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第四章
答え合わせ
しおりを挟む「その通りです」
男性の返答に、俺は全身の力が一気に抜けていくのを感じた。
ここは現実。
俺たちの元いた世界。
二十一歳の大学四年生となった俺は、この場所で天上先生の実験に参加したのだ。
そう認識した瞬間、それまで忘れていた全ての記憶が急激に蘇ってくる。
中学の頃に乃々を失い、極度の人間不信から幻覚症状を患って、そこから高校、大学へと進学する間も友人と呼べる存在は皆無だったこと。
勉学に励む傍ら、メンタルクリニックにも通い続けたが、精神面で特に改善は見られなかったこと。
そして去年から始めた就職活動も思うように結果が振るわず、未だに内定がゼロであること。
(そうか。俺……このままじゃ一生就職できないと思って、この実験に参加したんだ)
成人してもなお、被害妄想と乃々の幻覚に悩まされ続けた俺は、とてもじゃないが社会に出てやっていける自信がなかった。
就職面接でもボロが出て、最終面接に辿り着く前に必ずどこかで落とされてしまう。
だから、最後の望みをかけて。藁にもすがる思いで、天上先生の研究に身を委ねたのだ。
俺が問診を受けている間に、隣のベッドでは水無瀬が同じように別のスタッフと会話をしていた。
過去に自殺未遂をしたという彼女だが、今は至極落ち着いた様子で受け答えができている。
箱庭の世界で出会った俺の存在が、少しでも彼女の支えになっていればと願ってやまない。
「ちょっ。痛いって。放せって!」
と、今度は部屋の隅の方から何やら揉めている声が聞こえた。
見ると、白衣を着たスタッフが二人がかりで一人の子ども押さえつけようとしている。
(あれは……)
スタッフの間で暴れていたのは、小学校高学年くらいの少年だった。
身長が百五十センチもなさそうな小柄な体で、纏った病衣はぶかぶかである。そしてその顔は、遠目からでもはっきりとわかるくらいの美少年のそれだった。
まさかと思って俺が凝視していると、それに気づいた問診の男性が説明を加える。
「ああ。あの子は今回の実験の参加者ではありませんよ。けれど、いつのまにか忍び込んだみたいで……」
説明を聞きながら、俺はあの少年が九条昴であることを確信する。
「とんだイタズラ者ですよ。さすがに擁護できないので、あの子とその保護者にはそれなりのペナルティが課されるでしょうね」
彼は実験の参加資格すら持っていなかったが、被験者の一人である色紙蒼斗と入れ替わることで、俺たちと同じ世界へやってきた。
本当に、とんだイタズラ者である。
思えばあちらの世界でも、俺たちがどれだけあいつに振り回されてきたか。
でも。
「あの……。あいつのこと、できれば大目に見てやってくれませんか?」
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