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第一章 フーバスタン帝国編
第4話 〈Hello, new job!!〉
しおりを挟む「ここがチンザノ島……神々と交信出来る島……か」
俺の領地がある西大陸のノルガリア王国を出発して、一週間かけて転職が出来る神殿があると云われるチンザノ島に、ようやく辿り着いていた。
ハウンドッグ王国の物と比べたら随分と貧相な作りの竜着場に愛飛竜パージを繋ぐ。
この島には神殿が一つあるだけなので、住んでいる人間はとても少ない。
神様のお世話を許されている巫女と呼ばれる聖職者しか住んでいないのだ。
実際には神が住んでいるわけではないので、お世話という名の神殿の維持や管理を任されているのだろう。
そんな人の出入りの少ない島だから竜着場も、最低限の質素な作りなのだ。
「クルルル……ク~……」
この島の独特な雰囲気を敏感に察知したのか、パージが何だか落ち着かない様子だ。
ここまで随分と無理をさせたパージにエサを与えて労をねぎらっておく。
確かに他の場所とはちがう、何か神秘的な気配を感じさせる島だ。
何がと言われれば上手く言い表せれられないが、肌で神聖な場所だと思わず感じてしまう島だ。
竜着場から神殿まで歩きながら、周りを観察すると見たこともない植物が花を咲かせ、実を付けている。
孤島なだけあって独自の生態系を築いているのかもしれない。
この島を訪れるのは関係者か、酔狂にも転職を目論む俺のような人間しかいない。
そもそも関係者以外の人間が訪れる事など滅多にないはずの島だ。
だが巫女と呼ばれる者達の手入れが隅々まで行き届いており、歩道には雑草などは一切生えていない。
手入れの行き届いた道をしばらく進むと、前方に石造りの神殿が見えて来た。
「スゴイな……」
石灰岩や大理石で作られているだろう神殿は、至るところに装飾彫刻が施され、その彫刻一つ一つに神へのメッセージが込められているのだろうか。
神殿などに興味の薄い俺ですら息を飲む壮大さだ。
一歩神殿の中に足を踏み入れると、この神殿がかなりの数の円柱に支えられているのが見てとれる。
円柱の太さはおよそ直径2メートル位はあるだろうか?
その円柱がざっと見ただけで数十本はある。
その円柱と円柱の間から日光が神殿内部に差し込んで、これまた神聖な雰囲気を演出していた。
「アシュリー・クロウリー卿ですね。お待ちしておりました」
「!?」
入り口の脇に控えていた巫女が、俺を待っていたと言う。
「何故?」
当然の疑問だ。
俺はこの島に来る事を、執事のオーウェンにしか言っていない。
なのにこの巫女は、俺を待っていたと言う。
「我が神インティーナ様のお告げによるものです」
お告げだと?
そんな不確かな物で俺が来る事を予見していたというのか?
「こちらへ。インティーナ様がお待ちです」
インティーナとはこの神殿で祀られている職を司る女神の名だ。
『星見の儀』も、この女神インティーナの力で行われているとされていて、『確定の儀』で誓いを立てるのも、この職を司る女神インティーナに対して行われるのだ。
俺たち人間にとって一番身近な神様とも言えるだろう。
巫女に連れられるまま、神殿内部のとある部屋の前に来た。
「お声が掛かりましたら中にお入り下さい」
巫女はそう言って俺に頭を深々と下げ、この場を離れていった。
俺は何故か少し気持ちが落ち着かないでいた。
初めての転職に緊張しているのもあるし、こんな神聖さを感じる神殿に入った事もなかった。
そして、そんな神聖な神殿にあって、この場所は息をするのも苦しく感じるほどに、更に神聖な気配が立ち込めていた。
『アシュリー・クロウリー……お入りなさい』
俺はその声に少しだけビクッと肩を震わせた。
なんだ今の声は……頭に直接響かなかったか?
