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この流れで突然彼氏の親に紹介されて反対されるのは想定内ですよね
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いろんな行き違いが生じていたことが分かり。
改めてリクに対して、お師匠さまは向き直って。
「本当に、私がもっとキチンと、皆さんにお伝えするべきだったのね。ごめんなさい。あなたにも寂しい思いを……いえ、この様子を見ていると、苳子さんも久弥さんも、滝本さんも……皆さん、あなたを大切にしてくれたようね。本当に、感謝してもしきれないと思います」
「……確かに、母さんも父さん……伯父さんも、俺に良くしてくれたけど。でも、あなたが俺のことを気にかけてくれていたのは、なんとなく分かります。生まれてすぐ別れたのに、俺を見て、よく分かりましたね? もしかして、伯父さんの若い頃に似ていた、とか?」
「どちらか言うと、苳子さんに、かしら。久弥さんは、もう少しだけ大人っぽくて……そうね、今日の学校でのあなたみたいな感じで。それに……実は初めてではないのよ、あなたに会うのは」
「え?」
「昔、一度だけ。私が本格的に茶道を生業として独立しようと、関西から東京に出た時に、苳子さんから『会いたい』って連絡をいただいたの。映子さまにお会いしたあとで。詳しい事情まで話さなかったのに、ご存じだだったのでしょうね」
「そうね。映子さまには、その、こっそり相談していたから。……実は、あなたに出会ったのも、まるっきり偶然と言うわけではないらしくて」
「え?」
「もうお話してもいいわよね? 映子さま、お付き合いされていた老舗の和菓子屋さんの跡取りの方との結婚が決まって、お世話になっている茶道の家元さまにご挨拶に伺った時に、あなたを見かけたらしいの。由利恵さんが、家元さまに住み込みで弟子入りしていた頃でしょうね。でも、あなたの事情を聴いていたから、陰ながら様子を見られていたのでしょうね。私にも、今は自立するために修行に集中させておあげなさいって仰られて。いつか、会わせてあげるから、って」
何だか、要所要所にお母さんの名前が出るんだけど。
本当に、桜女OGの団結力というか、コネクションってすごいわ。
「それで、私が茶道教室を開こうと悩んでいる時に、タイミングよく現れてくださったのね……映子さまらしいわ。困っている時には、すっと手を差しのべて下さって。でも、ずっと見守って下さっていたことをおくびにも出さないで」
「ええ。それで、できればあなたを地元に戻らせたいから、里心を刺激するようにって」
「え? もう会えないかもしれないから、せめて利久に会わせたいって……」
「そう言わないと、あなたは遠慮して利久に会おうとしなかったでしょう? 実際、うちの場所は分かっていて、こんなに近くにいたのに、頑なに会おうとしないで」
「……そうね、確かに。私も、意地になっていた部分もあったし。でも、あの時は、本当に嬉しかったのよ。小さな利久に会えて」
「あの時?」
リクは、一生懸命に記憶を辿っているけど、思い出せないみたい。
「利久と二人で出掛けるのに一番自然だからって、遊園地で落ち合うことになって。せっかくだから、利久が行きたがっていた、あのランドに行こうって、誘ったの」
苳子さんが補足してくれた。
……って、ランドに?
それって、リクがなんとなく覚えていたって言う、あの思い出の? お母さんの他に、もう一人いたって言う、若い女の人。
「……あの時の、お姉さんが、由利恵さん?」
リクも思い当たったみたい。
「覚えていたの? まだ小さかったのに」
「いや、おぼろ気だけど。母さんの他にもいたなって。てっきり付き添いのメイドさんかと思っていたけど」
「そう……そうね。あの頃、たぶん6歳になる、ちょっと前だったはず。あなたは、苳子さんにとてもなついていて、本当に仲の良い親子で、とても愛されているって分かったわ。私にもなついてくれたけど、むずがる時は苳子さんじゃないとダメで……本当に、感謝して……ありがたくて……」
お師匠さま、「感謝」とか「ありがたい」とか、仰られているけど。
本当は、ちょっと……かなり寂しかったんじゃないだろうか?
