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共寝の密約
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なんだか、いい匂いがする。
空腹感を覚えて、尭司は目が覚めた。
見覚えのない天井。ここは……?
そうだ、亜夜果の部屋だ……。
まだ頭はぼんやりするが、睡眠欲より食欲が勝って、尭司は起き上がった。
「あ、尭司、起きた? 良く寝てたね。疲れていたのね」
「あ、うん。今……ゲッ、もう8時近いじゃん! 起こしてくれてよかったのに」
「すごく良く寝ていたから。お腹すいた? ご飯にする?」
そう言うと、亜夜果は手早く食卓を整える。
ホント、亜夜果ってスゴイ!
みるみるうちに、おかずの皿がいくつも並ぶ。それも、ホカホカ湯気が立ってる。
「あ、食べないで待っててくれたの?」
「だって、尭司がいるのに、一人きりで食べるなんて。まあ、お昼は一人で済ませたけど」
そう言えば、ここに来てすぐ、亜夜果は食事やら洗濯やらでクルクル動いていて、自分はただ、言われるまま入浴して、ご飯を食べて、寝て……なんて自堕落な。
「ゴメン、なんか、全部亜夜果にやってもらってて……」
ふと見ると、通勤カバン代わりのリュックサックのそばには、きれいに畳まれたYシャツとスラックスが置いてあり、その脇にどこかの店のビニールバッグに包まれたものが置いてあり……多分洗濯した下着。
「亜夜果、ホント、すごいな」
「別に、大したことないよ」
「大したことあるよ。警察って、一応、研修に入る時は、洗濯もアイロンがけも、自分でやらないといけないんだけど、スゲー大変だったもん。特に、アイロンがけとか。スラックスなんか、テラテラしたり、プリーツが二本できちゃって、直すの大変だった。みんなで飯作る時だって、めんどくさいからこんなに品数作らないし」
「どんなもの作るの?」
「好評だったのは米といで、鯖の水煮の缶詰め丸ごと入れて、正油垂らして炊くだけ、とか」
「それ、美味しそう。ネギとか生姜とか入れないの?」
「炊き立ては、そのままで旨いから。冷めると味落ちるんで、そうしたら刻みネギとワサビのせて、麦茶とかかけて食べると、また旨いから。あ、宮崎からきたヤツに言ったら、キュウリと冷やした味噌汁かけても旨いぞって教えてもらってやったら旨かった。いりごまちょっとかけて」
「あ、冷や汁って言うのかな? それも美味しそうね。今度作ってみようかな」
「だったら俺が作るよ。そんなのでよければ」
「うん、お願い。楽しみにしてるわ」
亜夜果が用意してくれた夕食のメインは豚肉の生姜焼きだった。薄切り肉のタイプだったけど、炒めた玉ねぎとタレが絡んで、めちゃくちゃ旨い。添えられた千切りキャベツもタレがしみて食が進む。
小鉢にはキュウリとワカメの酢の物。それにポテトサラダもある。
味噌汁は小松菜と油揚げ。
「なんか、亜夜果って、めちゃくちゃきちんとしつけられた娘さん、って感じがする」
旺盛な食欲を見せて、きれいに平らげたあと、亜夜果に入れてもらったほうじ茶を啜りながら、尭司は感慨深げに言った。
「そうでもないよ? 高校生までは何にもできなかったもん」
「そうなの?」
「まあ、お手伝いレベル? 大学卒業したら一人暮らししたいって話したら、お父さんに家事万端こなせるまで認めないって言われて。必死で4年間頑張ったよ。むしろ、大学の勉強より頑張った」
「何のために大学行ったんだよ」
尭司が苦笑すると。
「だって、うち、過保護だったから。まあ、今も、まだすねかじってるんだけとね。大事に育ててもらったけど、その分、誰かに守って貰うのが当たり前で。高校生の時だって、いつも尭司が守ってくれていたから。だけど、肝心な時に、自分の気持ちをちゃんと伝えられなくて、あんなことに……だから、大人になったら自分の力で生きていこうって……全くダメだけどね」
