7 / 39
第一章 フーバスタン帝国編
第7話 〈初クエスト!!〉
しおりを挟むパーティーを組んで、クエストを受ける事にした俺と【聖女】アンナは、受注するクエストを選ぶ為にクエストボードの前にいた。
こんなに真剣にクエストを選ぶのは、いつぶりだろうか?
なんだかアンナも真剣に選んでいる気がする。
「どうぞアッシュさん、お好きなクエストを選んで下さい」
「何言ってんだよアンナ。アンナが好きなの選べよ」
俺は転職して、レベルが1になって弱くなってるから、出来れば強いアンナにクエストを達成してもらいたい。
そこそこの難度のクエストからは、魔物が出てきたらアンナに倒して貰わないと俺は死んでしまう。
まぁ仮に死んだとしても、アンナの蘇生魔法ですぐ蘇れるんだけど。
「う~ん、そうですねぇ……こういうのはいつもミレーヌちゃんやカイ君が選んでくれてたから……」
アイツら脳筋組は何も考えずに報酬の額で選んだりするからな、何度危ない目に遭った事か……。
「やっぱりアッシュさんが選んで下さい!」
まあアンナは優柔不断なとこあるから仕方ないか。
……だが、いざ俺が選ぶとなると難しいな。
アンナはオフェンス面は俺の魔法に頼ろうとするだろう……だが、俺はもう魔法が使えない。
いや、昔取った杵柄とかで、よしんば魔法が使えたとしても、高難度クエストに出てくるような魔物を倒せる魔法は無理だろう。
そうなると、やはり魔物はアンナに倒してもらわねばならん。
今の俺に倒せる程度の魔物しか出ない超低難度クエストを選んだりしたら、いくら能天気なアンナでも怪しむだろう。
しかし、高難度のクエストを選んで、強い魔物が出てきて、『アッシュさん、お願いします!』なんて言われた日には目も当てられん。
どうする……どうするのが正解なんだ?
「ま、まずはC難度クエストなんかで肩慣らしするか? ほら、前衛職のミレーヌやカイがいないことだし……」
さすがに理由が少し苦しいか?
「うーん……そうですね。私達だからって絶対高難度クエストを受注しなきゃイケナイわけじゃないですもんね!」
アンナの笑顔が眩しすぎてツライ……後ろめたさがあると【聖女】の笑顔はメンタルを削ってくるのか。
とにかくこれで高難度クエストは避ける事ができた。
出てきた魔物はアンナに倒させて、パワーレベリングを密かに遂行しよう。
「じゃあ、これにするぞ?」
そう言って俺が勢いよくクエストボードから剥がしたのは、C難度のファットモスの狩猟だ。
このファットモスと言う魔物は、食用に向いた大きいイノブタなんだが、気性はとても大人しく危ない魔物では無い。
ただ体が分厚い脂肪に守られていて、耐久力が高くなかなか倒せない事で有名な魔物だ。
とにかく打撃はほぼ効かない。
これで俺のハンマー攻撃が効かない言い訳にもなるだろう。
ていうか今の俺のレベルでは、例え剣を持っていてもまるで歯が立たない相手だ。
俺は剥がした依頼書を、受付に渡しクエストの受注手続きをする。
誰が受注したかを冒険者ギルドが把握しておく為に、冒険者カードの提出も義務となっている。
俺とアンナの手続きが終わり冒険者カードが返却される。
「では、気をつけていってらっしゃいませ」
受付の女性職員に笑顔で送りだされるが、ふと違和感を感じる。
俺は冒険者カードの名前が変わっているからまだしも、【聖女】アンナ・フランシェスカが居るというのに何も言われなかったな……。
妙な違和感を感じつつ俺とアンナは竜着場に向かう。
「クルル~」
俺の愛飛竜パージも、久しぶりにアンナに会えて嬉しそうだ。
アンナの飛竜レイムズも俺に頭を擦り付けてくる。
流石に戦闘に加わったりはしないが、飛竜がいなければ俺達の以前の旅が成功していたはずもなく、パージやレイムズなどの飛竜も、俺達の大切な仲間だ。
「行くぞ! 第二の冒険の始まりだ!」
俺とアンナの飛竜が、大地を蹴って飛び上がる。
飛び上がった勢いそのままに、大きな翼を上下に動かし空へと舞い上がる。
ある程度の高度まで上昇したら、風をつかまえて目的地のボーヤノ平原を目指す。
ミレーヌの領地からなら30分も飛べば着くだろう。
「わりと近かったな」
パージから降りて、尻を軽く叩いてやる。
そうすると勝手の分かっている愛飛竜パージは、その場で身体を休め始めた。
この場合パージは、俺が呼んだ時にスグに駆けつけてこられる距離にいれば何をしていても構わない。
飛んでいようが、水を飲んでいようが寝ていようが自由だ。
アンナも同じようにレイムズの尻を叩いて自由にしている。
「さて、まずは索敵だが……アソコにいるな」
「い、行きましょう」
音を出来るだけ立てずに近づいて行く。
近くで見ると、ただでさえ大きいファットモスの中でもかなり大きい個体のようだ。
おそらく体長3メートル、体幅1.5メートル、体高は2メートル近くはある大きな個体だ。
コイツからならかなりの人数分の肉がとれそうだ。
俺はマントの中にしまっていた新武器、星屑ハンマーを構える。
その様子を見て慌てたのは【聖女】アンナだ。
「アッシュさん! アッシュさん! なんでハンマーなんて構えてるんですか!?」
今までお互い後衛組として頑張って来た俺とアンナだ。
互いの事は勝手知ったるもので、俺の武器がいつもの杖と違うことにすぐ気付いた。
「……これからは後衛の非力な魔導士も、雑魚相手くらい自分の力で戦えた方がいいと思ってな」
「そう……何ですか……」
ターゲットのファットモスは、俺達に気が付いているが歯牙にもかけず平原に生える植物を食べている。
「そい!」
俺は掛け声と共にファットモスに殴りがかかったが、ファットモス自慢の脂肪の鎧に、打撃の威力を全て吸収されてしまう。
「そい! ちぇあ! そりゃ!」
ダムッ! バスッ! ドスン!
鈍い打撃音がボーヤノ平原に響き渡る。
何度もハンマーで殴りかかるのは、ファットモスに打撃が効かない事を、よりアンナに印象付けるためだ。
「ダメだアンナ! ハンマーじゃダメージが通らない! 聖属性の攻撃魔法を頼む!」
そう叫びながら後ろを振り返った俺の目に、衝撃的な光景が飛び込んできた。
なんと神官のアンナが短剣を構えていたのだ。
アンナの短剣を構える手はブルブルと震えている。
「何やってんだアンナ! なんで短剣なんか持ってんだよ!? 早く魔法を!」
早くしないと、いくら温厚なファットモスもそろそろ反撃してくるだろう。
「き、きええぇぇぇぇぇぇ!!」
「ふぁ!?」
何故か短刀を握りしめたアンナが、奇声を上げながらファットモスに斬りかかる!
バイーン。
アンナの短剣はあえなく脂肪の鎧に弾かれてしまった。
「何やってんだよ!?」
「う、うえーーん。アッシュさんが魔法撃って下さ~い」
────いっ!? 泣き出しやがった!
困った! しかも俺は魔法が使えない。
とにかく今は攻撃するしかない。
俺がハンマーで叩けば、アンナが短剣で斬りつけるを繰り返すが、ファットモスはほぼノーダメージだ。
「どうなってるんですかぁ?」
「それはこっちのセリフだっつーの!!」
「ブモオォォーーー!!」
大人しくて有名なフアットモスがついに怒った。
このままでは二人とも危ない。
「仕方ない……スキル【みなぎる力】!!」
奥の手であるスキル【みなぎる力】を使い、なけなしの魔力を攻撃力に変換する。
「これで……どうだぁぁ!! 頼むぞ星屑ハンマー!」
スキルにより魔力が膂力に変換されて、渾身の一撃が繰り出された。
バイーン。
俺の奥の手も、あえなく脂肪の鎧に阻まれる。
オヤッサン、話が違うぜ!
「に、にげろーーー!!」
俺は振り返るとアンナの手を引き一目散に逃げ出した。
後ろには怒り狂うファットモスが地面を掻いている音が聞こえる。
「ピィーーー!」
俺は指笛を吹き愛飛竜パージを呼ぶ。
主人の呼び掛けにパージが颯爽と駆けつける。
どうやらレイムズも一緒に飛んで来てくれたようだ。
俺とアンナは各々飛竜に飛び乗り、難を逃れた。
「はぁっ、はぁっ、はあっ……」
「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ……」
足下に広がる平原を見ると、怒り狂ったファットモスが所構わず体当たりをかましている。
パージ達がすぐさま駆けつけてくれなければ、俺達もあの体当たりの餌食となっていただろう。
「と、とりあえず……はあっ、はあっ……冒険者ギルドに戻るか……」
「そ、そうですね……ひぃっ、ひいっ……このクエストは失敗申請しましょう」
「話し合う必要があるな……」
「そう……ですね……」
俺とアンナは無言でアンナの領地に戻り、冒険者ギルドの受付にクエストの失敗申請をして、俺とアンナパーティーの初クエストは残念ながら失敗に終わったのだった。
【C】ランククエスト
『ボーヤノ平原でファットモスの狩猟』──失敗
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件
☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。
しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった!
辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。
飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。
「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!?
元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!
「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。
しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。
永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。
追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。
「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」
その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。
実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。
一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。
これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。
彼女が最後に選択する《最適解》とは――。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった!
覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。
一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。
最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる