を輝かせる俺を静止するように伯爵が手でおれを制する。
「まあ待て。貴族以外となると難しいかもしれん。貴族でも男爵以下は無理だろうな」
「……貴族が入国出来る理由は何でしょう?」
「やはり一番は身元がハッキリしているのと、裕福である事だろうな」
なるはど……庶民や下級貴族は金目当てに悪巧みをしかねないと……でも、上級貴族でも私服を肥やそうとする輩は居そうなものだけど。
「リスクに見合わんのだよ」
「リスク?」
伯爵が言うには、ドランゴニアで転移石の無断採掘や無断持出が発覚した場合は、身分を問わず処刑されるそうだ。
それは例えどこの国の王族でも変わらないらしい。
だけど、貧乏な下級貴族や庶民は発覚せずに採掘出来た場合のリターンと、見つかった場合のリスクを天秤にかけてでもチャレンジする価値はあると判断する者が、過去に多くいたらしい。
それで温泉という観光資源がありながら、他国の人間の入国を制限しているらしいのだ。
「でも今の話だと、制限してるって事は制限内なら入国出来るって事か!?」
く……またもやタロが話の急所をつく。
「そう言う事だな」
タロの考えに伯爵が同意する。
「条件は?」
「ドランゴニアに数多くあるダンジョンの攻略だ。踏破出来なくても、指定された階層のマッピングや指定されたアイテムの回収依頼を受けるのが条件だ。それすらも貴族の後ろ盾が無いと叶わんがな」
「要するに?」
「わたしが推薦状を書いて、君がダンジョンに潜って、ドランゴニアに指定された条件を達成すれば良い」
「達成出来ないと?」
「もちろん収監される」
なるほど確かにハイリスクハイリターンだ。
「それでも推薦状を書いていただけませんか?」
「……君には借りがあるからな。書くとしようか……だが、抜かるなよ?」
「あ、ありがとうございます!」
「よかったなユウタ。これでドランゴニアに入国出来るかもだぞ」
「ああ」
それから一時間ほど待って伯爵から推薦状を受け取った。
「分かっているとは思うが、封は解くなよ」
「はい、ありがとうございます!」
推薦状を手に入れた俺とタロは、カナとリリルを待たせてあるカフェに向かい、合流してからドランゴニアへ向かう。
『飛ばしても丸一日は掛かる距離だ。しっかり捕まっておれ』
途中休憩を挟みつつ、一路ドランゴニアへ。
たまに走ってるタロに遅いかかってくる勇気のある魔物がいたが、瞬殺されていた。
たまたま襲いかかった魔物が、フェンリルだったなんてご愁傷様。
まあ、実力差も判らないなら仕方ないけどね。
領都を出て一日が経つ頃には、北国であるドランゴニアもだいぶ近付いて来たのか、かなり寒くなって来た。
「さ、さむさむさむさむ……」
俺が寒がるので、タロはゆっくり走ってくれている。
「男のくせに情けないわねー」
「何処に入ってほざいてやがる」
リリルは寒さのあまり、カナの胸元に入って暖を取っている。
「ユウタは薄着だからな……ドランゴニアに着いたら服を買うといい」
さすがカナはドランゴニアに行った経験があるから、しっかりと防寒着の準備をしていた。
対して俺はと言うと、こっちの世界に来たときが全く寒くなかったから、冬着を準備するという考えにすら至っておらず、夏服と神様に貰った胸当てとマントだけという薄着だ。
住んでるエンドレスサマーも常夏だから仕方ないと声高に叫びたい。
『見えて来たぞ』
タロの声に前を向くと、遠くに高い防壁が長く続いているのが見えてきた。
「あれがドランゴニア……」
「正確にはビシエイド王国との国境だな。帝都はもっと遠い」
「そりゃ他国との国境付近に首都は置かないよな。戦争になったら目も当てられん」
「そうね。あの高い防壁も魔物の侵入だけじゃなく、他国からの攻撃ももちろん想定してると思うわ」
「帝国か……響きだけだと少し物騒なイメージだな」
「確かに軍事国家ではあるな。国民も兵役を義務付けられているし……だがその分治安はすこぶる良好だよ? 現皇帝も賢帝として民に慕われているらしいしね」
「へえ……俺の中の帝国のイメージと全く違うな」
まあ俺の帝国のイメージなんて漫画やアニメの知識によるところが多いから、どうしても偏っているんだろうけど。
「それに温泉に入りに来る他国の貴族も多いからな。そういうのもあって治安には特に気を配っているのかもしれない」
確かに……誰も物騒な所にある温泉にわざわざ浸かりに行かないもんな。
それが立場のある貴族となれば尚更だろう。
「まあ何はなくとも怖い国じゃなくて良かった!」
数時間後。
何故だか俺達は皇帝に謁見するために移送の馬車の中にいた。
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