66 / 90
第三章
教室内の変化
しおりを挟む◯
A組の教室に入ると、相変わらず暗い顔をした被験者たちが俺を出迎えた。
まるで遊び盛りの高校生たちが集まっているとは思えない、どんよりとした空間である。
ただ、その中に数人だけ、以前よりもわずかに顔色が良くなったように見える生徒もいた。天上先生による荒療治の効果が少しずつ出始めているのかもしれない。
中でも猫屋敷は、無駄にテンションの高い声で「七嶋くん、おはよう!!」と、教室のみならず廊下まで響く挨拶をかましてくる。
「うん。おはよう、猫屋敷……」
クラスメイトたちの中で自然に挨拶ができるようになった記念すべき一人目が猫屋敷、というのは、ちょっと複雑な気分だった。
だが、
「おはよう、七嶋くん」
と、教室の真ん中辺りから凛とした声が届く。
見ると、先に席に着いていた水無瀬がこちらに微笑を向けていた。彼女からこうして教室内で声をかけられるのは初めてのことだった。
「あ、ああ。おはよう水無瀬」
つい、ぎこちない返事になってしまった。クラスの女の子とこうして自然に挨拶をしたのは何年ぶりだろう?
俺が席に着いた後、予鈴ギリギリになって色紙がのんびりと教室へ入ってくる。
やがて本鈴が校舎内に鳴り響くのと同時に、天上先生がいつもの白衣姿でやってきた。
「皆さん、お揃いですね。それでは、全員起立!」
例によって号令は先生がかける。途端にクラスメイトたちは勢いよくその場に立ち上がって、
「「「おはようございま———す!!!」」」
耳を塞ぎたくなるほどの大声で、先生への熱烈な挨拶を飛ばした。
「うんうん。皆さん元気があって良いですね! 連休中はたくさん羽を伸ばせましたか?」
先生は相変わらずニコニコとした表情で教室内を見渡す。これだけフレンドリーな対応をするくせに、教え子の顔と名前は一切覚えようとしないところに闇を感じる。
所詮、俺たちは実験用のモルモットでしかないのだろう。脳科学のマッドサイエンティストは、どうやら実験材料の名前をいちいち覚える気はないらしい。
「さーて。本日の一時間目はホームルームですね!」
先生がそう言うと、俺と水無瀬は無言で互いの視線を交差させる。
今回のホームルームもおそらくは自習で、クラスの中から一人ずつ別室へ呼ばれていくのだろう。
ここで洗脳されてたまるか! と、俺と水無瀬は今回も保健室へ避難しようと挙手をしたが、
「えーっと、今日は七嶋くんと水無瀬さんと、それから色紙くんと猫屋敷くん。以上四名はこれから私と一緒に来てください。他の皆さんは自習をしていてくださいね!」
「…………えっ?」
17
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる