12 / 90
第一章
どんな羞恥プレイだよ
しおりを挟む考えるだけでゾッとした。
先生は端の席から一人一人順番に立たせて同じ挨拶をさせている。
いずれ俺の番が来たら、俺も「都先生、大好きです!」をやらなきゃいけないのか?
「都先生、大好きです!」
「うんうん。私も大好き! 一緒に楽しい一年を送りましょうねー!」
茶番のようなやり取りが続き、やがて例の女子生徒の番が回ってきた。階段の踊り場で会ったあの女だ。あれだけ気の強い彼女も、こんなふざけたやり取りに付き合うのだろうか。
一体どんな振る舞いをするのかと俺が固唾を呑んで見守る中、彼女はゆっくりとその場に立ち上がると、桜色の唇を開いた。
「水無瀬澪です。都先生、大好きです」
鈴を転がすような声でそう言って、ふわりと微笑を浮かべた彼女は、これ以上になく絵になった。
ほう……と誰もが溜息を吐く空気感があった。
悔しいが、こいつは見た目だけは完璧すぎる。
「うふふ。水無瀬さんはとっても可愛いですね。私も大好きです!」
先生は変わらぬ笑顔でそう返すが、本当に心からそう思っているのだろうか。
クラスの全員に同じように「大好き」と伝える天上先生。まるで流れ作業のように口にするその言葉には、本当に感情が込められているのだろうか。
「ね……猫屋敷レオです! み、み、都先生、大好きです!!」
例の眼鏡男子はどもりながらも自己紹介と愛の言葉をしっかりと口にする。彼だけは先生への愛が本物に見えた。
「色紙蒼斗です。都先生、大好きです」
これは隣のイケメンである。彼は他の生徒と違ってイスから立ち上がることはしなかったが、澄まし顔で例の言葉をしっかりと口にした。
そうしていよいよ俺の番がやってくる。
さすがにここまできて反発する勇気はなく、
「……七嶋八尋です。その……都先生、大好き……です」
ぼそぼそと呟くように言うと、途端にかあっと顔面が熱くなった。
俺は一体何を言わされているのだろう?
「あらあら。初々しくて可愛いですねー。私も大好きですよ、七嶋君!」
その場の空気に流されてつい阿呆みたいなセリフを言ってしまったが、なんだこれ。どんな羞恥プレイだよ。
最終的にはクラスの全員が「都先生、大好き」を口にした。
同調圧力で言わされたのか、あるいは俺以外の全員がグルだったのか。わからないまま、その日は解散の流れとなった。
種明かしも何もない。ということは、これはドッキリでも何でもないということか?
先生の号令でさよならの挨拶を済ませると、クラスメイトたちは再び覇気のない顔に戻ってそれぞれ帰路についた。
訳がわからずに狼狽えているのは、この教室の中でたった一人、俺だけだった。
6
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる