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子供の頃の将来の夢とか今になって語るとか結構恥ずかしい
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色々心配はありながらも、私は尊流との関係を隠しながら、年の瀬を迎えた。
12月! 師走!
年末はいつもより忙しいけど、私は一年生担当だし、尊流は二年生……受験生の三年生(とその担当)に比べたら、気楽な年末。
と言っても、外で見られたらまずいから、クリスマスデートとかは望むべくもない。
まあ、尊流となら、おうちクリスマスもきっと楽しいと思う。
美味しいご馳走作って、二人でこっそりパーティーもいいかもね。
それに、マンション最上階からは、それなりに夜景も楽しめるし。
何作ろうかなぁ、なんて想像しながらお風呂から上がると、珍しく尊流が机に向かって考え込んでいた。
学校の宿題や予習復習なんかは気が付くとさっさと終わらせていて、私の前で勉強しているところはほとんど見たことがない。
でも、成績は学年上位をキープしているので、ちゃんとやっているのは分かる。
「何か難しい課題出たの?」
「うん、難しい……正直に書けないし」
尊流が顔を上げて、向き合っていたプリントを持ち上げて見せた。
「あー、進路希望調査かぁ。そう言えば、二年生は来週三者面談だもんね」
「うん。もう、めんどくさいな。親はお前の勝手にしな、とか、言うから、地元の大学書いたら、担任に突き返された」
「あ、……高岡先生は、そんな感じかもね」
二学年主任も勤める数学担当の高岡先生は、自分のクラスの進路指導に、特に熱心だって聞いている。
特に、と言うのは、単なる合格率ではなく、高偏差値の大学合格率にこだわりが強いのだ。
「尊流の偏差値なら、MARCHあたりはまず基本、って、考えているだろうしね」
「ていうか、進路って、自分の将来の希望で選ぶものなんじゃないの? 何で偏差値とかで決められならきゃなんないのさ?」
「それは、まあ、その通りなんだけど……。同じ学部なら、偏差値の高いところを出た方が、将来有利って思っている人も多いんだと思うよ」
「本人がいいって思っているんだから、希望のところでいいじゃないか」
「……尊流は、どんな理由で、地元の大学にしたいの?」
「え、そりゃ、センセと離れたくないから」
「……なるほど」
確かに、そんなこと、志望動機に正直に書けないわ。
「センセはさ、何で教師になろうと思ったの?」
「え?」
突然訊かれて、私は一瞬戸惑った。
「……ん、そうだなぁ……正直、中学までは、絶対なりたくない職業だったんだよね、学校の先生って」
「そうなんだ? なのに、どうして? っていうか、絶対なりたくないって、逆に気になる」
「いや、実は、うちって私が中学3年になるまで、母子家庭だったんだよね。親が離婚しててさ。で、中3で母親が再婚して。まあ、その時に名字が変わったのよ」
「……へえ」
「で、親も気にして、もう少しで卒業なんだし、学校では旧姓で通してもいいんじゃないかって、学校に相談したんだよね。そうしたら、その時の担任が……どういうわけか、ものすごい怒って」
「何で? そんなの、家庭の事情じゃん」
「私もそう思ったけど、とにかくすごい剣幕で。親の幸せを喜ばないのか! って家族の一体感とか、親子の愛情とか、とにかく、旧姓で通すのは、理解のないワガママな言い分だって」
「……自分ちで、何かあったんじゃ?」
「うん。卒業したあと聞いた話だと、結婚した時に、奥さんが旧姓で仕事したがって、それを認めたのはいいんだけど、結局離婚して。奥さんの浮気で。だから、旧姓名乗って何かするのは、裏切るつもりがある気持ちの現れなんだって……ワケわかんないよね?! そもそもキリがいいところで変えたい、って言ってるだけで、しかも、親はちゃんと新しい名字名乗っているっていうの! ……とにかく、一方的に家族ぐるみで人格否定されて。あと、うちが離婚してのひとり親家庭だったことが、そもそもダメな家庭だ、くらいのことまで言われて。15歳の無力な子供のハートはズタズタよ」
「ひどいセンコーだな。そんなのに担任されたら、確かに絶対教師になんかなりたくない、って思うよ」
「まあね。でも、高校生の時に担任してくれた先生とさ、進路の話になった時に、同じ話して……そうしたら、泣いちゃってさ……同じ教師として申し訳ないって。卒業した中学にクレームつけに行くって言い出して、ホントにパワハラで通報しちゃったんだよね。まあ、他にも色々言われていた子がいたみたいで、水面下できっちり証拠固めしてから問題にしたから、私からの情報だって分からないようにしてくれたんだけど」
「すっげえ、パワフル……でも、いい先生だね」
「そうだね。で、こういう先生になら、なりたいな、って、ちょっと思い始めて。生徒の話をきちんと聴ける先生になりたいな、って……やだな、語っちゃった……恥ずかしいな」
「ううん、センセのそういう話、聴けて嬉しい」
「ありがと」
「……俺、もう少し真剣に考えてみるよ。担任を納得させられるくらい、きちんと」
尊流は真剣な眼差しでそう宣言して。
それは、いつもとは違う、きちんと自分の将来に向き合おうとする、大人びた目で。
……正直、ちょっと惚れ直しちゃった。
「あ、でも、本当の第一希望は、センセとのウエディングベルだからね……初夜は済ませちゃったけど、将来のために、誓いのキスの練習しよ?」
……ごめん、見直したの、取り消し。
あと、……こんな濃厚な誓いのキス、人に見せられないからっ!
