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第1章
桜の裏側
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羽丘と烏丸が去った後。
夜の中庭に残されたのは、淡くライトアップされた桜の木と、そして、その後ろの暗がりに立つ一人の少年だけだった。
少年は周りに誰もいないのを確認すると、ポケットに忍ばせていたスマホを取り出してSNSアプリを開く。
そこには一件の着信履歴とメッセージが残されていた。
「……『明日の件だけど、やっぱり遠慮しとく。また電話する』」
画面に表示された文字を無感情のまま読み上げると、チッと舌打ちし、深い溜息を吐く。
「見損なったぜ、翔」
静かな怒りを孕んだ声で、鷹取隼人は呟いた。
明日の準備のため、こっそりと病院内に忍び込んだはいいものの、まさか男女の逢瀬に立ち会うことになるとは思わなかった。
まだそれほど親密な仲というわけでもなさそうだが、しかし先ほどの烏丸の様子を見るに、どうやら満更でもなさそうだ。
今まで誰よりも近い距離から彼を観察してきた鷹取にとって、烏丸の様子がいつもと違うことくらい簡単にわかってしまう。
「あの女……邪魔だな」
先日からどうも烏丸の様子がおかしいと思っていたが、原因はおそらくあの女だろう。
さてどうしたものか、と夜空を仰いだとき、手元のスマホが微かに震えた。
見ると、新着メッセージが届いている。
差出人は看護師の百舌谷ことりだった。
『帰り道には気をつけてね』
ご丁寧に語尾にはハートマークが付いている。
鷹取は再び舌打ちすると、そのメッセージを合図にさっさと出口へ向かって歩き出した。
背後では、もう夜も更けたというのにカラスの声が響いている。
カッカッカッとまるで人を嘲笑うかのような不愉快な鳴き方だった。
その耳障りな声に鷹取が苛立ちを覚え始めた頃。
やっと満足したというように、カラスは漆黒の翼を広げ、暗い空の彼方へと消えていった。
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