実の息子が、離れて暮らしていたとは言え、他の女性をお母さんとして心から慕っている姿を見て、きっとありがたいけど、複雑な気持ちだったと思う。
リクに会わないようにしていたのは、感謝しなければいけないという思いと相反する、嫉妬から目を反らしたかったのかもしれないなあ。
「映子さまがあなたを地元に連れ戻したと聴いて、いつ訪ねて来てくれるかと、ずっと待っていたのに。結局、会いには来てくれなくて。映子さまが代わりに見守ってくださるから、決して居場所を探るようなことをしないで、と仰られたから、あなたを待とうと思って……でも、やっぱり会いに行けばよかったわ」
「映子さまが……。そうね、もし、苳子さんが会いに来られたら、今度こそ私は、本当に遠くへ逃げたしたかもしれないわ」
「え?」
「私、とてもズルかったのよ。利久には会いたい、利久に幸せになってもらいたい、そういう気持ちとは裏腹に、利久が今の家族の中でも笑顔でいることがツラかったし、利久を捨てたと、利久を捨てた母親だと思われたくなかった。人知れず遠くから見守る、という立ち位置を守ることで、何とか心のバランスを取っていたの。映子さまは、決心がついたらいつでも橋渡しをしてくださるって仰られて、決して無理強いされなかった。それに甘えてしまってもいたのね」
「でも、もういいでしょう? すべてが明らかになって、利久にも事情を伝えたのだし。今度こそ、この家に……」
「いえ、それは、やっぱり……」
断りつつも思い悩む様子のお師匠さまに、苳子さんは、その手を握りしめてグイグイ迫る。
……あ、こういう強引さ、絶対リクにも影響している。
一人でウジウジ悩むところとかは、お師匠さまの血も受け継いでいる感じがするのに、やっぱり環境というか、育ての親の影響って、あるのかな?
「いや、苳子、ちょっと待て。今後は気兼ねなく会うのはいいとして、何でお前と一緒に住むんだ? 今は利久もこの家に暮らしていないし。それは、他の人間に任せるべきでは……」
「だって、利久のアパートじゃ二人で住むには狭いでしょう? ここは実家なんだし、利久がちょくちょく帰ってくれば……」
「いや、利久と、という訳じゃなく……」
言葉を濁しているけど、要するに、理事長自らがお師匠さまと一緒に暮らしたい、ってことかな?
「え? だって、利久の実母なんだから、ここで母親同士、一緒に暮らせば、利久も実家帰り一回で済むでしょう? そうだ、お茶室も作ってあるのよ。いつか、由利恵さんが帰ってきた時のために、利久にもちゃんとお作法仕込んでおいたから……」
へえ、リクに茶道を教えたのって、苳子さんなんだ? なら、わりと上級者なのかな……ってそうじゃなくて!
イライラしている理事長を見て、リクがため息をついて口を挟む。
「あのさ、今さっき、自分の思い込みだけで他の意見を訊かず突き進むのはやめようって話したばっかりだと思うんだけど。母さんが、由利恵さんを大好きなのは、分かったけど。同じくらい、いまだに由利恵さんを想っている人間が、ここにいるだろう?」
「え? やっぱり、利久は由利恵さんと暮らしたいの? なら、この家に戻ってくれば……」
「じゃなくて! もう! 父さん! ハッキリ言えよ!? 母さんに婉曲話法は通じないって!」
「……そのようだ。これまでの話の流れで分かってもらえないのは、教育者の家柄としては忸怩たるものがあるが。苳子。私は……」
「ちょっと待て! 父さんも、相手が違う! それは、本人にキチンと言うべきだよ!」
はあ。リクが手順すっ飛ばしたり、私の頭越しに先輩にデートの許可を取ったり、いろいろハチャメチャなのって、この家族のせい?
なまじっか知力が高いから、ハッキリ言わなくても相手に通じるとか思っているんじゃないだろうか?
これは、事細かに確認していかないと、リクも同じ失敗をやらかしそう。
うん、気を付けよう。
でも、さすがにこの一連の出来事でリクも学んだんだろうな。的確なアドバイスができているよね。
「ああ、そうか、そうだな。……由利恵、私は、ずっと君を待っていた。君以外の女性とは、一切……」
「ストップ!! せめて、他の部屋でやって! 滝本! ふたりを花壇のベンチにでも連れてって!」
心得たように、滝本さんは理事長とお師匠さまを部屋の外に連れ出す。
リクは、ホッとしたように息を吐いた。
さすがに、実の親の公開プロポーズは、気恥ずかしいよね。
「ねえ? 花壇のベンチって?」
「ああ、外の花壇の一角に、噴水があって、ちょっと休めるようになってるんだ。あとで、サホも連れていってあげるね。今の時期だと、もう薔薇がかなり咲いているかな?」
「ええ。そろそろ見頃よ。……ところで、そちらのお嬢さんは?」
今までみんなの眼中に入っていなかったわけではないと思うんだけど(滝本さんも言っていたし)、改めて注目されてしまい、何だかドキドキしてきた。
他の人がみんな外に行っていて苳子さんだけなのは、ちょっと救いだけど。
って、リクと手をつないだまま!
