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第一章
何かのドッキリか?
しおりを挟む本日二度目の「は?」である。
あやうく声に出すところだった。
『私のことを大好きになってもらう』?
そろそろ誰かにツッコミを入れてほしいところだが、いかんせんこのクラスの生徒には適任がいない。
反発する人間がいないのを良いことに、天上先生の冗談はどんどんエスカレートする。
「では皆さん。もう私のことは大好きになってくれましたよね? なりましたっていう人は手を挙げてくださーい!」
まるで幼稚園でやるような挙手の催促を、彼女は恥ずかしげもなく口にする。
誰がそんな遊びに付き合うか、と思わず鼻で笑った俺の周りで、
「「「はあああぁ————いっ!!」」」
一斉に。
俺以外のクラスメイトたちが本当に一斉に、イスを蹴飛ばしながら立ち上がって挙手をした。
あまりに突然の出来事に、俺は固まっていた。
「…………えっ」
何かのドッキリか? と疑いたくなるほど不自然な光景だった。
いやいや。
え?
だって、こいつらこんなキャラだったか?
さっきまでは教室中が陰鬱として、先生に対しても挨拶一つ返さなかったくせに、何だこれ。
「うふふ。先生うれしいなぁー」
教壇に立つ天上先生は本当に嬉しそうにニコニコしている。
ちょうど俺の斜め前で立ち上がった男子が高身長だったので、俺はその陰に隠れて先生からは見えていないらしい。
この場合、俺はどうするのが正解なのだろう? 周りに合わせて立ち上がるべきか?
迷いながらも辺りを見渡してみると、隣の席に座る例のイケメンと目が合った。
(あれ?)
改めて見てみれば、隣のこいつだけは俺と同じように席に座ったままだった。机に頬杖をつき、気怠げにこちらを見つめている。
もしかして、と俺はあることに思い当たる。
「な、なぁ。もしかして……あんたも俺と同じなのか?」
周りの生徒たちと違って、こいつも現状を飲み込めていないのかもしれない。
半ばパニックになっていた俺は極力小さな声でそう問いかけたが、しかし彼は無駄に形の良い唇をゆっくり開くと、
「都先生ばんざーい」
まるで俺を嘲笑うかのように、口元にうっすらと笑みを浮かべてそう言ったのだった。
「「「都先生ばんざ————い!!」」」
復唱するように、周りの面々が大声で叫んだ。
都先生万歳。
なんだこれは。何かの宗教?
教室内でたったひとり戸惑う俺には構わず、ひとしきり叫んで満足したクラスメイトたちは再び一斉に着席した。
「うんうん。みんな良い子で先生は嬉しいですよー! さあ、それじゃあいよいよ自己紹介いってみよっか!」
もはやお祭り気分の天上先生は、入口から一番近い席の生徒に声をかけて立たせる。指名された男子生徒はまず自分のフルネームを紹介した後、
「都先生、大好きです!」
熱烈な愛の言葉を叫び、着席した。
「いいね、いいね。その調子! それじゃ、次の人ー!」
先生に促され、すぐ後ろの席に座っていた生徒が入れ替わりで立ち上がり、同じようにフルネームと愛の言葉を叫んでから着席する。
(これってまさか……全員がこれをやるのか?)
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