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第二章
神様
促されて、拒む理由などなかった。むしろ先ほどよりも軽い足取りで、高原は狭野の元へと駆け寄った。
子どもの頃と同じように、二人並んで、あの神社へと続く土手を上っていく。
今はもう、あの頃のように手を繋ぐことはできなくなってしまったけれど。
それでも、こうして狭野の隣にいられるだけで、高原は幸せだった。
「あの幽霊の存在は、この神社に関係があると思うんだ」
雑木林の入口に立つ赤い鳥居を潜りながら、狭野が言った。
「この神社に?」
お祭りの方じゃなくて? と高原が聞くと、狭野は道の先を見つめたまま静かに頷く。
その間も、境内の奥から聞こえてくる神楽囃子の音はどんどん近づいてくる。
「舞鼓は、この神社にどんな神様が祀られているのか知ってる?」
「確か、縁結びの神様よね? 恋愛成就のご利益があるって聞いたわ」
「そう。良い面だけを見れば、ここの神様は僕らに良縁のご利益を与えてくれる。けれど……神様には、二面性がある。人々に恵みを与える穏やかな面と、それとは別に、参拝客にはあまり知られていない裏の顔があるんだよ」
「裏の顔……?」
何やら不穏なその言葉に、高原は思わず身構える。
「人々に災いをもたらし、時には死に追いやることもある、恐ろしい神様の側面さ。もともとこの神社は、そんな神様の祟りを鎮めるために建てられたんだって。とても執念深い神様で、目的のためなら手段を選ばないらしい。その力は強大で、時間の流れすらも超越するとか」
「な、なんだか物騒な話ね。でも、それが幽霊と一体何の関係があるの?」
「あの幽霊は、霧島の姿をしている。未来の、中学一年生になった彼女の姿で、僕にたくさんの予言をしてきたんだ。まるで未来の彼女が時空を越えて、過去の僕に会いに来たように。……もしも本当に、ここの神様が時間を超越する存在なら、あの幽霊のことにも説明がつく」
狭野のノートに描かれた幽霊の姿は、今の霧島よりも少しだけ大人びて見える。
それを思い出して、高原は寒気を覚えた。
「そんなことって……」
あるはずがない。
けれど、だからといって狭野が嘘を吐いているようにも見えない。
「で、でも。だったら一体何のために? どうして霧島さんが、過去のあなたに会う必要があるの?」
「わからない。ただ、あの幽霊が言うには、ちょうど来年の今日——二〇二〇年の夏祭りの日に、僕はここで命を落とすらしいんだ。この神社の境内で」
ざわり、と周囲の木々が風に揺れた。
その音に呼応するようにして、高原の胸も粟立つ。
「な、何よそれ。冗談にしてはちょっと趣味が悪いんじゃない……?」
「冗談なんかじゃないさ。あの幽霊はもう何年も前から、僕にそのことを伝えてきた。それに……僕と同じような体験をした人たちの逸話が、この神社にまつわる言い伝えとしてたくさん残ってる。この世の者じゃない、何か不可思議な存在と出会って、未来を予言された人たちの話……。偶然とは思えないよ」
「そんなの迷信でしょ。考えすぎよ。だって、あなたが殺されるような理由なんて何もないじゃない!」
あまりにも馬鹿馬鹿しい話に、高原はこれ以上付き合っていられなかった。
やはり信じられるはずがない。
幽霊の話ですら未だ半信半疑なのに、今度は神社の神様が、よりにもよって狭野に死の宣告をするだなんて。
「信じてもらえないのも無理はないと思ってるよ。僕だって、来年の今頃には自分が死んでいるかもしれないなんて実感は湧かない。ただ僕は……霧島に何か被害が及ばないか、それだけが心配なんだ」
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