「あ、俺の婚約者」
さらっとリクは言って、「可愛いだろ?」とニンマリする。
誉めてくれるのは嬉しいけど……恥ずかしい。
「あ、あの、利久さんとお付き合いさせていただいております、中沢茶朋と申します」
緊張する!
だって、よく考えたら(よく考えなくても)、彼氏のお母さん、だよ?!
実の母親のお師匠さまにリクとの関係を知られた時は、事情も知らなかったし、関係が分かってからも、それどころじゃない雰囲気だったりもしたから、あんまり気にとめてなかったけど。
リクをずっと大切に育てた来たお母さんだよ!
もうドキドキだよ!
「婚約者って……お付き合いって……だって、あなた、高校生、よね?」
「うん、俺のクラスの生徒。で、顧問をしている茶道部の部員」
「教え子……って、ことよね? 利久! あなた! 仮にも教育者が?!」
……ああ、やっぱり、こういう反応返ってくるよね。
理事長のさっきの言い方だと、リクのおうちって教育者一家みたいだし。
「大丈夫。まだ、子供ができるようなことはしていないよ。清らかな関係だから」
……清らか? どの口が?!
隙あらばベタベタしてくるくせに!
って、この場合、私がツッコミをいれるわけにはいかないので、ぐっと我慢する。
「清らかな、って……でも、手をつないで……まさか、外でそんなことしていないわよね?」
「デートの時は、高校生のふりをしているから」
「あ、そうね。確かに、それなら……いえいえ! やっぱり、こんなことが人に知られたら?!」
……あんまりにも常識的でテンプレな反応で、これがさっきまで猛進しまくっていた人とは思えない。
「やっぱり、ダメよ! 教え子に手を出したなんて、千野家や高宗家の名誉に関わるわ!!」
ですよね。
やっぱり、スキャンダルですよね。
こういう展開になるって分かっていそうなものなのに、何でリク、カミングアウトしちゃったかな?
うーん。先行き不安!
改めてリクに対して、お師匠さまは向き直って。
「本当に、私がもっとキチンと、皆さんにお伝えするべきだったのね。ごめんなさい。あなたにも寂しい思いを……いえ、この様子を見ていると、苳子さんも久弥さんも、滝本さんも……皆さん、あなたを大切にしてくれたようね。本当に、感謝してもしきれないと思います」
「……確かに、母さんも父さん……伯父さんも、俺に良くしてくれたけど。でも、あなたが俺のことを気にかけてくれていたのは、なんとなく分かります。生まれてすぐ別れたのに、俺を見て、よく分かりましたね? もしかして、伯父さんの若い頃に似ていた、とか?」
「どちらか言うと、苳子さんに、かしら。久弥さんは、もう少しだけ大人っぽくて……そうね、今日の学校でのあなたみたいな感じで。それに……実は初めてではないのよ、あなたに会うのは」
「え?」
「昔、一度だけ。私が本格的に茶道を生業として独立しようと、関西から東京に出た時に、苳子さんから『会いたい』って連絡をいただいたの。映子さまにお会いしたあとで。詳しい事情まで話さなかったのに、ご存じだだったのでしょうね」
「そうね。映子さまには、その、こっそり相談していたから。……実は、あなたに出会ったのも、まるっきり偶然と言うわけではないらしくて」
「え?」
「もうお話してもいいわよね? 映子さま、お付き合いされていた老舗の和菓子屋さんの跡取りの方との結婚が決まって、お世話になっている茶道の家元さまにご挨拶に伺った時に、あなたを見かけたらしいの。由利恵さんが、家元さまに住み込みで弟子入りしていた頃でしょうね。でも、あなたの事情を聴いていたから、陰ながら様子を見られていたのでしょうね。私にも、今は自立するために修行に集中させておあげなさいって仰られて。いつか、会わせてあげるから、って」
何だか、要所要所にお母さんの名前が出るんだけど。
本当に、桜女OGの団結力というか、コネクションってすごいわ。
「それで、私が茶道教室を開こうと悩んでいる時に、タイミングよく現れてくださったのね……映子さまらしいわ。困っている時には、すっと手を差しのべて下さって。でも、ずっと見守って下さっていたことをおくびにも出さないで」
「ええ。それで、できればあなたを地元に戻らせたいから、里心を刺激するようにって」
「え? もう会えないかもしれないから、せめて利久に会わせたいって……」
「そう言わないと、あなたは遠慮して利久に会おうとしなかったでしょう? 実際、うちの場所は分かっていて、こんなに近くにいたのに、頑なに会おうとしないで」
「……そうね、確かに。私も、意地になっていた部分もあったし。でも、あの時は、本当に嬉しかったのよ。小さな利久に会えて」
「あの時?」
リクは、一生懸命に記憶を辿っているけど、思い出せないみたい。
「利久と二人で出掛けるのに一番自然だからって、遊園地で落ち合うことになって。せっかくだから、利久が行きたがっていた、あのランドに行こうって、誘ったの」
苳子さんが補足してくれた。
……って、ランドに?
