67 / 75
第三章
第三章25 〈転生〉
しおりを挟む静寂に包まれた守護者の間。
誰もが激しい光に目が眩み、少しの間まともに物を見る事が出来なかった。
そして徐々に視力は回復しだした。
「スッゲー光だったな。思わず変身しちまったぞ」
何故か光の中で変身を完了しているタロ。
「そんなことより、ドラゴンは……紅蓮の王はどうなった!?」
皇帝が時空魔法により転生を果たしたはずの、紅蓮の王の身を案じる。
「転生は……転生は成ったのではないのか!?」
目の前にいたはずの紅蓮の王。
フルサイズのタロの数倍はある巨大な身体が、目の前から一瞬にして消え去ってしまったのだ。
焦るのも無理はない事だろう。
「皇帝陛下! アレを……」
カナがいち早く何かに気づき、皇帝の視線を指差して誘導する。
「お、おお……おお……」
この守護者の間にいる、全員の視線が一つの物に集中していた。
皆の視線の先には人間の幼児程度の大きさの、一つの"卵"があったのだ。
そう、時空魔法『現世転生』は成功し、紅蓮の王を卵の状態に転生させていたのだ。
全ての魔力を消費して疲労困憊の俺だったが、時空魔法を成功させた確信からか、確かな手応えを感じ達成感に満たされていた。
「ユウタ、これは成功したの?」
リリルが尋ねる。
「もちろん成功だよ。俺には分かる」
「あの紅蓮の王が今じゃ卵か……もう一度戦ってみたかったけど……オイラの不戦勝だな」
『バカ!僕は負けてなんかないんだからな!』
「ん? 何だ!? 今のはだれが言った?」
『ココだよ~!』
全員がキョロキョロと周囲を見渡す中、俺は一人だけ声の発信源である卵を見ていた。
「もうすぐ生まれるのか?」
俺の言葉に全員がハッとした顔をして、声の出どころが卵だと気づく。
『うん、もう少し……あとちょっとだよね。てか殻固えー! 紅蓮の王とまで呼ばれた僕が、自分の卵の殻に手こずってるの笑えるよね~』
「……」
「……」
「……」
「……」
「おい、全員ドン引きしてるぞ。話し方変わり過ぎじゃない?」
俺を除く全員が、紅蓮の王の話し方のあまりの変わりぶりにドン引きして言葉を失っていた。
『うんしょ、うんしょ。せい!』
ビキ……ビキビキビキ!
紅蓮の王の卵にヒビが勢いよく入る。
『僕、誕生!』
そう叫びながら、卵の殻を割り中から紅蓮の王が飛び出してきた。
『ふい~、やっと出られた。みんな言いたい事は色々あるだろうけど、最初に感謝の言葉だけ伝えさせて……サンキュ!』
「軽いな」
「軽すぎるぞ」
「ユウタよ! この幼竜が紅蓮の王なのか!?」
「はい。転生した姿です」
皇帝ユーリィ・ドランゴニア三世は、目の前の幼竜を見ても信じられないようだ。
『僕が元・紅蓮の王だぞ。いや~絶対助からないと思ったよね』
「魔族ネリフィラに打ち込まれたアンデッド化の秘術の威力をどうしても抑える事が出来ませんでした。なので発想を変えて助けるのではなく、記憶を持ったまま一度死んで転生してもらいました」
ウィルスと言っても通じないので、ここは秘術としておいた。
『いや~、スゴイ魔法があったもんだよね~。長いこと生きてるけど初めて見たよ……って一回死んだんだっけか!?』
「にわかには信じられん……話し方も以前の紅蓮の王と随分と違うようだしな……」
皇帝の言葉に幼竜は嘆息する。
『あのねえ、僕生まれたてなんだよ? 生まれたてで「我は紅蓮の王、生きとし生ける者よ……ひれ伏すが良い」なんて言うと思うわけ? 紅蓮の王だって幼い頃は無邪気な子供だったんだよ?』
「な、なるほど……」
記憶を持ったまま転生しているのだから、以前の話し方のままでも何ら不思議はないと思うが黙っておく。
『とは言っても、さすがにこの姿じゃダンジョンマスターとしてはキツイものがあるな~。今ならその辺の狼にも負けてしまいそうだよ』
「誰の事言ってるんだ? ああん?」
『仕方ない……代理守護者を立てて、その上で【不可視】を使って、このダンジョン自体を隠すとするよ』
それが一番現実的だろう。
今の幼竜は記憶はあっても、紅蓮の王としての力は失ってしまっているのだから。
また魔族が襲撃してこないとも限らないし、早々に隠してしまった方がいい。
『でも安心して。この地の守護は続けるから。そうと決まれば出てった、出てった! たまには僕の方からユーリィに会いに行くから……その時はまた、ユーリィの子供の頃のように、僕の事をグレンって呼んでくれるかい?』
「もちろん……もちろんだとも……我が友よ」
『……ありがとう。そしてダンジョンマスター・ユウタ。この借りはいずれ必ず返すから』
「……おう、でっかくなって帰ってこい」
『フェンリル、この者をしっかりと守るんだぞ』
「わかってるぞ」
『じゃあ、みんな……バイバイ』
幼竜がそう言った次の瞬間には、ダンジョン内にいた俺の仲間と、皇帝の一団全ての人員がダンジョンがあったはずの場所に立っていた。
「勝手にダンジョンを隠しおって……次会いに来たら一発殴ってやらねば気が済まん」
「ははは。なら長生きしないといけませんね。いつ会いに来るかわかりませんから」
「ふ……違いない。よし、とりあえず帰るぞ。全員城に帰還だ!!」
こうしてダンジョンは誰の目にも発見する事は出来なくなり、紅蓮の王が成長するまで存在が隠される事となった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる