催眠教室

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第三章

教室内の変化

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          ◯


 A組の教室に入ると、相変わらず暗い顔をした被験者クラスメイトたちが俺を出迎えた。
 まるで遊び盛りの高校生たちが集まっているとは思えない、どんよりとした空間である。

 ただ、その中に数人だけ、以前よりもわずかに顔色が良くなったように見える生徒もいた。天上先生による荒療治の効果が少しずつ出始めているのかもしれない。

 中でも猫屋敷は、無駄にテンションの高い声で「七嶋くん、おはよう!!」と、教室のみならず廊下まで響く挨拶をかましてくる。

「うん。おはよう、猫屋敷……」

 クラスメイトたちの中で自然に挨拶ができるようになった記念すべき一人目が猫屋敷、というのは、ちょっと複雑な気分だった。
 だが、

「おはよう、七嶋くん」

 と、教室の真ん中辺りから凛とした声が届く。

 見ると、先に席に着いていた水無瀬がこちらに微笑を向けていた。彼女からこうして教室内で声をかけられるのは初めてのことだった。

「あ、ああ。おはよう水無瀬」

 つい、ぎこちない返事になってしまった。クラスの女の子とこうして自然に挨拶をしたのは何年ぶりだろう?

 俺が席に着いた後、予鈴ギリギリになって色紙がのんびりと教室へ入ってくる。
 やがて本鈴が校舎内に鳴り響くのと同時に、天上先生がいつもの白衣姿でやってきた。

「皆さん、お揃いですね。それでは、全員起立!」

 例によって号令は先生がかける。途端にクラスメイトたちは勢いよくその場に立ち上がって、

「「「おはようございま———す!!!」」」

 耳を塞ぎたくなるほどの大声で、先生への熱烈な挨拶を飛ばした。

「うんうん。皆さん元気があって良いですね! 連休中はたくさん羽を伸ばせましたか?」

 先生は相変わらずニコニコとした表情で教室内を見渡す。これだけフレンドリーな対応をするくせに、教え子の顔と名前は一切覚えようとしないところに闇を感じる。

 所詮、俺たちは実験用のモルモットでしかないのだろう。脳科学のマッドサイエンティストは、どうやら実験材料の名前をいちいち覚える気はないらしい。

「さーて。本日の一時間目はホームルームですね!」

 先生がそう言うと、俺と水無瀬は無言で互いの視線を交差させる。

 今回のホームルームもおそらくは自習で、クラスの中から一人ずつ別室へ呼ばれていくのだろう。
 ここで洗脳されてたまるか! と、俺と水無瀬は今回も保健室へ避難しようと挙手をしたが、

「えーっと、今日は七嶋くんと水無瀬さんと、それから色紙くんと猫屋敷くん。以上四名はこれから私と一緒に来てください。他の皆さんは自習をしていてくださいね!」

「…………えっ?」
 
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