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第一章 フーバスタン帝国編
第5話 〈冒険者カード!!〉
しおりを挟むよっしゃあああー!
インティーナ様がいる部屋を出て俺はガッツポーズをして小走りをする。
ついに、ついに念願かなって転職する事が出来たのだ。
神殿を出ると太陽の光がやけに眩しい。
転職したせいか、世界が輝いて見える。
世界とはこんなに眩しかったか?
モノクロだった世界に、絵具をぶちまけて色を付けたみたいに感じる。
まるで転職した俺を世界が歓迎しているかのようだ。
ああ、俺は生まれ変わったんだ。
……フンッ! ……フンッ!
斧やハンマーなど重量のある武器で敵を殴りつけるための素振りをしてみる。
魔導士だった頃、雑魚敵や近づいて来た敵を杖で殴ったことはあるが、やはりソレとは違う、確かな手応えを俺は感じていた。
まずは装備を整え……いや、神殿を出る時にインティーナ様がなんか叫んでたな。
冒険者カードがどうのとか……。
冒険者カードと言うのは、冒険者の身分証明書みたいたな物だ。
カードには名前と性別と年齢、そして冒険者としてのランクがE、D、C、B、A、S級の順で格付けされている。
単純に強さのみを表しているわけではないが、ランクが高ければ高いほど、冒険者としての実力が高い事を表していて、高難易度のクエストを受注出来る。
難易度に比例して、もちろん報酬の額も上がっていく。
冒険者なら誰しもがS級に憧れるが、S級になれる冒険者なんて、ほんの一握りの中の一握りしかいない。
大抵の冒険者がS級への昇格条件を満たせず諦めるか、挑戦の途中で死んでしまうからだ。
中にはA級でも充分稼げる事に気付いて、挑戦すらしない者もいる。
もちろん俺たち魔王を討伐したパーティーは全員がS級の冒険者だ。
他に冒険者カードに書いてあるのは、職業とレベル、力や耐久力といったステータスが、Hランクから書かれている。
細かい数字などは書かれていないが、ある一定の数値を超えると冒険者カードの更新時にステータスのランクが上がる。
魔導士だった頃の俺の冒険者カードがこんな感じだ。
アシュリー・クロウリー 21歳 男性
【S】〈魔導士〉
【レベル】218
体力 ──C
力 ──F
耐久力──F
俊敏性──A
魔力 ──SSS
知力 ──SS
運 ──B
【スキル】固有魔法、振り絞る魔力、乾坤一擲、瞑想
簡単にスキルを説明すると、【固有魔法】は名前の通り、俺だけの固有魔法が使える。
【振り絞る魔力】は、その魔法を使うと魔力が空になるという時の魔法の威力が上がるスキルだ。
【乾坤一擲】は、全魔力を使って最大火力の魔法を使う事が出来るが、失敗すると死ぬと言う恐ろしいスキル。
こればっかりは上位蘇生魔法が使える神官などが近くにいる時にしか使えない。
ちなみに【乾坤一擲】と【振り絞る魔力】は成功さえすれば効果が重複する。
【暝想】は目を閉じて瞑想する事により、魔力の高速回復が出来る便利なスキルだ。
ざっと説明したが、これが転職前の俺の冒険者カードの内容だ。
女神インティーナが冒険者カードを確認しろって言ってたから、カードの更新にどこかの冒険者ギルドに行くか。
ここチンザノ島から近い国は……と。
最寄りではないが、せっかくだから仲間の女剣士【剣聖】ミレーヌがいる、東大陸の自由国家アンセムまで行こう。
アンセムなら装備もイイ物が手に入るだろう。
善は急げとばかりに竜着場まで走るが、ステータスが変わったからなのか、心なしか身体が重い気がする。
愛飛竜パージを繋いでいた縄を解き、パージに飛び乗ろうとするが、上手くいかずゆっくりと跨った。
「…………」
パージもチンザノ島までの長旅で疲れているだろうが、アンセムまでなら問題なく飛べるだろう。
「クーーーーー!」
少しだけ転職のデメリットを肌で感じつつ一路、自由国家アンセムを目指し大空へと飛び立った。
◇ ◇ ◇ ◇
「やはり活気があるな」
【剣聖】ミレーヌ・モローが治める領地の竜着場にパージを繋ぎ、ミレーヌの屋敷を目指す。
屋敷の場所を、道行く人に尋ねたら心良く教えてもらえた。
通行人が見知らぬ人間の俺を恐れていないのは、ミレーヌの統治が良好で治安の良さを物語っている。
あのお転婆剣士に領地運営の才能があったとは驚きだねぇ。
それとも、俺のように国から派遣されている執事が有能なんだろうか?