魔王と最後の戦いに挑む前よりも緊張しながら、部屋の扉を開ける。
扉を開けた部屋の中は、今いる場所よりも随分と薄暗く感じた。
そして恐る恐る中へと入る。
「……失礼します」
部屋に入ると、扉が自然に閉まる。
これにはまた肩を震わせた。
すると、薄暗かった部屋がどういう仕組みかわからないが、燭台のロウソクが灯ったような明るさになる。
『よく来ましたね。【星屑の魔導士】アシュリーよ』
相変わらず声は頭に直接響くのだが、その声がどちらから響いて来ているのかは何故だかハッキリと分かった。
恐る恐るその方向を見ると、昔の貴族が着ていたようなシルクで出来たキトンに身を包み、圧倒的な存在感を放つ美しい女性がいた。
「アナタはもしかしてインティーナ様なのですか?」
『いかにも……アナタが今日ここに来る事は分かっていました』
まさか本当に島に存在していたとは……。
本来なら神だと名乗っても信じる事はしないが、何故だか素直に納得出来る、そんな存在が目の前にいた。
「だったら用件も?」
『はい、もちろん承知しています』
これは話が早いかもしれない。
「ならば俺が転職する事をお許しください」
俺は跪き、職を司る女神インティーナに頭を垂れる。
『本気で転職を考えているのですか?』
「やはりダメでしょうか?」
『アナタ達には魔王を倒して貰ったという大きな借りがあります。可能か不可能かで言えば可能です』
やったぜ!
「では……!!」
『ですが転職をすると、アナタが今まで積み上げてきた全てが無に還ります……アナタが魔導士として経験して来たものが全て無くなってしまうのですよ!?』
今までの俺の冒険が無かったことになる……積み上げて来たもの全てを失うとは、一から出直す事を意味するのだろう。
つまり【星屑の魔導士】としての全ての強さを失くしてしまうのだろう……だが……それでも俺は!!
『はぁ……本当にアナタ達は何から何まで……分かりました。転職を許可します』
「あ、ありがとうございます、インティーナ様!」
『……本当によろしいのですね? やめるなら今の内ですよ?』
…………。
『いいのですか!?』
「しつこいな……早く始めてください」
『しつこ……!? オホン。アナタの覚悟は分かりました。ならばここへ……』
俺はインティーナ様に言われた場所に跪く。
『汝、アシュリー・クロウリーの数々の功績を称え、職を司る女神インティーナの名の下に、転職を認める』
女神インティーナの持つ杖に虹色の光が集まり輝きだす。
『神・魔法〈職業選択の自由!!』
インティーナの声と共に、杖に集まった虹色の光が俺を包んだ。
『さあ、アシュリーよ、貴方が真に望む職業を選びなさい』
お、おお……!
転職ってこうやるんだな。
俺から見てインティーナの背中側にある壁に、色んな職業が映し出されていた。
それは全て俺をモデルとして、ある俺は剣を持ち、また別の俺は弓を持つなど、転職後のイメージ画像が映し出されていた。
ふむふむ……この映像から直感的に操作しながら選ぶ仕組みなんだな?
さすが女神が使う魔法なだけはある。
【星屑の魔導士】とまで称えられた大魔導士の俺ですら、見たことも聞いたこともない魔法だ。
「えーと……剣士じゃなくて、拳闘士じゃなくて……あ、これこれ……戦士にします。俺、戦士がいいです!!」
映像の俺は斧と盾を持った重装備な戦士だ。
『……また元の魔導士とは正反対な職業を選びましたね』
「似たのに転職しても面白くないですよ」
戦士なら剣も斧も打撃武器も使えて装備の自由度が高いからね。
『でも元の職業に近ければ近いほど適性は高いですよ? つまり遠ければ適性が無いと言う事です。本当に戦士でいいのですか?』
「インティーナ様って、結構しつこ型ですね」
『しつこ!?……また言いましたね。分かりました戦士で決定します!! どうなっても知りませんからね!!』
ピローン!
部屋に甲高い音が響いた。
『はい、確定音がなりましたね、完了しましたよ。アナタはたった今から戦士として生まれ変わりました。アナタの冒険の日々に幸が多くありますよう……』
「うおおぉぉ! 子供の頃に憧れた戦士になったぞー! これであの魔物も、あのドラゴンにも、近接攻撃できるぞ~!」
シュッシュッ、シュッシュッ。
シャドー拳闘の要領でパンチを繰り出す。
夢にまで見た転職が叶いハシャギまくる元大魔導士の俺をインティーナ様が心配そうな顔で見つめる。
『では、記念と言うわけでもないですが、この砂時計をプレゼントします』
「何ですか、コレ?」
『持っていれば、いずれ何か分かる時が訪れるでしょう。保険のような物です。さ、転職は終わりました。それからここから出たら、この事は他言無用にお願いしますよ』
「分かってます! 本当にありがとうございました」
俺はこれから訪れる未知の冒険の日々に心躍らせながら、インティーナ様に深々と頭を下げて部屋を出た。
『それから! ちゃんと冒険者カードは確認しておくのですよ~!! ……ったく、本当にあの英雄達は……ちゃんと最後聞こえてたかしら?』
応援ありがとうございます!
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