恋をしたから終わりにしよう

夏目流羽

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4:デート【ランチ】

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翌日ーーー

湊人との待ち合わせは昼の12時ジャスト
こんな時間から“そういう相手”と外で会うのなんて初めてだ
綾香や今まで付き合ってきた彼女とでさえ、基本的には早くても14時過ぎとかだし……

空を見上げれば、快晴
風は冷たいけれど太陽の光が燦々と降り注いでいて、すごく気持ち良い

AM11:55

また鼓動が速くなってきた。
早く行きたいけど、行きたくないような
早く会いたいけど、会いたくないような
待ち合わせ場所まであと徒歩3分
湊人は……多分もういるんじゃないかな
つーか、湊人は夜のイメージだからなんかこんな天気似合わなそう。俺たちすごく浮きそう。
だいたい、どこ行く気だろ……
俺達ヤる以外に時間潰せんのかな
想像つかない……ってかそもそも俺たちセフレだろ?
なにこんな真っ昼間に呼び出してんだか。
恋人じゃ、あるまいしーーー

「悠!」

背後から名前を呼ばれ反射的に振り向いたら、湊人がいつものコートをはためかせながら走って来た。
こんなの不意打ちだ……やばい

「悠って時間守るんだ。絶対待たされるだろうからゆっくり来たのに!」

目の前で立ち止まった湊人が、少し乱れた髪を整えながら笑う
太陽の光を受けたその笑顔はあまりに眩しくて、また鼓動が速くなるのを感じる

俺、湊人のなにを見ていたんだろう
こんなにも太陽が似合うなんて、知らなかった。

「こんな時間から会うなんて、なんか変な感じだな」

俺の腕に軽く触れながら、優しく微笑む湊人
2週間前と変わらない声、笑顔、指先ーーーなんだろう
胸が詰まって、言葉が出てこない
やっと絞りだした言葉は

「…………久しぶり」

って、俺しみじみ何言ってんだよ!おかしいだろ!
案の定、湊人はぱちくりとつぶらな瞳をまばたかせた。

「久しぶり。ふは……どうした?なにかあった?」

動揺を悟られたようで恥ずかしい
なんでもいいから慌てて言葉を繋ごうとして

「会いたかーー」

ってマジで俺なに言ってんだよっ!!
目を見開く湊人から視線を外し

「ーーった?」

なんとか付け足して誤魔化す
つーか、誤魔化せたかな
だいたいなんでこんなに動揺してるんだろう
ただ、久しぶりだから落ち着かないだけ?
こんな慣れないシチュエーションだから悪いんだ
俺んちならきっと、いつも通りにできるのに……

クスクス
小さな笑い声に視線を戻せば、湊人が下を向いて笑っている

「何笑ってんの」
「だ、だって……」

憮然とする俺の前でしばらく肩を震わせ笑ってから、湊人は顔を上げた。
笑いすぎたのか少し潤んだ瞳が……綺麗だなんて、思いたくないのに
目を離せない俺をまっすぐに見つめたまま

「会いたかった」

なんて、そんなのーーー反則でしょ

「……あっそ」
「照れた」
「照れてないし!」
「はいはい。じゃ、とりあえずご飯食べよ」

湊人が俺の右手首を掴んで歩き出す
それがあまりに自然だったから、振り払うタイミングを逃してしまって
なにこれ……本当にデートみたいじゃん
意味わかんない、と視線を泳がせていたらグイッと強く引っ張られた。

「悠、こっち」
「どこ行くの?店決まってんの?」
「内緒」

悪戯っぽい微笑みと、柔らかい声と、触れた肌から伝わる熱―――その全てに実感する

今、湊人の隣にいるのはーーー俺だ
今、俺の隣にいるのはーーー湊人だ

他の誰でもない

俺と、湊人だけだ


* * * * *


「着いた」
「着いたって……」

腕を引かれるままに歩き続けて、10分弱
立ち止まった湊人に倣い足を止め、辺りを見渡してみれば
青空ーー噴水ーーベンチーーハトーー走り回るこども達ーーー……

「公園じゃん」
「そうだよ。ほら、早く!」

スッと手を離した湊人が、近くのベンチまで歩きストンと座る

「何すんの?」

仕方なく隣に腰掛けて見やると、湊人が肩に掛けていた大きめの鞄を膝に乗せて

「だからご飯だってば」

そう言いながら大きなお弁当箱を取り出した。
え、マジで?

