君がいないと

夏目流羽

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1:物分かりのいい恋人

俺ーーー三上みかみれん20歳
生まれつき恵まれた容姿のお陰で、正直女には困ったことがない
中学で“そういうコト”を覚え付き合う付き合わないに関わらず遊びまくってきた。
セックスは気持ちいいから好き。それなりに楽しければオッケー。
でも『恋人』という関係になると途端に面倒くさくなる女が多くて、高校の途中からは『彼女』を作るのをやめた。

そんな俺が大学に入って久しぶりに“付き合う”ことにしたのはーーー男
駅前の本屋でバイトしていた3つ年上の大学生瀬野せのあきら
普通に男なんだけど、なんだかやけに気になって。
俺から声を掛けて距離を縮めた。多少強引に身体の関係を持ってそのままなし崩し的に付き合った。お互い男は初めてだった。

一応付き合ってもうすぐ2年、1年前から同棲もしている。
俺の記録はとっくに更新した。こんなに続いたのはもちろん初めてーーーだけど、就職した晶が忙しくなってから、俺の『遊び癖』は再発した。
自分で言うのもなんだけど、本当俺って最悪だと思う

でもまぁ若いうちは遊びたいじゃん?
それにそもそもの原因は、晶が俺をほったらかしにしたせいだし。ってか、俺の『恋人』にしてあげてるんだからそれくらい我慢してよ、なんて。
まぁでもそれは分かってるみたいで、正直浮気現場を見られたことは4回あるーーーけれど、晶はなんだかんだで許してくれた。
まぁ許さなかったらこっちからバイバイだけど
かわりはいくらでもいるからさ
それに男同士なんだし、性欲に関してはなんとなく理解できるでしょ

だから
今まさに浮気現場を目撃されても、俺は面倒くさいなとしか思わなかった。

「蓮……?」

少し先の道端で立ち竦んでいるスーツ姿の晶
俺の隣には、大学の同期でセフレの美奈
腕を組んで今まさにラブホへ入る寸前ーーー言い訳のしようもない

「友達?」

聞いてくる美奈に曖昧に頷き返していたら、晶が不意に背中を向けた。そのまま、歩き出す
いつもならとりあえず追いかけて謝るんだけど……なんか今日は、その背中に少し苛立ちを覚えて

「あれ、行っちゃうよ?いいの?」
「ん……晶!」

美奈に急かされてとりあえず呼び掛ければ、立ち止まる背中。振り向かないのがさらに苛立ちを煽る

「今日遅くなるから。先寝てて」

そう声をかければ、美奈がぱちくりとまばたいた。
まぁ俺のこと一人暮らしだと思ってたんだろうけど、そもそも一人暮らしならわざわざラブホなんか行かないだろ……なんて思っていたら、晶が不意に振り向いてふわりと微笑んだ。

「わかった」

ーーー物分かりのいい恋人

それだけ言ってまた歩き出す晶
その姿が見えなくなってから、ぽかんとしている美奈を連れて俺はラブホに入った。


その後ーーー
時計の針は12時になろうとしていて、俺はただラブホのソファーに座ってボーっとしていた。

「早く帰らなくて良いの?」

不意にかけられた声に振り向けば、バスローブ姿の美奈が笑っていて

「お風呂から出たら、もういないんじゃないかと思った」

いやいや、さすがに女をラブホに置き去りにはしないよ。ってか

「なんで?」

聞けば軽く笑われた。

「気になるんでしょ」
「なにが?」
「さっきの“友達”」
「……全然。気にする必要ないし?」
「じゃあなに考えてたの?」

そう問われて言葉につまる
確かに、晶のこと考えてた……って言っても、たいしたことじゃなくて。

「別に……ただ、面倒くさいなって考えてただけ」
「なんで面倒くさいの?」
「…………いや、あの人真面目だからさ。俺が女遊びすると怒るんだよ」

なんて言い訳しようかなって笑ったら、美奈は呆れたように笑ってから嘆息した。

「そんなこと言ってたら、捨てられちゃうわよ」
「は、なに、捨てられるって」
「あの人、ただの友達じゃないでしょ」
「……なんで」
「蓮が友達とルームシェアするなんて想像つかないもん。友達以上でしょ」
「……男、だけど?」

蓮なら相手が男でも驚かないわよ、節操ないもんーーーなんて笑われると返す言葉もない
いや、男は晶以外ありえないんだけど。

「浮気現場見られちゃって……振られちゃうんじゃない?」
「見ただろ?あの笑顔」

あの場面で笑うんだよ?
しかもあの笑顔は怒りからじゃないって、俺にはわかる
……まぁ、いつもの笑顔とも違うけど

「顔と心は違うものなのよ」
「へぇ。まぁいいけどね、終わっても」

煙草をふかしながら呟けば、深いため息が聞こえた。

「失ってからじゃ、遅いのよ?」

なにそれ。
よく言うけど、全然わからない
失って困るものなら、最初から失わないよう頑張るもんでしょ?
あいにく俺にはそんなものないかな
あってもなくてもいいもんばかり。

「失ったらまた次があるじゃん。美奈、なってみる?」

彼女。と言って見やったら、もう服を着た美奈が小さく笑った。

「遠慮しとく。さっきみたいにうわの空で抱かれるのはもうイヤ」

うわの空……?
いつ?
誰が?

言葉が出ない俺を引っ張って、美奈が歩き出す

「さ、早く帰りましょ。閉め出されてるかもしれないけどね?」
「ありえないよ、俺の家だから」
「え?」

はたと足を止めて見てくる美奈
なんだ?
きょとんと見返したら、目を見開いて呟かれた。

「ルームシェアって、蓮が勝手に住み着いたわけじゃないんだ?」

なにそれ。俺どんだけイメージ悪いの

「違う。俺んちに住まわしてあげてんだよ」

まぁ晶が就職先に近いところに引っ越すっていうから、俺が強引に住まわせたんだけど。
とりあえずその事実は口にしないままに歩き出せば、後ろから思い切り背中を押された。

「わ、なに」
「早く帰りなさい!」
「なんで?」

意味わかんないけれど仕方なく早歩きしたら、背中で小さな声が聞こえた。

「かわりなんていないでしょ」
「は?」
「あの人以外と同棲できる?私、蓮が家に女の子いれたって聞いたことない」

プライバシー保護とか言って家にいれてくれないって、女子の間では有名なのよ
と少し拗ねたように言われて、気付く
ーーーそういえばそうかも。
同棲してるからとか以前に、自分ちに女をいれるのは昔から好きじゃない
というか、他人をいれること自体あまり好きじゃないのに、なんで晶はいけたんだろ……って、まぁなんでもいいか

美奈と別れて歩き出す帰り道
俺は過去4回の浮気発覚時を思い出していた。
とりあえず、謝る
それだけでほとんど解決
そのうえ、一応毎回やってるのが……花のプレゼント
っても花束とかじゃなくて、100均で売ってる造花を一輪。
初めて浮気がバレた時にあげたら、馬鹿だなと笑って許してくれたから……それから毎回やってる
それさえやれば、晶は笑うんだ。
単純で甘いひと。まぁラクでいいけどね

ダラダラ歩いていたら、前方に見慣れた店が見えた。
これが、俺がいつも花を買う100均。100均のくせに24時間やってるんだよ。
うーん、どうしよう……まぁ、一応買っとこうかな

俺は適当に花を買って、ほんの少しだけ帰路を急いだ。


10分後
家に着いて鍵を開ければ、まだ部屋は明るかった。
ガタンと音がして、晶がひょいと顔を出す

「おかえり」

微笑んで言う晶
それだけ?と聞き返しそうになったけど、自分から面倒ごとを振る必要はないよな
とりあえずただいまと返しながら持っていた花を渡すと、晶は一瞬躊躇してから受け取った。

そして、笑う

それはいつもの無邪気な笑顔じゃなくて。
なんか見たことあるんだよね、晶のこの笑顔
いつだっけ……思い出せない
ってかもうだめだ!超眠い!!

「ごはんは?」
「いらない」
「お風呂は?」
「入ってきた」

あ、つい素直に言っちゃった。
まぁいいか。どーでもいい。

「俺、寝るから」

黙ってる晶を置いて寝室に行くと、俺はアウターだけ脱ぎ捨ててすぐベッドにもぐりこんだ。
あ、デニムくらい脱げば良かった……なんて思いながらも身体が動かない
そのまま心地いい眠気にまどろんでいたら、晶が近づいてきたのがわかった。
うっすら瞳を開ければ、ベッドに腰掛けた晶が微笑みながら髪を撫でてくる

ここで抱き締めてやれば、きっともっと笑うんだけど
こんなんじゃなくて、いつもの笑顔になるんだろうけど

俺はそのまま瞳を閉じた。
唇に柔らかい感触を感じながら、深い深い眠りの中へーーー
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