『魔王討伐後にジョブチェンジした英雄達の日常』〜アシュリー、魔導士やめたってよ〜

竹山右之助

文字の大きさ
18 / 39
第一章 フーバスタン帝国編

第18話 〈思い出!!①〉

しおりを挟む
 
「じゃ、俺はこの薬草を調合依頼に出してくるから」

「本当に今日は休みでいいの?」

「毎日依頼受けてたら疲れちゃうだろ。もう魔王はいないんだし、ノンビリ行こうぜ」

「お休み~! やった~!」


 俺はフーバスタン帝国に来て、初めての休日を作る事にした。
 まあ、俺は溜まった薬草をポーションへと調合してもらうため、冒険者ギルドに錬金術師への調合依頼を出しに行ってからの休日になるのだが……。


「オマエ達はどうすんの?」

「私はですね~、お買い物に行きたいです~」

 アンナは久しぶりの休日と聞いて、心が弾んでいるようだ。


「アンナが買い物行くなら、私も一緒に行こうかな~?」

「本当ミレーヌちゃん!? やった~!」

 楽しそうで何より。
 かつてのパーティーの最年少と最年長コンビだが、昔から本当の姉妹のように仲がいい。

 俺としては、知力F&Gコンビを野に放つのは危険な気もするが、買い物するだけなら、そうそうやらかしたりはしないだろう。

 俺は一抹の不安を憶えながら二人に別れを告げた。


「じゃあ、また明日な」

「はいです~」
「じゃあね」

 俺は薬草がパンパンに入った大きなリュックを背負い、一人冒険者ギルドに向かう。
 思えばアンセムにあるミレーヌの領地で、アンナと再会してから、一日一人で動くなんて初めてかもしれない。

 気のおけない仲間達と居るのも楽しいが、俺はやはり一人も好きだ。
 そもそもが魔導士やってる奴なんて、頭でっかちのコミュ障野郎がほとんどだと思う。
 まあ、俺は? 持ち前のコミニュケーション能力と天才的魔法の才能であっという間にアイツ達と打ち解けたがな。
 今でも初めて会った日のことを、昨日のように思い出せる。


「もう五年も前になるのか……」



 ──五年前──。


「ほう……ここが大陸同盟ジャスティスの本部があるフォルテッシモか……」


 なかなか洒落た良い街ではないか。
 さすがに大陸同盟ジャスティスの中心的役割を担うハウンドッグ王国の王都なだけはある。

 大陸同盟ジャスティスに無理矢理招集されて、全然気が乗らないままフォルテッシモに来たが、この街並みを見られたのは悪くはないかもしれない。

 ハウンドッグ王国の王都フォルテッシモは、俺の住むノルガリア王国とは違って、華やかな街だった。

 歴史が古いだけが自慢のノルガリアとは違うな。
 こんな国だからこそ、地理的要因だけで無く、大陸同盟ジャスティスの中心になれたのだろう。


「さて、そろそろ時間か……」

 気が進まないが、無断で欠席すると、後でどんなペナルティを課せられるか分からない。
 大人しく晩餐会に出席するか……。


 晩餐会には大陸同盟ジャスティスの盟主達を含む、加盟国のほとんどの重鎮が参加していた。
 そのため並ぶ料理の数々は、世界三大料理に数えられるハウンドッグ料理の贅を尽くした物が並べられていた。

 スゲエご馳走だけど、魔王軍と衝突している国の中には、前線に送る食料が不足している国もあると聞くのに……何やってんだコイツらは?
 本当に状況分かってんのか?

