23 / 49
第二章
神様
しおりを挟む促されて、拒む理由などなかった。むしろ先ほどよりも軽い足取りで、高原は狭野の元へと駆け寄った。
子どもの頃と同じように、二人並んで、あの神社へと続く土手を上っていく。
今はもう、あの頃のように手を繋ぐことはできなくなってしまったけれど。
それでも、こうして狭野の隣にいられるだけで、高原は幸せだった。
「あの幽霊の存在は、この神社に関係があると思うんだ」
雑木林の入口に立つ赤い鳥居を潜りながら、狭野が言った。
「この神社に?」
お祭りの方じゃなくて? と高原が聞くと、狭野は道の先を見つめたまま静かに頷く。
その間も、境内の奥から聞こえてくる神楽囃子の音はどんどん近づいてくる。
「舞鼓は、この神社にどんな神様が祀られているのか知ってる?」
「確か、縁結びの神様よね? 恋愛成就のご利益があるって聞いたわ」
「そう。良い面だけを見れば、ここの神様は僕らに良縁のご利益を与えてくれる。けれど……神様には、二面性がある。人々に恵みを与える穏やかな面と、それとは別に、参拝客にはあまり知られていない裏の顔があるんだよ」
「裏の顔……?」
何やら不穏なその言葉に、高原は思わず身構える。
「人々に災いをもたらし、時には死に追いやることもある、恐ろしい神様の側面さ。もともとこの神社は、そんな神様の祟りを鎮めるために建てられたんだって。とても執念深い神様で、目的のためなら手段を選ばないらしい。その力は強大で、時間の流れすらも超越するとか」
「な、なんだか物騒な話ね。でも、それが幽霊と一体何の関係があるの?」
「あの幽霊は、霧島の姿をしている。未来の、中学一年生になった彼女の姿で、僕にたくさんの予言をしてきたんだ。まるで未来の彼女が時空を越えて、過去の僕に会いに来たように。……もしも本当に、ここの神様が時間を超越する存在なら、あの幽霊のことにも説明がつく」
狭野のノートに描かれた幽霊の姿は、今の霧島よりも少しだけ大人びて見える。
それを思い出して、高原は寒気を覚えた。
「そんなことって……」
あるはずがない。
けれど、だからといって狭野が嘘を吐いているようにも見えない。
「で、でも。だったら一体何のために? どうして霧島さんが、過去のあなたに会う必要があるの?」
「わからない。ただ、あの幽霊が言うには、ちょうど来年の今日——二〇二〇年の夏祭りの日に、僕はここで命を落とすらしいんだ。この神社の境内で」
ざわり、と周囲の木々が風に揺れた。
その音に呼応するようにして、高原の胸も粟立つ。
「な、何よそれ。冗談にしてはちょっと趣味が悪いんじゃない……?」
「冗談なんかじゃないさ。あの幽霊はもう何年も前から、僕にそのことを伝えてきた。それに……僕と同じような体験をした人たちの逸話が、この神社にまつわる言い伝えとしてたくさん残ってる。この世の者じゃない、何か不可思議な存在と出会って、未来を予言された人たちの話……。偶然とは思えないよ」
「そんなの迷信でしょ。考えすぎよ。だって、あなたが殺されるような理由なんて何もないじゃない!」
あまりにも馬鹿馬鹿しい話に、高原はこれ以上付き合っていられなかった。
やはり信じられるはずがない。
幽霊の話ですら未だ半信半疑なのに、今度は神社の神様が、よりにもよって狭野に死の宣告をするだなんて。
「信じてもらえないのも無理はないと思ってるよ。僕だって、来年の今頃には自分が死んでいるかもしれないなんて実感は湧かない。ただ僕は……霧島に何か被害が及ばないか、それだけが心配なんだ」
0
あなたにおすすめの小説
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾書籍発売中
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾書籍発売中
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
白雪姫症候群~スノーホワイト・シンドローム~
紫音みけ🐾書籍発売中
恋愛
幼馴染に失恋した傷心の男子高校生・旭(あさひ)の前に、謎の美少女が現れる。内気なその少女は恥ずかしがりながらも、いきなり「キスをしてほしい」などと言って旭に迫る。彼女は『白雪姫症候群(スノーホワイト・シンドローム)』という都市伝説的な病に侵されており、数時間ごとに異性とキスをしなければ高熱を出して倒れてしまうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる