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第3章
消えた思い出
しおりを挟む胸がざわざわとした。
私の幼馴染であるいのりちゃん。
彼女もまた、まもりさんや流星さんと会ったことがあるのだという。
「お前も、まもりも、いのりも、みんな忘れちまっただろうけどな。俺だけは覚えている。俺たちは子どもの頃から、何度もこうして会っていたんだ」
「子どもの、頃から……?」
私たちは、今までに何度も会っている。
それも子どもの頃から。
まるで信じられないことだけれど、それはつまり、私と彼らはみんな幼馴染だったということだろうか?
でも。
「せ、接点がわかりません。私といのりちゃんはともかく、まもりさんと流星さんは私たちと学年も全然違うじゃないですか。特に流星さんは、この街の人でもないですし」
学校で出会うこともなければ、お互いに近所に住んでいるわけでもない。
そんな彼らと私たちが一体どうやって出会っていたというのだろう?
混乱する私に対し、流星さんは落ち着いたまま、諭すような声で言った。
「何も不思議なことじゃないさ。まもりといのりは、実の兄妹なんだからな」
「……え?」
兄妹。
血の繋がった、兄と妹。
その響きに、私は水を浴びせられたような感じがした。
「いのりちゃんと、まもりさんが?」
「そうだ。その二人が繋がってるんだから、あとはわかるだろ?」
言われて、私は混乱した頭を何とか働かせる。
流星さんは続けた。
「お前といのりは、小さい頃からずっと仲が良かったからな。お前がいのりの家に遊びに来るたび、お前はいつも、まもりに会っていたんだ。そして、あいつらの従兄弟である俺とも、何度も顔を合わせる機会があった」
「そんな。私……覚えていません」
「そりゃそうだろ。魔法で記憶が消えちまったんだから」
当たり前のように言われて、私はほんの少しだけ胸がちくりと痛んだ。
まもりさんと、流星さん。
幼馴染だったはずの二人の存在を、私は忘れてしまっていたなんて。
「お前は、いのりと特別仲が良かったからな。あの兄妹と一緒に、お前は俺の店にも来たことがあるんだぞ」
「流星さんのお店に?」
その言葉に、私は面食らった。
流星さんのお店。
というのは確か、海水浴場にある海の家――と、まもりさんが言っていたはず。
「最後に来たのは二か月くらい前だったな。ちょうど、まもりが最後に記憶を消す直前だ」
二か月前。
私がまもりさんの店を見つけるよりも前の話だ。
その頃に私は、流星さんの店に行っていた?
そう口で言われても、私の記憶は一向に戻ってくる気配がない。
「思えばあれが、お前たちの記憶を消すことになる、直接の原因だったんだろうな」
そう言った流星さんの顔は沈んでいた。
これから話そうとしている内容に、何か大きな重圧を感じているようだった。
「聞かせてもらえますか?」
私が恐る恐る聞くと、彼はどこか緊張した面持ちで頷く。
「あの日はな、まだ五月だってのに、すげー暑い日だったんだ」
流星さんは語る。
その日は例年よりも気温が高く、海開きもまだだというのに、すでに何人もの人が海水浴を楽しんでいたのだという。
「家族連れやらカップルやらが楽しそうにしててよ。そいつらを見て、いのりも泳ぎたいって言いだしたんだ。危ないからやめとけって言ったんだけど、聞かなくて」
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