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第1章
啼けない鳥
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「あららぁ、烏丸くん。ベッドにいないと思ったら、どこに遊びに行ってたのぉ?」
病室に戻るなり、ねっとりとした女性の声に出迎えられる。
烏丸は自分のベッド脇に一人の看護師が立っているのに気づいて、バツの悪い顔をした。
丸眼鏡とゆるふわボブの髪がトレードマークの若手看護師、百舌谷ことりが、カルテを手に意地の悪い笑みを浮かべて待っていた。
「回診の時間はお部屋で待っててねーって、いつも言ってるわよねぇ? どうして言う通りにしてくれないのかなぁ?」
口調はやわらかいが、眼鏡の奥に見える目は笑っていない。
先生も怒ってたわよぉ~と、にこやかに棘を刺してくる。
「別に、手術は終わったんだから診なくてもいいじゃん。あとは安静にしてれば治るんでしょ?」
烏丸は明後日の方角を見ながら反論する。
その生意気な態度に、百舌谷も負けじと食い下がる。
「そりゃあ安静にしてればねぇ。でも、烏丸くんみたいにしょっちゅうフラフラしてたら治るものも治らないわよぉ? どうせまた鷹取くんと電話でもしてたんでしょ~」
別に今回は鷹取じゃないけど、と言い返そうとしたところで、烏丸はふと、先ほどの少女のことを思い出した。
「そういやさっき、中庭で何か揉めてなかった? あれも回診サボった奴?」
「中庭? ああ、羽丘さんねぇ。動くのはまだ平気なんだけど喉が……って、あんまり人のプライベートを探るのは良くないわよぉ」
個人情報を守るためか、百舌谷はそう言って誤魔化すように笑った。
「あいつ、喉が悪いの?」
烏丸がさらに食いつこうとすると、
「おやおや? なぁに、烏丸くん。あの子のことが気になるの? 彼女、可愛いものねぇ」
何かを含んだ声色で百舌谷が茶化す。
「……別に。そんなんじゃないけど」
「まあ病棟は同じだし~、そのうちどこかでばったり会えるかもよぉ? 部屋は確か隣の隣ぐらいだったかしらぁ?」
「だからそんなんじゃないって」
烏丸が無視してベッドに横になろうとすると、百舌谷は上機嫌な様子でそれを手伝った。
何か勘違いされているようで居心地が悪い。
せめてもの反抗としてそっぽを向いていると、窓の外から、かすかにウグイスの啼く声が聞こえた。
ホーホケキョ、と本来は啼くはずだが、まだ子どものウグイスなのか、上手く啼けずにいる。
ケキョ、ケキョ、と必死に声を上げる様は、先ほどの少女のことを彷彿とさせた。
(あいつも、歌の練習がしたかったのかな……)
ほとんど無意識のうちにそんなことを考えて、すぐにハッとして頭を振る。
そんな烏丸の思考を見透かしたかのように、百舌谷は隣でニヤニヤといやらしい笑みを浮かべていた。
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