少し歩いてミレーヌの屋敷に着くと、門番にアッシュが来たからミレーヌを頼むと伝える。
門番に守衛室で少し待つように言われ、暫く待っているとミレーヌではなく、初老の男性が出てきた。
「これはこれは英雄クロウリー卿。遠路はるばるよくぞおいで下さいました。私はモロー家家令のルーニーと申します」
深々と頭を下げられが、どこかで同じようなやり取りをした気がする。
「ミレーヌは?」
「申し訳ありません。ミレーヌ様は暫くの間、屋敷を空けておりまして……お仲間であられる【星屑の魔導士】クロウリー卿がお見えだというのに……誠に申し訳ありません」
もう魔導士ではないんだけどね。
でもこの場合、称号ってどうなるんだろうな。
「いや、何の連絡もせず急に来た俺が悪い。出直すよ」
「そんな! かつてのお仲間の方が見えたというのに、おもてなしもせず帰らせてしまったとあっては、私共が怒られてしまいます」
「いやいや、用事のついでに顔見に来ただけだから。気にしないでくれ」
「……申し訳ありません。ミレーヌ様がお戻りになられましたら、クロウリー卿が見えられた事は必ずお伝えしますので……」
俺はルーニーによろしくと伝えてミレーヌの屋敷を出た。
ふむ……ミレーヌも不在か……みんな忙しくしているのか、俺もずいぶんと間が悪いな。
そんなことを考えながら、商売人や町人で賑わう道を歩き冒険者ギルドを目指す。
ミレーヌの治める領土は、そこまで大きくはないが幸い冒険者ギルドはあるので、そこで冒険者カードを更新する事にした。
10分ほど歩くと、冒険者ギルドの看板が目に飛び込んでくる。
世界地図に盾と剣のロゴは世界共通だ。
俺は念のため、ローブに付いているフードを目深にかぶってからギルドに入る。
有名人なので騒ぎを起こさない為の配慮だ。
古めかしい木造二階建ての大きな建物。
至る所にシミやキズが付いていて、長年運営されているのがよく分かる。
併設されている酒場兼食堂は昼間から大盛況だ。
どこの冒険者ギルドも似たような作りで、クエストの依頼が乱雑に貼られたクエストボードに、受注や完了の手続きをする受付カウンター、そして食堂で酒盛りする荒くれ者の冒険者達の喧騒と汗と血のニオイ……消して良いニオイではないが、懐かしい古巣のニオイだ。
何もかもが懐かしい……半年程離れていただけなのに、ずいぶんと昔の事のように感じる。
俺はザッとギルド内を見渡して、知り合いが居ないことを確認してから受付カウンターに進む。
「いらっしゃいませ。クエストの受注ですか?」
「いや、カードの更新を頼む。久しぶりに依頼でも受けようと思ってね」
「かしこまりました」
俺はギルド職員の受付の女性に冒険者カードを渡す。
すると受付の女性はカードを魔導具に差し込み合図する。
それを見て俺は受付カウンターに置かれている水晶がはめ込まれた魔導具に右手を置いて待つ。
この魔導具で俺のステータスを読み込むのだが、仕組みは一切わからない。
「はい更新完了です。まあ! S級冒険者の方だったのですね!? これは失礼しました」
ん?
なんか反応がおかしいな……本来なら【星屑の魔導士】アシュリー・クロウリーが来た! 英雄が来たぞ~! とか言ってギルド総出で騒ぎ出しそうなものだが……。
俺は不思議に思いながらも、冒険者カードを受け取る。
そして併設された食堂でランチを頼んで席に着いた。
さっきの受付の女性の反応も気になる事だし、運ばれて来たランチを食べながら、更新された冒険者カードに目を通す。
「ブッ!」
思わず口に入れた昼飯を吹き出しそうになった。
更新された冒険者カードに書かれていた内容が、余りにも衝撃的だったからだ。
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