「そんなことないよ。全然、スゴいよ。俺の方が一人暮らし長いのに、亜夜果に敵わないし。それに……あんまり、しっかり一人立ちされちゃうと、俺の入る余地がなくなる」
「え?」
「俺には、少しくらい、スキを見せてほしいな、って。あと、俺だって、亜夜果の役に立ちたいから、あんまり完璧だと、これから大変……」
「これから?」
「亜夜果と、……その、例えば、家庭、を持ったり、とか」
「かて……あ、うん、それは、まあ、お互いにできることを、すれば、いいんじゃ、ないのか、な?」
尭司の言葉に隠された「結婚」の意味を感じ取って、亜夜果は頬を染め、少ししどろもどろになる。
「……そうだね。俺もできる限り一緒にやりたいけど、でも、きっと亜夜果には敵わないし、任せてしまうことも多いと思う。こんな男とは、一緒に生活できない?」
「疲れている時は、むしろ遠慮しないで甘えてもらいたいわ。そうして、また尭司が元気にお仕事出来るように、私はサポートしたいって思う。その……いつか、そんな日が、きたら、ね?」
「いつか、ね。まあ、今はもうちょっと、こんな関係、楽しんでもいいかな」
「……どんな関係?」
「会いたくて会いたくて、でも会えなくて、もどかしくて……だから、一緒にいられるのが、嬉しくてたまらない、みたいな?」
「いつも一緒にいたら、飽きちゃう?」
「飽きない! それはそれ!」
慌てて否定する尭司にほうじ茶のおかわりを注ぎ。
「あのね、実は昨日、警察署から連絡があって……」
亜夜果が切り出すと、尭司はとたんに真剣な顔つきになる。
「例の、あの男が、その……」
「一応聞いている。と言うかフォローするように頼まれている。だから、亜夜果は心配しないで。ただ……あの夜に、もらったパンフレット、読んだ?」
「『犯罪被害にあわれた方へ』って、の? うん、一応」
「今後、裁判になれば証人として出廷を求められると思う。まあ、今はプライバシーに配慮して、別室やビデオでの証言も出来るようにはなっているけど。でも、話したくないことも訊かれる可能性はある。ツラいかも知れないけど」
「……でも、あの男を裁くためには必要なんでしょう? 仕方ないわ。その時は、がんばる」
「俺もサポートするから。まずは詳しい事情を訊きにいくかどうかだけど」
「……本当は、あまり聴きたくないの。思い出したくない。忘れたいの。裁判になったらちゃんとするから、まだもうしばらく、このままでもいいかな?」
「わかった。そう伝えておくよ。まだ、数日しか経っていないんだもんな。訊きたくなったら、いつでも言って……やっと、アザも薄くなってきたね」
亜夜果の左頬を撫で、尭司は優しく囁く。
「そうね。このアザが完全に消えたら、もう少し落ち着いて考えられると思うから……」
「そうだね」
亜夜果の頬に手を添えて、尭司はそっと顔を近付ける。アザのある辺りに、ふんわりとキスをする。
「早く治るといいね。そうしたら、二人で外にも遊びに行けるし。亜夜果と行きたいところ、沢山あるんだ」
「どこに行きたいの?」
「そうだな、これからの季節なら、海、とか? 亜夜果の水着姿、見たいな」
「もう、変な想像してるでしょ?」
「うん、あ、いや……でも、よく考えたら、他のヤローには亜夜果のビキニとか見せたくないな。ああ、複雑!」
「ビキニなんて持ってないもん」
「えー、絶対似合うのに」
他愛もない会話をしながら、気が付けば尭司は亜夜果を抱き締めていた。軽い口調で亜夜果をからかいながら、徐々に声は囁きに近くなる。耳に尭司の息がかかる。その息遣いの荒さに、亜夜果は尭司の熱情を感じ取った。
「ねえ、亜夜果……」
「や、ダメよ、まだ、後片付けが……」
「後で俺がやるから……もう、モード入っちゃったし……亜夜果……ね……」
返事を待たず、尭司は亜夜果の唇を奪う。もどかしげに亜夜果のカットソーの裾に手を差し込み、その中の膨らみを確かめ、瞬く間に露にしていく。
流されるように亜夜果は尭司の愛撫を受け入れ、やがて……。
数時間後、亜夜果は尭司の腕の中で、安らかな眠りに入っていた。
空腹感を覚えて、尭司は目が覚めた。
見覚えのない天井。ここは……?
