日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します!

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!

文字の大きさ
57 / 62
Chapter #4

会えない

しおりを挟む
 
「みさきち、今ちょっといい?」

 大学の昼休み。

 ふらりと食堂の方へ立ち寄った私に、舞恋が声をかけてきた。
 その顔は明らかに不機嫌さを露わにしている。

 何? とそれとなく返したものの、これからどんな話を振られるのかは大方予想がついていた。

「カヒンと何かあったでしょ」

 指摘されて、やっぱりそれか、と思う。

「何かって?」

「とぼけないでよ。私だって彼の連絡先ぐらい知ってるんだから、何かあれば私の耳にも情報は入ってくるんだよ」

「カヒンに聞いたの?」

「カヒンと、ともひろ」

 その名前もまたか、と思う。

 ともひろという日本人は舞恋の元クラスメイトであるのと同時に、カヒンの知り合いでもある。
 二人はもともと面識がなかったようだが、舞恋の友人同士ということもあっていつのまにか繋がりが出来たらしい。

 さすがにしらを切るのは難しいと判断した私は、仕方なく舞恋に従って二人で昼食のテーブルに着く。

「で? なんでカヒンにあんなこと言ったの?」

「飛行機の話?」

 学食のオムライスをスプーンで突きながら私が聞くと、

「飛行機をキャンセルしろって言ったのもそうだし、日本に来ないでって言ったのもそう!」

 と、舞恋は手元のハンバーグにフォークを突き刺しながら言う。

「なんで急にそんなこと言い出したの? カヒンはさ、みさきちに会うためにすっごく頑張ってるんだよ。日本までの旅費も自分で稼いでさ、最近は働き過ぎで勉強時間が減って、クラスのランクもちょっと下がったらしいし。こんな優しい彼氏なんてそうそういるもんじゃないよ。なのにどうして——」

「だからだよ」

 舞恋の声を遮り、私は語気を強めて言った。
 一瞬だけ周りが静かになったような気がしたけれど、構わず続ける。

「カヒンが優しいなんてこと、私だってよく知ってるよ。気配りができて、私を喜ばせることをたくさんしてくれて、私がどんな態度をとっても笑って許してくれる……本当に、私には勿体ないくらい優しい人なんだよ。だからこそ、これ以上彼に迷惑をかけたくないの。私と一緒にいても、きっと彼は幸せにはなれないだろうから」

 言いながら、胸の奥でカヒンとの思い出が蘇る。

 ブリスベン空港で初めて会ったときのこと。
 プレイスメントテストの日に『ガンバッテ』と言ってくれたこと。
 電話をかけたらすぐに会いに来てくれたこと。
 一緒にお祭りへ行ったこと。
 ゴールドコーストや遊園地にも行ったこと。
 そして、一緒に遊んだ帰りはいつも、必ず家まで送り届けてくれたこと。

 どれもこれも、優しい思い出ばかりだ。

 そして、彼からこれだけたくさんのものを与えられていながら、私は何一つお返しすることができなかった。

「私は……彼の足枷あしかせになりたくないの。私のために、彼が勉強をおろそかにしたり、働き詰めで体調を崩すなんて嫌。私なんかのために、これ以上彼を犠牲にしたくないの」

「犠牲って、そんな大袈裟な……。何もそこまで自分を卑下することないじゃん」

 舞恋は顔を引き攣らせながら、それでも負けじとこちらに問いかける。

「なら、カヒンの気持ちはどうなるのさ? 彼がそうやって優しくしてくれるのは、みさきちのことが好きだからでしょ? 今回の日本行きだって、彼がみさきちに会いたいから来るんでしょ? そんな彼の気持ちを、みさきちは踏みにじろうっていうの?」

 彼の気持ち。

 それに関しては本当に申し訳ないと思っている。

 私だって、自分がもっと立派な人間なら、彼の気持ちを真正面から受け止めたかった。

「みさきちだって、別にカヒンのことが嫌いになったわけじゃないんでしょ? お互いに好き同士ならさ、わざわざ自分から離れようとしなくたっていいじゃん。彼のこと、今でも好きなんでしょ?」

「大好きだよ」

 私は即答した。

 好きに決まってる。

 あんなに心優しく誠実な人を、私は他に知らない。

「でも、好きだからこそ……私はもう、彼には会いたくない。もし彼が日本に来てくれたって、私は絶対に会いに行かないから」

 言い終えるなり、私は残りのオムライスを一気に口の中へ掻き込むと早々に席を立った。

「ごちそうさま。先に行くね」

「ああちょっと、みさきち!」

 話に夢中で箸が止まっていた舞恋の前には、ハンバーグ定食がそっくりそのまま残っている。

「待ってってば。ちょっと! カヒンは絶対飛行機に乗って来るからね! みさきちが会いに行かないなら、私が力ずくでも引き合わせてやるから!!」

 何とでも言えばいい。

 彼女の言う通り、カヒンはきっと日本へ来るだろう。
 けれど私は会うつもりはないし、家の住所だって教えていない。

 せっかく高いお金を払って日本まで来たというのに、結局は無駄足になってしまう。
 さすがの彼も、今回こそは私のことを許さないだろう。

(きっと嫌われちゃうだろうな……)

 想像するだけで胸が痛む。

 けれど、これでいいのだ。
 むしろ嫌いになってもらった方が、カヒンも私のことを引きずらずに済むだろう。

 私のことなんかすっぱり忘れて、彼には幸せになってもらわないといけないのだから。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

神楽囃子の夜

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
ライト文芸
※第6回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。 【あらすじ】  地元の夏祭りを訪れていた少年・狭野笙悟(さのしょうご)は、そこで見かけた幽霊の少女に一目惚れしてしまう。彼女が現れるのは年に一度、祭りの夜だけであり、その姿を見ることができるのは狭野ただ一人だけだった。  年を重ねるごとに想いを募らせていく狭野は、やがて彼女に秘められた意外な真実にたどり着く……。  四人の男女の半生を描く、時を越えた現代ファンタジー。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...