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第三章
色紙蒼斗の正体
しおりを挟むそのまま、彼女はベッドを挟んで斜め向かいの——色紙の方を見る。
「まず、色紙蒼斗くん。あなたは、本物の色紙蒼斗くんではありませんね? 誰か別人と入れ替わっているんじゃないかしら」
さらりと述べられたその内容に、俺は困惑した。
「別人? どういうことだ?」
言っている意味がよくわからない。
水無瀬と猫屋敷も同じように首を傾げる中、先生は手元のタブレットをひっくり返らせて、俺たちにも画面が見えるようにした。
「本物の色紙蒼斗くんは、この子よ」
眼前にさらされたのは、履歴書のような画像だった。『色紙蒼斗』という名前とともに、詳細なプロフィールがずらりと並べられている。そして左上に添付されている写真は、
「え。これが色紙……?」
水無瀬は訝しげに眉を顰める。
証明写真よろしく縦長の枠に写っていたのは、あきらかに肥満体型の成人男性の顔だった。鼻が丸く、目は細い。ヒゲ面でどこか清潔感に欠けるその容貌は、今ここにいる色紙とは似ても似つかなかった。
「実験の被験者として選ばれた本物の色紙蒼斗くんは、現在二十三歳。人の見た目は年齢や体型によっても印象は変わるけれど、さすがにここまで面影がなくなるとは考えにくいでしょう?」
先生の言う通りである。いくら年齢が違うからといっても、これでは完全に別人だ。
「色紙くん。あなたは本来、この実験の参加者として認められている人物ではありませんね? この実験への参加資格は、提携しているメンタルクリニックに通う患者で、重度の精神障害を持ち、かつ成人済みであること。……あなたはおそらく、その参加資格を満たしてはいなかった。けれど、被験者の一人と入れ替わることで、私に気づかれないようにしてこの世界にやってきたのですね?」
全員の視線が、色紙のもとへと集まる。
当の彼は腕組みをしたまま、明後日の方角を向いて黙りを決め込んだ。
その様子に、天上先生は腹を立てる様子もなく、穏やかな微笑を浮かべて言った。
「実は、あなたの正体についてはすでに目星が付いています。あなたはおそらく、年齢制限によってこの実験の参加資格を得られなかった男の子。現実ではまだ小学六年生の、九条昴くんですね?」
その名前が挙がった瞬間、色紙はわずかに目を見開いて、天上先生の方を見た。
先生はまたタブレットで別のページを表示して、その場の全員に見えるようにする。
「ほら。この子が九条昴くん。メンタルクリニックのカルテにあったの。あなたにそっくりでしょう?」
示されたページには、『九条昴』のプロフィールとともに、今ここにいる色紙をそのまま幼くしたような、細身の美少年の写真が貼り付けられていた。
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