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夢の追跡者
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ピタ、ピタ、ピタ……。
どこからか、聞こえる、音。
ピタッ、ピシャ、ピタッ……。
耳を澄ますと、そこに混じる水音も聞こえる。
それがどうやら足音らしいと気付き……亜夜果は、目を覚ました。
まただ……。
また、いつもの夢だ。
いえ、前よりも鮮明に聞こえる。
また、近くなった。
夜毎、確実に近付いている。
少なくとも昨日は「足音」だなんて認識は持たなかった。
それに、あの音がどうして足音だなんて分かったのか、理由は分からない。
少なくとも、普通の足音ではない。
まるで、水底から這い上がって来るような……!
そこまで考えて、亜夜果は、背筋がぞわっとした。
決して触れてはいけない事実に触れてしまったような、理由のない恐怖。
思い出してはいけない、封印された記憶。
時計代わりに枕元におかれたスマホを見ると、4時になったばかり。
まだかなり早いけど、眠りたくないな。
眠ったら、またあの夢を見そうだ。
眠る度に近付いてくる、あの音が、聞こえてきそう。
夜明け前、カーテンからのぞく窓の外のまだ暗い空を目にして、亜夜果は軽いため息をついて、起き上がる。
仕方ない、起きるか。
ゆっくりお弁当と朝ごはんでも作って、気持ちを入れ替えよう。
その後、夜が明けたら、シャワーを浴びて。
出来ればすぐにシャワーを浴びてスッキリしたいところだったが、夜中は意外と水音が響く。
それなりに防音性の高い建物だったけれど、深夜は気を遣って遣いすぎることはない。
……そう言えば。
あの夢を見始めたのは、ここに引っ越して来てからだったな。
就職して、一人暮らしを始めた、このマンション。
新卒の社会人一年目にはいくらか分不相応なオートロック式のワンルームマンション。築10年とは言え、自分一人のお給料では、やや苦しい。
もっと手頃な値段のアパートやマンションもあったが、防犯面が不安だと譲らない両親の顔を立てて(ついでに家賃の援助もしてもらって)引っ越して来たというのに。まさか事故物件?
ダメダメ! 変なこと考えて、明日から眠れなくなっちゃう!
それに、時期的にはそうだけど、この夢自体は宿泊研修をした本社近くのホテルでも見たし。
場所じゃなくて、時期、だとすれば。
イヤだな、仕事のストレスとか?
やっと3ヶ月。少しは慣れてきたと思ったのに、深層心理では不安が大きいのかも知れない。
好きで選んだ仕事ではないけれど、とりあえず家から出て一人立ちしたいという夢は叶えたわけだし(経済的には一人立ち出来ていないけど)、思ったよりも職場環境も仕事内容も悪くなくて、それなりに適応してきた、と思っていたのに。
そんなことを考えているうちにまた眠くなってきてしまった。
ヤバい! 今から寝たら、今度は起きられなくなっちゃう!
白々と明けてきた空を眺めながら、亜夜果はキッチンへ向かう。
タイマーをかけてあった炊飯器を見ればまだご飯は炊けていない。
おかずだけ、先に作ろう。
とは言え一応軽く下ごしらえしてあるから、そう時間はかからなかった。
時間潰しにコーヒーを入れて一息ついて。
完全に明けた空を見て、ようやくシャワーを浴びた。
湯気にけぶる鏡に、映る亜夜果の肢体。
染みひとつない白い肌。いまだ家族以外に見せたことがない、生まれたままの姿。もちろんここ数年は家族にも見せてはいない。
もう少し、シェイプアップしないと。腰回りとか、もう少し絞らないといけないな。
そう思ってウエストを捻ってみる亜夜果だったが、本人が考えるより、その体躯は十分に魅力的だった。
豊かに盛り上がった両の乳房と安産型の腰回り。ウエストは数値だけ見れば決して細いとは言えないが、全体のバランスから見れば、ほどよくくびれている。
手足はすんなり細く伸び、太もも付近だけ、ややむっちり肉がついている……これがまた、亜夜果本人にとっては、コンプレックスであるのだが。
あーあ、そろそろスポーツジムとか考えようかな?
でも、まだお給料的にはキツいな。せめて、家賃ぐらい自分で払えるようにならないと、そんな贅沢出来ないよね。バランスボールでも買おうかな?
