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第三章
それぞれの時代
しおりを挟む「二〇〇五年って……。ちょっと待て。そんな前なのか? いや、そもそも。この世界はいま西暦何年の設定なんだ?」
思わぬ数字が出たことで狼狽する俺を、色紙はニヤニヤと見つめながら言う。
「この世界の大枠は天上先生が作ったけど、オレたちの私物とか、細かい部分はオレたちの記憶から作られてる。だからオレたち一人一人の認識の違いによって、この世界には矛盾が生じるんだよ。猫屋敷のこのガラケーもそうだな」
それを聞いて、俺は困惑したまま隣の水無瀬を見る。
すると彼女も俺と似たような顔をして、
「七嶋くん。あなたは……。あなたが高校一年生だったのは、西暦何年なの?」
「俺は……」
今の俺にとっての『今年』。西暦の数字を思い出す。
「俺が高一だったのは……二〇一九年だ」
答えながら、いま現実では西暦何年になっているのだろう、と思った。
それに水無瀬も——と、俺が彼女に目をやると、彼女もまた覚悟を決めたように言う。
「あたしは二〇二二年だったわ」
二〇二二年。
つまり水無瀬は、現実では俺より三つ年下ということか。
「ねえ色紙。あなたは何年だったの?」
水無瀬は次に色紙を見て聞く。だが、
「オレは秘密ー」
彼はこちらを小馬鹿にするように言って、チキンナゲットを口に放り込む。
「あんたね。あたしの奴隷でしょ。ちゃんと質問に答えなさい」
「はあー? それ、まだ続けるのかよ」
色紙はぶつぶつ言いながらも、咀嚼したナゲットを嚥下すると、イスの背もたれに体を預けて答える。
「あんたらよりは若いよ。あんたらと違って、オレだけ現実の記憶があるのがその証拠」
「それってつまり、あなただけは現実と同じ年齢でこの世界に来てるってこと?」
俺を含めたA組の生徒たちは全員、実際に高校生だった当時の記憶を保持している。
なら、今も現実の記憶を持ったままの色紙は、現実の世界でも高校一年生なのかもしれない。
「今が西暦何年か、って話だったよな。現実は今、二〇二五年だよ」
二〇二五年。
色紙がやっと口を割ったことで、俺たちは現実での自分の年齢を知ることになった。
「二〇二五年? てことは俺は……本当は二十一歳なのか。浪人や就職をしてなければ、大学四年生だな」
全く実感は湧かないが、計算上ではそういうことになる。
「あたしは十八歳ね。大学に通ってるなら一年生だわ」
水無瀬も同じように己の年齢を導き出す。その斜め向かいから、猫屋敷がびっくりしたような声を出す。
「えっ、十八? 十代ってことはまだ子どもだよね? 全員大人って言ってなかったっけ」
「十八歳はもう大人よ。以前は二十歳で成人だったけど、今は成人年齢が十八歳まで引き下げられたの」
水無瀬の説明を聞いて、そういえば俺もそんな法案が可決されたって聞いたな、と思い出す。
二〇十九年までの記憶を保持する俺にとって、成人年齢引き下げの施行は未来のことだった。
そして猫屋敷は——おそらく一人だけ三十代である彼は、そんな法案が通ったことなど知る由もなかった。
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