そうだ、亜夜果の部屋だ……。
まだ頭はぼんやりするが、睡眠欲より食欲が勝って、尭司は起き上がった。
「あ、尭司、起きた? 良く寝てたね。疲れていたのね」
「あ、うん。今……ゲッ、もう8時近いじゃん! 起こしてくれてよかったのに」
「すごく良く寝ていたから。お腹すいた? ご飯にする?」
そう言うと、亜夜果は手早く食卓を整える。
ホント、亜夜果ってスゴイ!
みるみるうちに、おかずの皿がいくつも並ぶ。それも、ホカホカ湯気が立ってる。
「あ、食べないで待っててくれたの?」
「だって、尭司がいるのに、一人きりで食べるなんて。まあ、お昼は一人で済ませたけど」
そう言えば、ここに来てすぐ、亜夜果は食事やら洗濯やらでクルクル動いていて、自分はただ、言われるまま入浴して、ご飯を食べて、寝て……なんて自堕落な。
「ゴメン、なんか、全部亜夜果にやってもらってて……」
ふと見ると、通勤カバン代わりのリュックサックのそばには、きれいに畳まれたYシャツとスラックスが置いてあり、その脇にどこかの店のビニールバッグに包まれたものが置いてあり……多分洗濯した下着。
「亜夜果、ホント、すごいな」
「別に、大したことないよ」
「大したことあるよ。警察って、一応、研修に入る時は、洗濯もアイロンがけも、自分でやらないといけないんだけど、スゲー大変だったもん。特に、アイロンがけとか。スラックスなんか、テラテラしたり、プリーツが二本できちゃって、直すの大変だった。みんなで飯作る時だって、めんどくさいからこんなに品数作らないし」
「どんなもの作るの?」
「好評だったのは米といで、鯖の水煮の缶詰め丸ごと入れて、正油垂らして炊くだけ、とか」
「それ、美味しそう。ネギとか生姜とか入れないの?」
「炊き立ては、そのままで旨いから。冷めると味落ちるんで、そうしたら刻みネギとワサビのせて、麦茶とかかけて食べると、また旨いから。あ、宮崎からきたヤツに言ったら、キュウリと冷やした味噌汁かけても旨いぞって教えてもらってやったら旨かった。いりごまちょっとかけて」
「あ、冷や汁って言うのかな? それも美味しそうね。今度作ってみようかな」
「だったら俺が作るよ。そんなのでよければ」
「うん、お願い。楽しみにしてるわ」
亜夜果が用意してくれた夕食のメインは豚肉の生姜焼きだった。薄切り肉のタイプだったけど、炒めた玉ねぎとタレが絡んで、めちゃくちゃ旨い。添えられた千切りキャベツもタレがしみて食が進む。
小鉢にはキュウリとワカメの酢の物。それにポテトサラダもある。
味噌汁は小松菜と油揚げ。
「なんか、亜夜果って、めちゃくちゃきちんとしつけられた娘さん、って感じがする」
旺盛な食欲を見せて、きれいに平らげたあと、亜夜果に入れてもらったほうじ茶を啜りながら、尭司は感慨深げに言った。
「そうでもないよ? 高校生までは何にもできなかったもん」
「そうなの?」
「まあ、お手伝いレベル? 大学卒業したら一人暮らししたいって話したら、お父さんに家事万端こなせるまで認めないって言われて。必死で4年間頑張ったよ。むしろ、大学の勉強より頑張った」
「何のために大学行ったんだよ」
尭司が苦笑すると。
「だって、うち、過保護だったから。まあ、今も、まだすねかじってるんだけとね。大事に育ててもらったけど、その分、誰かに守って貰うのが当たり前で。高校生の時だって、いつも尭司が守ってくれていたから。だけど、肝心な時に、自分の気持ちをちゃんと伝えられなくて、あんなことに……だから、大人になったら自分の力で生きていこうって……全くダメだけどね」
「そんなことないよ。全然、スゴいよ。俺の方が一人暮らし長いのに、亜夜果に敵わないし。それに……あんまり、しっかり一人立ちされちゃうと、俺の入る余地がなくなる」
「え?」
