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第一章 フーバスタン帝国編
第17話 〈鞭!!〉
しおりを挟む「囲め囲め!」
「ミレーヌちゃん、今です!」
「ゴー! クッキー、ゴー!」
ミレーヌの号令に一切反応せず、飛んでいた虫を追いかけ回すクッキー。
俺達はクッキーの実践訓練の為、今日もサイカ草原に来ていた。
もちろん獲物はドーバードだ。
「何やってんだよ、ミレーヌ」
クッキーが全く言うことを聞かない事に肩を落とすミレーヌに追い打ちをかける。
「ちゃんとやってるんだけど、言う事聞いてくれないんだもん!」
「困ったちゃんですね~。どうしましょうか?」
「……ミレーヌ、オマエ武器は? 何使ってんの?」
「え? 聖剣ノアブライトだけど?」
はぁ~……やっぱり知力G、先が思いやられる。
「あのなぁ……はぁ……説明するのもダルいわ」
「何よ!? ちゃんと言いなさいよ」
呆れてものが言えなくなった俺に、アンナが助け舟を出す。
「ミレーヌちゃん……武器って何でも良いわけじゃないんですよ? 職業毎に向き不向きがあるんだよ」
ミレーヌはいかにも初耳だと言わんばかりの顔だ。
「アッシュさんの戦士は武器の自由度高いですけど、私の盗賊なら短剣かナイフ、神官なら杖か錫杖です。しかも聖剣は剣士や勇者の限られた人にしか扱えません」
「なら私は何使えばいいのよ?」
「猛獣使いは短剣か鞭だな。しかも鞭ならテイムに補正が掛かるだろ」
「そうなの?」
「そうなの? じゃねーよ。お前は何か指南書みたいなの読んだんじゃねーのか?」
俺の質問にミレーヌは真顔で答える。
「私が読んだのは『はじめてのペット』よ」
それを聞いたアンナと俺は膝から崩れ落ちた。
「ミレーヌちゃんは、なんで猛獣使いになろうと思ったの?」
「だって可愛い動物と一緒に戦いたいじゃない」
「アンナ、コイツはダメだ」
「……かも知れないですね~」
「ちょっとどういうことよ!?」
ここから俺とアンナの説教タイムが始まった。
なぜ転職前に猛獣使いについて調べなかったのか。
なぜペットと一緒に戦えると思ったのか。
ペットと一緒に戦うくらいなら、戦闘力の低い飛竜と一緒に戦う方がまだマシだ。
そう言った事を、渾々と説教し続けた。
「グスッ……ごめんなさい」
「別に謝って欲しいワケじゃないさ」
「そうですよ。まず聖剣を宿に置いて武器を買いに行きましょう」
「武器を買ったら、クッキーのテイムに再度挑戦だ。それでダメなら、違うテイムモンスターを検討しなきゃイケナイからな」
俺とアンナに連れられて、渋々帝都に戻ったミレーヌは宿に聖剣ノアブライトを置いて、俺達と共に例の店を訪れた。
「らっしゃい」
「客を連れてきたぞ、オヤッサンその2」
「誰がその2だ」
この男は武具屋の店主で通称オヤッサンその2だ。
なんとオヤッサンその2は、自由国家アンセムで武器屋を営むオヤッサンの双子の弟である。
「で、今日はそっちの新しい嬢ちゃんのか?」
「さすが商売上手、話が早い。このヒヨッコ猛獣使いに合う短剣か鞭が欲しい。出来ればテイムに補正の掛かる鞭がいいのだが……」
アンナが全力でお辞儀をしてお願いする。
「お願いします、オヤッサンその2! 良いの見繕って下さい!」
俺とアンナにオヤッサンその2と言われるのに、慣れたのかそれとも諦めたのか、いつしか何も言わなくなったオヤッサンその2。
「あのよぉ、そんなに都合の良い武器があるワケ……いや、あるな。ちょっと待ってろ」
そう言ってお家芸の如く、バックヤードに消えて行くオヤッサンその2。
「さすがオヤッサンその2。期待は裏切らないな」
「ですね。さすがオヤッサンその2です」
「アンタ達、いくらなんでも失礼じゃない?」
「ミレーヌはアンセム出身なんだから分かるだろ? お前の領地にある武器屋のオヤッサンの双子の弟だぞ?」
ミレーヌは相当驚いた様子である。
「言われてみれば、同じ顔してるわね……へぇ、そう……オヤッサンの弟なのね、オヤッサンその2は」
バックヤードから戻ってきたオヤッサンその2は、さすがに呆れて言葉をなくしてしまっている。
「はぁ……オメエの連れはどうなってんだ? あっという間にその2って言ってるじゃねーか!」
「コイツはオヤッサンの事知ってるんだよ。近くに住んでたから」
さすがにミレーヌの領地でオヤッサンが店を出しているとは言えない。
ミレーヌが身バレしてしまうからだ。
「ほぅ……でもアンセムは飯が不味くてダメだわな」
「ああ、それはありますね~」
オヤッサンその2の言う通り、アンセムは飯が不味い。
不味いと言うと語弊があるかもしれないが、食に関心が薄い国民性なのである。
荒野を入植者達が開拓して出来た、比較的新しい国である自由国家アンセムは、料理一つとっても歴史が浅く、名物と呼べる料理も少ない。
それに比べて、ここフーバスタン帝国や、アンナのハウンドッグ王国、俺の住んでいたノルガリア王国は歴史の古い国であるため料理の歴史も古く、フーバスタン料理、ハウンドッグ料理、ノルガリア料理を合わせて世界三大料理と呼ぶほどに飯が美味い。
「これからよ。アンセムはこれから成熟していく国なんだから」
大分話が逸れたが、鞭は見つかったのかな?
「そうそう鞭な。この鞭を見てくれ……昔、勇者がパーティーに鞭使いが居ないとかで売りに来たんだけどよ?」
ほう……あの勇者が売った逸品か。
「何でもダンジョンで手に入れた、猛獣使い専用の鞭らしいぜ?」
本当か? まあ、勇者が嘘はつかないだろうが……。
「素材は竜の髭で出来てる。それは俺が鑑定したから間違いない。竜の髭は伸縮性にも優れてるし、衝撃を加えると硬くなるし鞭の素材にゃ最高の素材なんだ」
ほう、素晴らしい。
だが、なぜそんな優れた逸品を売りに出さずに裏にしまい込んでいるんだ?
「名前がな? 嬢王の鞭ってんだ……家宝って事にして裏にしまっておく位しかできね~だろうがよ?」
「……そうか……女王じゃなくてまだ良かったな」
「ああ……ですね~……ドンマイ」
「何で? いい名前じゃない!? それに最高の鞭なんでしょ!?」
「お、おう……猛獣使いの鞭としてなら、これ以上はなかなか無いと思うぜ?」
「……よく考えろ」
「よく考えてミレーヌちゃん!」
ダメだろうな。
なんせ知力Gだから。
「うん決めた。コレ頂くわ。嬢王の鞭か……私にピッタシじゃない!」
やっぱりな。
コイツはもうダメだ。
「ミレーヌちゃ~ん……」
「嬢ちゃんが良いなら売るのは吝かじゃないんだけどな……本当に良いのか?」
「さっきからアンタ達どうしたの? 何かおかしいわよ?」
おかしいのはオマエの頭だけだ。
「買うって決めたんだから、早く買って草原行くわよ」
「もう何も言うまい」
せめて人前で武器の名前を言うのだけは勘弁してくれ。
「オマケして黒革の手袋付けとくからよ……」
「あら? 気が利くわね」
こうしてオヤッサンその2の店で、無事にミレーヌの新装備『嬢王の鞭』を手に入れる事が出来た。
店を出てすぐ、鞭を見て「へへ、嬢王の鞭か……まさに私の為にある武器ね」と言いながら、ご機嫌カーテシーをしたミレーヌと、俺とアンナが離れて歩いたのは言うまでもないだろう。
そしてサイカ草原に戻りクッキーの実践訓練を再開した。
「ゴー! クッキー!!」
パシィーーン!
ミレーヌの鞭を地面に叩きつける音が響き渡り、クッキーが素早く反応する!
「おお!」
「ミレーヌちゃん、スゴイ!」
見事クッキーは、ミレーヌの指示通りに動き、ドーバードにトドメを刺したのだ。
嬢王の鞭……名前はアレだが、テイムに補正が掛かっている事は疑いようがない。
「いい武器と巡り逢えて良かったな」
名前はアレだけど。
「そうね。あの店に連れて行ってくれたアンタ達に感謝するわ」
そう言って改めてカーテシーで感謝を表すミレーヌに、俺とアンナもカーテシーで返事をするのであった。
─────────────────────
『魔王討伐後にジョブチェンジした英雄の日常』~魔王がいなくなっても、世界は続いているのだから~
からタイトル変更しました。
よろしくお願いします。
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