シャワーを終えて濡れた髪を乾かしているうちに、先ほどの夢に対する不安や恐怖は薄れてきた。
リフレッシュして、朝ごはんを食べて家を出る頃には、もう、すっかり忘れ去っていた。
どこからか、聞こえる、音。
ピタッ、ピシャ、ピタッ……。
耳を澄ますと、そこに混じる水音も聞こえる。
それがどうやら足音らしいと気付き……亜夜果は、目を覚ました。
まただ……。
また、いつもの夢だ。
いえ、前よりも鮮明に聞こえる。
また、近くなった。
夜毎、確実に近付いている。
少なくとも昨日は「足音」だなんて認識は持たなかった。
それに、あの音がどうして足音だなんて分かったのか、理由は分からない。
少なくとも、普通の足音ではない。
まるで、水底から這い上がって来るような……!
そこまで考えて、亜夜果は、背筋がぞわっとした。
決して触れてはいけない事実に触れてしまったような、理由のない恐怖。
思い出してはいけない、封印された記憶。
時計代わりに枕元におかれたスマホを見ると、4時になったばかり。
まだかなり早いけど、眠りたくないな。
眠ったら、またあの夢を見そうだ。
眠る度に近付いてくる、あの音が、聞こえてきそう。
夜明け前、カーテンからのぞく窓の外のまだ暗い空を目にして、亜夜果は軽いため息をついて、起き上がる。
仕方ない、起きるか。
ゆっくりお弁当と朝ごはんでも作って、気持ちを入れ替えよう。
その後、夜が明けたら、シャワーを浴びて。
出来ればすぐにシャワーを浴びてスッキリしたいところだったが、夜中は意外と水音が響く。
それなりに防音性の高い建物だったけれど、深夜は気を遣って遣いすぎることはない。
……そう言えば。
あの夢を見始めたのは、ここに引っ越して来てからだったな。
就職して、一人暮らしを始めた、このマンション。
新卒の社会人一年目にはいくらか分不相応なオートロック式のワンルームマンション。築10年とは言え、自分一人のお給料では、やや苦しい。
もっと手頃な値段のアパートやマンションもあったが、防犯面が不安だと譲らない両親の顔を立てて(ついでに家賃の援助もしてもらって)引っ越して来たというのに。まさか事故物件?
ダメダメ! 変なこと考えて、明日から眠れなくなっちゃう!
それに、時期的にはそうだけど、この夢自体は宿泊研修をした本社近くのホテルでも見たし。
場所じゃなくて、時期、だとすれば。
イヤだな、仕事のストレスとか?
やっと3ヶ月。少しは慣れてきたと思ったのに、深層心理では不安が大きいのかも知れない。
好きで選んだ仕事ではないけれど、とりあえず家から出て一人立ちしたいという夢は叶えたわけだし(経済的には一人立ち出来ていないけど)、思ったよりも職場環境も仕事内容も悪くなくて、それなりに適応してきた、と思っていたのに。
そんなことを考えているうちにまた眠くなってきてしまった。
ヤバい! 今から寝たら、今度は起きられなくなっちゃう!
白々と明けてきた空を眺めながら、亜夜果はキッチンへ向かう。
タイマーをかけてあった炊飯器を見ればまだご飯は炊けていない。
おかずだけ、先に作ろう。
とは言え一応軽く下ごしらえしてあるから、そう時間はかからなかった。
時間潰しにコーヒーを入れて一息ついて。
完全に明けた空を見て、ようやくシャワーを浴びた。
湯気にけぶる鏡に、映る亜夜果の肢体。
染みひとつない白い肌。いまだ家族以外に見せたことがない、生まれたままの姿。もちろんここ数年は家族にも見せてはいない。
もう少し、シェイプアップしないと。腰回りとか、もう少し絞らないといけないな。
そう思ってウエストを捻ってみる亜夜果だったが、本人が考えるより、その体躯は十分に魅力的だった。
豊かに盛り上がった両の乳房と安産型の腰回り。ウエストは数値だけ見れば決して細いとは言えないが、全体のバランスから見れば、ほどよくくびれている。
手足はすんなり細く伸び、太もも付近だけ、ややむっちり肉がついている……これがまた、亜夜果本人にとっては、コンプレックスであるのだが。
あーあ、そろそろスポーツジムとか考えようかな?
でも、まだお給料的にはキツいな。せめて、家賃ぐらい自分で払えるようにならないと、そんな贅沢出来ないよね。バランスボールでも買おうかな?
シャワーを終えて濡れた髪を乾かしているうちに、先ほどの夢に対する不安や恐怖は薄れてきた。
リフレッシュして、朝ごはんを食べて家を出る頃には、もう、すっかり忘れ去っていた。
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