催眠教室

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第一章

どんな羞恥プレイだよ

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 考えるだけでゾッとした。

 先生は端の席から一人一人順番に立たせて同じ挨拶をさせている。
 いずれ俺の番が来たら、俺も「都先生、大好きです!」をやらなきゃいけないのか?

「都先生、大好きです!」

「うんうん。私も大好き! 一緒に楽しい一年を送りましょうねー!」

 茶番のようなやり取りが続き、やがて例の女子生徒の番が回ってきた。階段の踊り場で会ったあの女だ。あれだけ気の強い彼女も、こんなふざけたやり取りに付き合うのだろうか。

 一体どんな振る舞いをするのかと俺が固唾を呑んで見守る中、彼女はゆっくりとその場に立ち上がると、桜色の唇を開いた。

水無瀬みなせみおです。都先生、大好きです」

 鈴を転がすような声でそう言って、ふわりと微笑を浮かべた彼女は、これ以上になく絵になった。

 ほう……と誰もが溜息を吐く空気感があった。
 悔しいが、こいつは見た目だけは完璧すぎる。

「うふふ。水無瀬さんはとっても可愛いですね。私も大好きです!」

 先生は変わらぬ笑顔でそう返すが、本当に心からそう思っているのだろうか。
 クラスの全員に同じように「大好き」と伝える天上先生。まるで流れ作業のように口にするその言葉には、本当に感情が込められているのだろうか。

「ね……猫屋敷レオです! み、み、都先生、大好きです!!」

 例の眼鏡男子はどもりながらも自己紹介と愛の言葉をしっかりと口にする。彼だけは先生への愛が本物に見えた。

色紙しきがみ蒼斗あおとです。都先生、大好きです」

 これは隣のイケメンである。彼は他の生徒と違ってイスから立ち上がることはしなかったが、澄まし顔で例の言葉をしっかりと口にした。

 そうしていよいよ俺の番がやってくる。
 さすがにここまできて反発する勇気はなく、

「……七嶋八尋です。その……都先生、大好き……です」

 ぼそぼそと呟くように言うと、途端にかあっと顔面が熱くなった。
 俺は一体何を言わされているのだろう?

「あらあら。初々しくて可愛いですねー。私も大好きですよ、七嶋君!」

 その場の空気に流されてつい阿呆みたいなセリフを言ってしまったが、なんだこれ。どんな羞恥プレイだよ。

 最終的にはクラスの全員が「都先生、大好き」を口にした。
 同調圧力で言わされたのか、あるいは俺以外の全員がグルだったのか。わからないまま、その日は解散の流れとなった。

 種明かしも何もない。ということは、これはドッキリでも何でもないということか?

 先生の号令でさよならの挨拶を済ませると、クラスメイトたちは再び覇気のない顔に戻ってそれぞれ帰路についた。
 訳がわからずに狼狽えているのは、この教室の中でたった一人、俺だけだった。
 
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