「作ってきた」
「うそっ!」
「ほんと」

蓋を開くと、ワクワクするような懐かしい匂いがして思わず身を乗り出してしまう
おにぎりに唐揚げ、ウインナーにピーマンの肉詰め、玉子焼き……サラダやフルーツまで添えられたものすごくカラフルで綺麗な弁当

「うまそーっっ!」

素直にそう言うと、湊人は満面の笑みを浮かべた。

「召し上がれ」
「いただきますっ!」

そういや朝飯食べるの忘れてた
思い切りおにぎりにかぶりつくと、具がたくさん入っていて味付けもとんでもなく美味しい

「なにこれっ!超うまい!!本当に湊人が作ったの?」
「もちろん。良いヨメになれそうだろ」
「貰い手がいればね」
「ふはっ」

湊人の独特な笑い声につられて俺も笑ってしまう
でも本当にビックリした。
湊人にこんな特技があるなんて……しかも本人もめちゃくちゃよく食べるし。
そういや湊人が何か食べてるところ、今まで見たことなかった。
本当にセックスしかしてなかったんだな俺たち……
つーか俺、母親以外の手作り弁当食ったの初めてかも
なんかお店以外で他人の手作りってちょっと抵抗あったんだけど、今は全然なかったな。なんでだろ……
なんて考えてるうちに、全部食べ尽くしてしまった。

「あー、よく食べたね悠」

満足そうな湊人が、俺の顔を見て吹き出す

「こどもみたいだな」

スッと手を伸ばし、俺の唇に触れた湊人の指先
ついていたらしい米粒を掬い笑うその顔は、大人の余裕たっぷりって感じで……なんか、ムカつく
俺は湊人の手首を掴むと、ゆっくりその指をくわえた。

「ちょっ……悠?」

慌てる湊人に構わず、甘噛みしながら舌を這わせる

「……ん……っ」

みるみる赤くなっていく湊人
じわりと潤む瞳と、紅い唇を噛むいつもの顔……たまんない

俺の前では大人ぶんなよ。余裕なんかなくしてやる。

指を伝い手のひらにキスをすると、湊人はビクッと身体を震わせた。

「も……やめろって……」

そんな甘い声で、俺を止められると思ってるの?
つーか、逆に誘ってんの?

「ここで抱いてほしい?」
「バカ!」
「ひたたっ!!!」

調子に乗りすぎたらしい
もう片方の手で思い切り頬をつねられ、力が緩んだ隙に手を払われた。
頰がジンジンする……ほんと痛い

「ったく、このエロガキ!」

真っ赤な顔で弁当を片付ける湊人
その横顔を見つめながら思った。

マジで、抱きたいーーー

って、何考えてんだ俺。
でも仕方ないよね?
俺の中では湊人=セックスだし、考えたら2週間誰ともヤッてないんだもん
ーーーだから、別に普通だよね?

「悠、行こう」

頭の中でゴチャゴチャ考えている間に、後片付けは終わったようだ
すべて綺麗にして身支度まで整えた湊人が立ち上がって見下ろしてくる

「次はどこ行く気?」

座ったままの俺に手を差し出して

「デートといえば、映画だろ」

デートって……
だから、俺と湊人はただのセフレでしょ?
って言ってやりたかったけど、こんな無邪気な顔されたら……言えないし。

「……仕方ないなぁ」

わざとダルそうに手を掴むと、湊人が引っ張って立ち上がらせた。
ついでに軽くハグしたらふわりといつもの香りがしてーーー思わずそのまま、強く抱き締めてしまう

「悠、ここ、外だから」
「……うん」
「悠」
「湊人」

呼び返した瞬間にピクリと反応した湊人
俺の腰に添えられていた手が背中に回り、一瞬だけギュッと抱き締め返されるーーーけれど、すぐにポンポンと背中を叩かれて終わりの合図
名残惜しくて紅く染まった右耳を食めば、小さく吐息をもらした湊人が首筋に唇を押し付けてきた。
保守的なのか積極的なのかわからないな……

初めて会った時からそうだった。
俺の誘いに戸惑った表情をしていたくせにーーーいざとなるとちゃんとリードして
俺から誘わないと電話どころかメッセージひとつしてこないくせにーーー呼べばいつでも来てくれて

いつだって
こっちが勘違いするような、笑顔を向けてくる

いつも、いつも

「……悠、行こう」

そっと身体を離して見つめ合えば、いつもの微笑みを浮かべた湊人がまた俺の手首を握る

手を、握ればいいのに

なんて言えるわけもなく、俺は引かれるままにその場から歩き出したーーー
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