突然ファーストキスを奪った先生からいきなり溺愛されているんですが

清見こうじ

文字の大きさ
4 / 43

これは悪い夢に違いない!

しおりを挟む
「センノ・リクです」

 千野利久、と黒板に書かれた名前。

「大学卒業後、臨時講師などしながら、2年ほど色々な学校を回っていました。担任を持つのは初めてなので、皆と一緒に勉強していきたいと思う。よろしく」

 間近で見ると、端正な顔のラインが、はっきりとわかる。

 大学卒業後、2年……ストレートに行っても、24歳……うそぉ!

 今は、きっちり髪を固めて、メガネとスーツで、何となく大人っぽい感じを出してはいるけど……。

 近くで見れば見るほど。

 あの眼鏡を外して、髪を下ろして。

 脳内補正をかけると。

 20過ぎには見えない……。

 でも、間違いない。

 私のファーストキスを奪った……あの人だ。

「専門は国語、古文だが、日本史も兼任する」

 教室内に、えー! と、きゃー! いう声が同時に響き渡る。

 必修教科の国語はともかく、古文と日本史2は二年生から選択教科なので、受ける生徒とそうでない生徒がいるんだ。

 ついでに言うなら、「えー」は受けない子達が叫んでいたもの……そして私は。

「きゃー」×2。

 古文も日本史2も、選択している……。
 でも、素直に「きゃー」となれない……。

 だって。

 ヤバいんだよー!
 軽く「きゃー!」なんてできないの!

 マジ、目が合ったりしたらどうしよう!
 伏せ目がちに、そっと見上げるのが、精一杯。

 ……胸がバクバクする。

 ヤバいんだよー!

 苦しい……息が詰まりそう。

 あんなに憎まれ口叩いてたくせに、本人を前にしたら、目を合わせることもできないくらい……好き、かも。

 ホントに、マジぼれしちゃったみたい。

 だけど。

 あの人は、先生、なんだよー!

「……じゃあ、出席をとるので、簡単に自己紹介してくれ。……」

 自己紹介!
 うわぁ!
 どうしよう!

 まさか、目をそらして話すわけにもいかないし……。
 な、なるべく、みんなの方を見て、話そう……。

 名簿順で自己紹介が続き。

「次は、ナカザワ……サホ? ……ふーん……」
「な……!」

 フッ、と鼻で笑われ、私は思わず立ち上がり……先生をガン見してしまった。

「……」

「ナカザワ……?」

「……はい」

 もう、こうなったら、開き直るしかないよね?
 私は、ジッと先生を見つめて、口を開いた。

中沢なかざわ茶朋さほ、です。お茶の茶に、朋友の朋と書いて、サホ、と読みます」

 一息にそこまで言って、先生の表情を窺う。

 全く変化なし。

 笑っているような、そうでもないような、アルカイックスマイル。
 慌てた様子は、微塵もない。

「名前の通り、お茶の友の和菓子が好きです。茶道部に所属してます。只今部員大募集中でーす」

 そう言うと、クラスのみんなは、ドッと笑った。
 けど。

 先生の表情は変わらない。
 ううん。
 笑っては、いるんだ。

 みんなと同じように。

 新しく教え子になった生徒の自己PRで、クラスメートが笑いさざめくのを見て、微笑ましげに。

 自分も、思わず笑っちゃいました、と、少し困ったように。
 
 先生の、顔で。

 あくまで。
 全く、何にも、知らない顔で。

 キスした相手だって、気づいてないの?

 それとも。

 記憶に残らないほど、ドーでもいいことだった、とか?


 私の……ファーストキス、なのに……?


 ファーストキス、だっていうのに……!

 こんな男に、マジぼれしちゃった、なんて……!




 あ、悪夢だぁぁぁっ!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

処理中です...