日本語しか話せないけどオーストラリアへ留学します!

紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!

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Chapter #4

その日

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 わかってはいたことだけれど、カヒンが飛行機をキャンセルしないまま、その日はやって来た。

 十一月二十九日。
 私の誕生日の前日。

 冬の寒さもいよいよ本番となったこの季節、彼はブリスベン空港から約八時間の旅を終えて成田空港へと降り立った。

 到着したよ、というメッセージと共に、彼から成田空港の写真が送られてくる。
 私はそれを見て見ぬフリをしながら、自宅のベッドで布団にくるまっていた。

 朝からずっとこの体勢のままだ。

 これがもしも平日だったなら、大学の講義の一つや二つ出席していたのだろうけれど、あいにく今日は土曜日で、特に他の予定も入れていない。
 おかげで夜になるまで何をするでもなく、ただただ時計の針を眺め続けている。

 カヒンがオーストラリアを出発したのが朝の十時で、日本に到着したのが夜の六時——と、彼から届くメッセージにはそう書かれていた。

 現在は夜の七時。
 カヒンはそろそろ夕食だろうか。

 一体何を食べるのだろう。
 せっかく日本に来たのなら、やはり和食だろうか。

 そんな私の疑問に答えるかのように、再びカヒンからメッセージが届く。
 すると予想通り、添付された写真に写っていたのは刺身や天ぷらの載った和定食だった。

 もしも私が今日彼と会っていたら、この写真の画角には私の姿も一緒に収められていたかもしれない。

 テーブルを挟んだ向かい側で、同じように和定食を注文する私。
 天ぷらはこの『つゆ』につけるんだよ、なんて自慢げに講釈を垂れて彼に苦笑される光景が目に浮かぶ。

 彼と一緒に、美味しいご飯を食べたかった。

 街も案内してあげたかった。

 オーストラリアから遠く離れたこの日本で、彼と二人手を繋いで、笑い合って。

 そう考えれば考えるほど、自分の不甲斐なさが浮き彫りになって、本当に嫌になる。

 どうして私は、こんな生き方しかできないんだろう。

 しばらくして、『そろそろホテルに戻るね』と彼からまた連絡があった。

 夜の十時。
 今ごろは彼もお風呂に入っている頃だろうか。

 私は返事の一つも送らないまま、彼からのメッセージをただひたすら待ち続ける。

 やがて時計の針が夜中の零時を指したその瞬間、またしても彼からそれは届いた。

『ハッピーバースデー、美咲。君に心からの祝福を』

 私の誕生日の、お祝いのメッセージ。

 本当なら今ごろ、彼の口から直接この言葉を聞けるはずだった。

 せっかく彼が用意してくれたこの機会を、私は棒に振ってしまったのだ。

「……カヒン……」

 久方ぶりに開いた口はカラカラに乾いていて、声は掠れていた。

 その後は朝まで彼からのメッセージは届かなかった。
 寝てしまったのか、あるいは私に気を遣って夜中の送信は控えたのか。

 しんとする部屋の中で、私は声を殺して泣いた。

 自分で蒔いた種だけれど、感情の折り合いがつかない。

 彼と会えないのが、こんなにもつらいなんて。

 そうして一睡もできないまま夜は更けていき、やがて東の空が明るくなってきた。
 窓の外では鳥の声が響き、新しい朝がやってくる。

 今日は両親が二人で出掛ける用事があるので、私だけがお留守番だ。

「じゃあね、美咲。冷蔵庫の中に昨日の残り物が入ってるから……って、何その頭!!」

 出がけにこちらの部屋へ入ってきた母が、私の顔を見て大爆笑する。
 どうやら髪型が酷いことになっているらしい。
 昨日は結局一日中ベッドで横になっていたし、お風呂にも入らなかったので、よほど悲惨な見た目になっているのだろう。
 
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