催眠教室

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第一章

催眠術

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「催眠術?」

 彼女が発した突拍子もないワードに、俺は目をしばたたく。

「催眠術……っていうと、あれか? 『あなたは段々眠くなる』……とか、そういう?」

「そ。相手に暗示をかけて、自分の思い通りの行動をさせるの。天上先生はたぶん、催眠術を使ってあのA組の連中を操ってるのよ」

 大真面目に語る彼女を見て、俺は呆然とする。

 確かにあのクラスの雰囲気は異常で、何か特別なカラクリでもない限り説明はつかないように思う。けれどだからといって、よりにもよってそれが催眠術だなんて。

「なあ、水無瀬。それ本気で言ってるのか?」

 さすがに話がぶっ飛びすぎてて、俺の頭はやけに冷静になった。その場に膝をついていた体をゆっくりと立たせ、困惑を隠せないまま彼女を見る。

「あたしだって、こんなの馬鹿げた話だと思ってるわよ。でも、そうとしか思えないの。だって、あのA組の生徒は……最初は誰一人として挨拶も出来ないくらいに暗ーい顔をしてたでしょう? 正直、病んでるとしか思えなかったわ。それがなぜか、あの天上先生が声をかけた途端、急に別人みたいに活動的になったの。あんなの普通じゃ考えられないわ」

 彼女の言うことにも一理ある。確かにA組の連中は、最初のうちこそ見るからに情緒不安定だった。それが途中からまるで人が変わったように様子が豹変したのだ。それは俺も目の当たりにしている。

 けれど、それにしたって。

「そりゃあ俺だって、何かが変だとは思ってるよ。でもだからって、さすがに催眠術なんて……」

「ねえ、七嶋くん。昨日、天上先生が妙なことを言ってたのを覚えてる?」

「妙なこと?」

 あの先生は常に妙なことばかり言っている気がするが——と眉を顰める俺に、水無瀬は、

「A組のみんながおかしくなる前よ。ちょうど自己紹介タイムが始まるあたりだったと思う」

 言われて、俺は改めてそのときの様子を振り返った。

 ——はい、注目! 皆さん、ちゃんとこっちを向いてくださいねー!

 黒板の前に立つ天上先生。
 鬱屈としたクラスの雰囲気に飲まれることなく、マイペースにニコニコと笑顔を振り撒く彼女は、手を叩いて教え子たちの注意を引いていた。

 そして、

 ——いいですか? あなたたちはこれから一年間、私の思い通りに動いてもらいます。

 冗談にしては趣味の悪い、およそ教師の言葉とは思えないようなことを口にしていた。

「……ああ。あれか。『私の思い通りに動いてもらいます』ってやつ?」

「そう、それ。あと、その直前にもう一つ。先生はクラスのみんなの注意を引いてから、『私の目をよく見てください』って言ってたの。覚えてる?」

 そういえば、そんなことも言っていたっけ。

「A組のみんなはあのとき、先生の目を見つめて催眠術にかかったのよ。だからあの後、彼らは先生の言葉に従って豹変した……そう考えれば辻褄が合うでしょう?」
 
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