 俺はその中から、サラダを皿に取り分け食べていた。


「……ん?」

 俺が豪華すぎる料理に苛立ちを覚えていると、視界の隅に、有り得ない勢いで料理にがっつく一人の女が見えた。


「うわ……きったね」

 せっかく美人ぽいのに、とにかく食い方が汚い。
 パラパラとこぼしながら、口に入るだけ食べ物を詰め込んでいる。
 その端正で整った顔立ちも、スラリとした美しいスタイルも全て台無しである。

 ナイフとフォークを使う習慣はないのか?
 ほら、無茶苦茶な食べ方してるから、喉つまらせちゃってるじゃんか。

 それを遠巻きに見ていると、一人の女神官が飲み物を持って食べ方の汚い女に駆け寄り、飲み物を渡して背中をさすっている。


「さすが神官……慈悲の心はあんなところにまで向けられるんだな」

 そんな事よりあの女神官、神官の儀式用のローブを着ているのだか、その上からでも分かるくらいの巨乳の持ち主だ。
 しかもカワイイ。

 スゴイな……神官とかの聖職者は、慎ましい食生活送ってると思ってたけど、良い物食べてるんだな。
 質素な食い物じゃ、あんな巨乳には成長しないだろ。


「いやーん、照れてる~」
「今度はこちらの料理も食べてごらんになって」
「今度は私の番よ~?」


 ……なんだアレは?
 一人の可愛らしい少年に、年増のお姉様方が群がっている。
 ああいう手合いの可愛らしい顔が、年上お姉様の母性を激しくくすぐるのだろうか?
 別に悔しくとも何ともないが、敢えて言わせてもらおう……。


「年増になんてモテたくないんだからね!」

 おっと、誰にも聞かれていないだろうな?
 俺の天才魔導士としてのイメージが壊れてしまうところだった。


 そう言えば、今日はフーバスタン帝国は参加していないんだったな。
 せっかく勇者に会えると思ったのだが、仕方ない。



『それではご来賓の皆様、ここで大陸同盟ジャスティスを代表して、ハウンドッグ王国オートゥモ国王から重大な発表が御座います。暫しの間、手を休めて御拝聴下さいますようお願い致します』

 なんだ?
 何がはじまる?


『え~、ハウンドッグ王国国王オートゥモです。お集まりの皆様、本日はお忙しい中、大陸同盟ジャスティス主催の晩餐会に足をお運びいただき、誠にありがとうございます。本日、世界の国々でご活躍の皆様にお集まりいただいたのは、対魔王軍スペシャルパーティーの結成を発表するからであります!』

 対魔王軍スペシャルパーティーだぁ?
 嫌な予感がするぜ。


『数年前のある日、フーバスタン帝国のとある町で、勇者の資質を持つ者が発見されました。これには世界中がお祭り騒ぎになったのも記憶に新しいと思います。ですが勇者に全てを託してしまってよいのでしょうか?大陸同盟ジャスティス大陸同盟ジャスティスで、魔王軍に対する剣を持つべきではないでしょうか?』

 このオートゥモ国王の演説に、各国の代表達がそうだ、そうだと賛同する。


『そして大陸同盟ジャスティスの国々の中から、特に力のある四人の冒険者を集め、対魔王軍スペシャルパーティーを結成させる事に相成りました。呼ばれた者は壇上へ……我がハウンドッグから神官アンナ・フランシェスカ!』


「え? ええ~!! 聞いてないですよ~!」


 おお! という各国代表の驚きの声と、巨乳の女神官の悲鳴とが入り乱れる。


『次に、南の大陸国オムシアランドより闘技場の覇者、拳闘士カイ・バンスロー!』


「おお! 闘技場で負けなしの、あのカイ・バンスローか!!」
「凄いぞ」

 いや、誰だよ。聞いた事ねーよ。


『次に東の大陸自由国家アンセムより、剣の腕なら勇者に勝ると噂される女剣士ミレーヌ・モロー!』


「なんと、勇者よりも剣の腕が上とは……」

 それあくまでも噂でしょ!?
 なんで確かめておかないのかな~!?
 しかもアイツ、食べ方の汚い女じゃん。
 うへ~、口の周りにソース付いてるよ~。
 見た目とは裏腹に残念な子だなぁ。


『そして最後に、東の大陸ノルガリア王国から、16歳ながらも数々の固有魔法を使い、この者に使えぬ魔法は無いと言われる天才魔導士アシュリー……クロウ……リィ~~~!!』


『今名前を呼ばれた者は、すぐ壇上に上がって下さい』


 ……上がるよ? そりゃ呼ばれちゃったから壇上には上がるよ?
 でもなんで?
 なんで俺の名前だけ、拳闘の選手入場みたいにタメて巻き舌気味に言ったの!?
 ねぇ? だれか説明して!

 そしてこの時が、後に英雄と呼ばれる四人が初めて並んで立った瞬間である。


『え~、急ではあるが、この者達が今日より対魔王軍スペシャルパーティーとなります。力を合わせ、世界のために死力を尽くすように』


 一方的に決めて強制的にパーティー組ませておいて、死力を尽くすも糞もないだろう。

『君達四人のS級冒険者に世界の命運がかかっておる。頼んだぞ』

 こうして俺たちは強制的にパーティーを組まされた四人の冒険が、ここから始まったのであった。




─────────────────────

タイトルをコロコロと変更して申し訳ありません。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、チート能力だったと判明し、スローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

☆ほしい
ファンタジー
勇者パーティーで「役立たず」と蔑まれ、役立たずスキル【畑耕し】と共に辺境の地へ追放された農夫のアルス。 しかし、そのスキルは一度種をまけば無限に作物が収穫でき、しかも極上の品質になるという規格外のチート能力だった! 辺境でひっそりと自給自足のスローライフを始めたアルスだったが、彼の作る作物はあまりにも美味しく、栄養価も高いため、あっという間に噂が広まってしまう。 飢饉に苦しむ隣国、貴重な薬草を求める冒険者、そしてアルスを追放した勇者パーティーまでもが、彼の元を訪れるように。 「もう誰にも迷惑はかけない」と静かに暮らしたいアルスだったが、彼の作る作物は国家間のバランスをも揺るがし始め、いつしか世界情勢の中心に…!? 元・役立たず農夫の、無自覚な成り上がり譚、開幕!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

追放された荷物持ち、【分解】と【再構築】で万物創造師になる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~

黒崎隼人
ファンタジー
勇者パーティーから「足手まとい」と捨てられた荷物持ちのベルク。しかし、彼が持つ外れスキル【分解】と【再構築】は、万物を意のままに創り変える「神の御業」だった! 覚醒した彼は、虐げられていた聖女ルナを救い、辺境で悠々自適なスローライフを開始する。壊れた伝説の剣を直し、ゴミから最強装備を量産し、やがて彼は世界を救う英雄へ。 一方、彼を捨てた勇者たちは没落の一途を辿り……。 最強の職人が送る、痛快な大逆転&ざまぁファンタジー!

「人の心がない」と追放された公爵令嬢は、感情を情報として分析する元魔王でした。辺境で静かに暮らしたいだけなのに、氷の聖女と崇められています

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は人の心を持たない失敗作の聖女だ」――公爵令嬢リディアは、人の感情を《情報データ》としてしか認識できない特異な体質ゆえに、偽りの聖女の讒言によって北の果てへと追放された。 しかし、彼女の正体は、かつて世界を支配した《感情を喰らう魔族の女王》。 永い眠りの果てに転生した彼女にとって、人間の複雑な感情は最高の研究サンプルでしかない。 追放先の貧しい辺境で、リディアは静かな観察の日々を始める。 「領地の問題点は、各パラメータの最適化不足に起因するエラーです」 その類稀なる分析能力で、原因不明の奇病から経済問題まで次々と最適解を導き出すリディアは、いつしか領民から「氷の聖女様」と畏敬の念を込めて呼ばれるようになっていた。 実直な辺境伯カイウス、そして彼女の正体を見抜く神狼フェンリルとの出会いは、感情を知らない彼女の内に、解析不能な温かい《ノイズ》を生み出していく。 一方、リディアを追放した王都は「虚無の呪い」に沈み、崩壊の危機に瀕していた。 これは、感情なき元魔王女が、人間社会をクールに観測し、やがて自らの存在意義を見出していく、静かで少しだけ温かい異世界ファンタジー。 彼女が最後に選択する《最適解》とは――。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...