それって、リクがなんとなく覚えていたって言う、あの思い出の? お母さんの他に、もう一人いたって言う、若い女の人。
「……あの時の、お姉さんが、由利恵さん?」
リクも思い当たったみたい。
「覚えていたの? まだ小さかったのに」
「いや、おぼろ気だけど。母さんの他にもいたなって。てっきり付き添いのメイドさんかと思っていたけど」
「そう……そうね。あの頃、たぶん6歳になる、ちょっと前だったはず。あなたは、苳子さんにとてもなついていて、本当に仲の良い親子で、とても愛されているって分かったわ。私にもなついてくれたけど、むずがる時は苳子さんじゃないとダメで……本当に、感謝して……ありがたくて……」
お師匠さま、「感謝」とか「ありがたい」とか、仰られているけど。
本当は、ちょっと……かなり寂しかったんじゃないだろうか?
実の息子が、離れて暮らしていたとは言え、他の女性をお母さんとして心から慕っている姿を見て、きっとありがたいけど、複雑な気持ちだったと思う。
リクに会わないようにしていたのは、感謝しなければいけないという思いと相反する、嫉妬から目を反らしたかったのかもしれないなあ。
「映子さまがあなたを地元に連れ戻したと聴いて、いつ訪ねて来てくれるかと、ずっと待っていたのに。結局、会いには来てくれなくて。映子さまが代わりに見守ってくださるから、決して居場所を探るようなことをしないで、と仰られたから、あなたを待とうと思って……でも、やっぱり会いに行けばよかったわ」
「映子さまが……。そうね、もし、苳子さんが会いに来られたら、今度こそ私は、本当に遠くへ逃げたしたかもしれないわ」
「え?」
「私、とてもズルかったのよ。利久には会いたい、利久に幸せになってもらいたい、そういう気持ちとは裏腹に、利久が今の家族の中でも笑顔でいることがツラかったし、利久を捨てたと、利久を捨てた母親だと思われたくなかった。人知れず遠くから見守る、という立ち位置を守ることで、何とか心のバランスを取っていたの。映子さまは、決心がついたらいつでも橋渡しをしてくださるって仰られて、決して無理強いされなかった。それに甘えてしまってもいたのね」
「でも、もういいでしょう? すべてが明らかになって、利久にも事情を伝えたのだし。今度こそ、この家に……」
「いえ、それは、やっぱり……」
断りつつも思い悩む様子のお師匠さまに、苳子さんは、その手を握りしめてグイグイ迫る。
……あ、こういう強引さ、絶対リクにも影響している。
一人でウジウジ悩むところとかは、お師匠さまの血も受け継いでいる感じがするのに、やっぱり環境というか、育ての親の影響って、あるのかな?
「いや、苳子、ちょっと待て。今後は気兼ねなく会うのはいいとして、何でお前と一緒に住むんだ? 今は利久もこの家に暮らしていないし。それは、他の人間に任せるべきでは……」
「だって、利久のアパートじゃ二人で住むには狭いでしょう? ここは実家なんだし、利久がちょくちょく帰ってくれば……」
「いや、利久と、という訳じゃなく……」
言葉を濁しているけど、要するに、理事長自らがお師匠さまと一緒に暮らしたい、ってことかな?
「え? だって、利久の実母なんだから、ここで母親同士、一緒に暮らせば、利久も実家帰り一回で済むでしょう? そうだ、お茶室も作ってあるのよ。いつか、由利恵さんが帰ってきた時のために、利久にもちゃんとお作法仕込んでおいたから……」
へえ、リクに茶道を教えたのって、苳子さんなんだ? なら、わりと上級者なのかな……ってそうじゃなくて!
イライラしている理事長を見て、リクがため息をついて口を挟む。
「あのさ、今さっき、自分の思い込みだけで他の意見を訊かず突き進むのはやめようって話したばっかりだと思うんだけど。母さんが、由利恵さんを大好きなのは、分かったけど。同じくらい、いまだに由利恵さんを想っている人間が、ここにいるだろう?」
「え? やっぱり、利久は由利恵さんと暮らしたいの? なら、この家に戻ってくれば……」
「じゃなくて! もう! 父さん! ハッキリ言えよ!? 母さんに婉曲話法は通じないって!」
「……そのようだ。これまでの話の流れで分かってもらえないのは、教育者の家柄としては忸怩たるものがあるが。苳子。私は……」
「ちょっと待て! 父さんも、相手が違う! それは、本人にキチンと言うべきだよ!」
はあ。リクが手順すっ飛ばしたり、私の頭越しに先輩にデートの許可を取ったり、いろいろハチャメチャなのって、この家族のせい?
なまじっか知力が高いから、ハッキリ言わなくても相手に通じるとか思っているんじゃないだろうか?
これは、事細かに確認していかないと、リクも同じ失敗をやらかしそう。
うん、気を付けよう。
でも、さすがにこの一連の出来事でリクも学んだんだろうな。的確なアドバイスができているよね。
「ああ、そうか、そうだな。……由利恵、私は、ずっと君を待っていた。君以外の女性とは、一切……」
「ストップ!! せめて、他の部屋でやって! 滝本! ふたりを花壇のベンチにでも連れてって!」
心得たように、滝本さんは理事長とお師匠さまを部屋の外に連れ出す。
リクは、ホッとしたように息を吐いた。
さすがに、実の親の公開プロポーズは、気恥ずかしいよね。
「ねえ? 花壇のベンチって?」
「ああ、外の花壇の一角に、噴水があって、ちょっと休めるようになってるんだ。あとで、サホも連れていってあげるね。今の時期だと、もう薔薇がかなり咲いているかな?」
「ええ。そろそろ見頃よ。……ところで、そちらのお嬢さんは?」
今までみんなの眼中に入っていなかったわけではないと思うんだけど(滝本さんも言っていたし)、改めて注目されてしまい、何だかドキドキしてきた。
他の人がみんな外に行っていて苳子さんだけなのは、ちょっと救いだけど。
って、リクと手をつないだまま!
「あ、俺の婚約者」
さらっとリクは言って、「可愛いだろ?」とニンマリする。
誉めてくれるのは嬉しいけど……恥ずかしい。
「あ、あの、利久さんとお付き合いさせていただいております、中沢茶朋と申します」
緊張する!
だって、よく考えたら(よく考えなくても)、彼氏のお母さん、だよ?!
実の母親のお師匠さまにリクとの関係を知られた時は、事情も知らなかったし、関係が分かってからも、それどころじゃない雰囲気だったりもしたから、あんまり気にとめてなかったけど。
リクをずっと大切に育てた来たお母さんだよ!
もうドキドキだよ!
「婚約者って……お付き合いって……だって、あなた、高校生、よね?」
「うん、俺のクラスの生徒。で、顧問をしている茶道部の部員」
「教え子……って、ことよね? 利久! あなた! 仮にも教育者が?!」
……ああ、やっぱり、こういう反応返ってくるよね。
理事長のさっきの言い方だと、リクのおうちって教育者一家みたいだし。
「大丈夫。まだ、子供ができるようなことはしていないよ。清らかな関係だから」
……清らか? どの口が?!
隙あらばベタベタしてくるくせに!
って、この場合、私がツッコミをいれるわけにはいかないので、ぐっと我慢する。
「清らかな、って……でも、手をつないで……まさか、外でそんなことしていないわよね?」
「デートの時は、高校生のふりをしているから」
「あ、そうね。確かに、それなら……いえいえ! やっぱり、こんなことが人に知られたら?!」
……あんまりにも常識的でテンプレな反応で、これがさっきまで猛進しまくっていた人とは思えない。
「やっぱり、ダメよ! 教え子に手を出したなんて、千野家や高宗家の名誉に関わるわ!!」
ですよね。
やっぱり、スキャンダルですよね。
こういう展開になるって分かっていそうなものなのに、何でリク、カミングアウトしちゃったかな?
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