「俺には、少しくらい、スキを見せてほしいな、って。あと、俺だって、亜夜果の役に立ちたいから、あんまり完璧だと、これから大変……」
「これから?」
「亜夜果と、……その、例えば、家庭、を持ったり、とか」
「かて……あ、うん、それは、まあ、お互いにできることを、すれば、いいんじゃ、ないのか、な?」
尭司の言葉に隠された「結婚」の意味を感じ取って、亜夜果は頬を染め、少ししどろもどろになる。
「……そうだね。俺もできる限り一緒にやりたいけど、でも、きっと亜夜果には敵わないし、任せてしまうことも多いと思う。こんな男とは、一緒に生活できない?」
「疲れている時は、むしろ遠慮しないで甘えてもらいたいわ。そうして、また尭司が元気にお仕事出来るように、私はサポートしたいって思う。その……いつか、そんな日が、きたら、ね?」
「いつか、ね。まあ、今はもうちょっと、こんな関係、楽しんでもいいかな」
「……どんな関係?」
「会いたくて会いたくて、でも会えなくて、もどかしくて……だから、一緒にいられるのが、嬉しくてたまらない、みたいな?」
「いつも一緒にいたら、飽きちゃう?」
「飽きない! それはそれ!」
慌てて否定する尭司にほうじ茶のおかわりを注ぎ。
「あのね、実は昨日、警察署から連絡があって……」
亜夜果が切り出すと、尭司はとたんに真剣な顔つきになる。
「例の、あの男が、その……」
「一応聞いている。と言うかフォローするように頼まれている。だから、亜夜果は心配しないで。ただ……あの夜に、もらったパンフレット、読んだ?」
「『犯罪被害にあわれた方へ』って、の? うん、一応」
「今後、裁判になれば証人として出廷を求められると思う。まあ、今はプライバシーに配慮して、別室やビデオでの証言も出来るようにはなっているけど。でも、話したくないことも訊かれる可能性はある。ツラいかも知れないけど」
「……でも、あの男を裁くためには必要なんでしょう? 仕方ないわ。その時は、がんばる」
「俺もサポートするから。まずは詳しい事情を訊きにいくかどうかだけど」
「……本当は、あまり聴きたくないの。思い出したくない。忘れたいの。裁判になったらちゃんとするから、まだもうしばらく、このままでもいいかな?」
「わかった。そう伝えておくよ。まだ、数日しか経っていないんだもんな。訊きたくなったら、いつでも言って……やっと、アザも薄くなってきたね」
亜夜果の左頬を撫で、尭司は優しく囁く。
「そうね。このアザが完全に消えたら、もう少し落ち着いて考えられると思うから……」
「そうだね」
亜夜果の頬に手を添えて、尭司はそっと顔を近付ける。アザのある辺りに、ふんわりとキスをする。
「早く治るといいね。そうしたら、二人で外にも遊びに行けるし。亜夜果と行きたいところ、沢山あるんだ」
「どこに行きたいの?」
「そうだな、これからの季節なら、海、とか? 亜夜果の水着姿、見たいな」
「もう、変な想像してるでしょ?」
「うん、あ、いや……でも、よく考えたら、他のヤローには亜夜果のビキニとか見せたくないな。ああ、複雑!」
「ビキニなんて持ってないもん」
「えー、絶対似合うのに」
他愛もない会話をしながら、気が付けば尭司は亜夜果を抱き締めていた。軽い口調で亜夜果をからかいながら、徐々に声は囁きに近くなる。耳に尭司の息がかかる。その息遣いの荒さに、亜夜果は尭司の熱情を感じ取った。
「ねえ、亜夜果……」
「や、ダメよ、まだ、後片付けが……」
「後で俺がやるから……もう、モード入っちゃったし……亜夜果……ね……」
返事を待たず、尭司は亜夜果の唇を奪う。もどかしげに亜夜果のカットソーの裾に手を差し込み、その中の膨らみを確かめ、瞬く間に露にしていく。
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