12月! 師走!
年末はいつもより忙しいけど、私は一年生担当だし、尊流は二年生……受験生の三年生(とその担当)に比べたら、気楽な年末。
と言っても、外で見られたらまずいから、クリスマスデートとかは望むべくもない。
まあ、尊流となら、おうちクリスマスもきっと楽しいと思う。
美味しいご馳走作って、二人でこっそりパーティーもいいかもね。
それに、マンション最上階からは、それなりに夜景も楽しめるし。
何作ろうかなぁ、なんて想像しながらお風呂から上がると、珍しく尊流が机に向かって考え込んでいた。
学校の宿題や予習復習なんかは気が付くとさっさと終わらせていて、私の前で勉強しているところはほとんど見たことがない。
でも、成績は学年上位をキープしているので、ちゃんとやっているのは分かる。
「何か難しい課題出たの?」
「うん、難しい……正直に書けないし」
尊流が顔を上げて、向き合っていたプリントを持ち上げて見せた。
「あー、進路希望調査かぁ。そう言えば、二年生は来週三者面談だもんね」
「うん。もう、めんどくさいな。親はお前の勝手にしな、とか、言うから、地元の大学書いたら、担任に突き返された」
「あ、……高岡先生は、そんな感じかもね」
二学年主任も勤める数学担当の高岡先生は、自分のクラスの進路指導に、特に熱心だって聞いている。
特に、と言うのは、単なる合格率ではなく、高偏差値の大学合格率にこだわりが強いのだ。
「尊流の偏差値なら、MARCHあたりはまず基本、って、考えているだろうしね」
「ていうか、進路って、自分の将来の希望で選ぶものなんじゃないの? 何で偏差値とかで決められならきゃなんないのさ?」
「それは、まあ、その通りなんだけど……。同じ学部なら、偏差値の高いところを出た方が、将来有利って思っている人も多いんだと思うよ」
「本人がいいって思っているんだから、希望のところでいいじゃないか」
「……尊流は、どんな理由で、地元の大学にしたいの?」
「え、そりゃ、センセと離れたくないから」
「……なるほど」
確かに、そんなこと、志望動機に正直に書けないわ。
「センセはさ、何で教師になろうと思ったの?」
「え?」
突然訊かれて、私は一瞬戸惑った。
「……ん、そうだなぁ……正直、中学までは、絶対なりたくない職業だったんだよね、学校の先生って」
「そうなんだ? なのに、どうして? っていうか、絶対なりたくないって、逆に気になる」
「いや、実は、うちって私が中学3年になるまで、母子家庭だったんだよね。親が離婚しててさ。で、中3で母親が再婚して。まあ、その時に名字が変わったのよ」
「……へえ」
「で、親も気にして、もう少しで卒業なんだし、学校では旧姓で通してもいいんじゃないかって、学校に相談したんだよね。そうしたら、その時の担任が……どういうわけか、ものすごい怒って」
「何で? そんなの、家庭の事情じゃん」
「私もそう思ったけど、とにかくすごい剣幕で。親の幸せを喜ばないのか! って家族の一体感とか、親子の愛情とか、とにかく、旧姓で通すのは、理解のないワガママな言い分だって」
「……自分ちで、何かあったんじゃ?」
「うん。卒業したあと聞いた話だと、結婚した時に、奥さんが旧姓で仕事したがって、それを認めたのはいいんだけど、結局離婚して。奥さんの浮気で。だから、旧姓名乗って何かするのは、裏切るつもりがある気持ちの現れなんだって……ワケわかんないよね?! そもそもキリがいいところで変えたい、って言ってるだけで、しかも、親はちゃんと新しい名字名乗っているっていうの! ……とにかく、一方的に家族ぐるみで人格否定されて。あと、うちが離婚してのひとり親家庭だったことが、そもそもダメな家庭だ、くらいのことまで言われて。15歳の無力な子供のハートはズタズタよ」
「ひどいセンコーだな。そんなのに担任されたら、確かに絶対教師になんかなりたくない、って思うよ」
「まあね。でも、高校生の時に担任してくれた先生とさ、進路の話になった時に、同じ話して……そうしたら、泣いちゃってさ……同じ教師として申し訳ないって。卒業した中学にクレームつけに行くって言い出して、ホントにパワハラで通報しちゃったんだよね。まあ、他にも色々言われていた子がいたみたいで、水面下できっちり証拠固めしてから問題にしたから、私からの情報だって分からないようにしてくれたんだけど」
「すっげえ、パワフル……でも、いい先生だね」
「そうだね。で、こういう先生になら、なりたいな、って、ちょっと思い始めて。生徒の話をきちんと聴ける先生になりたいな、って……やだな、語っちゃった……恥ずかしいな」
「ううん、センセのそういう話、聴けて嬉しい」
「ありがと」
「……俺、もう少し真剣に考えてみるよ。担任を納得させられるくらい、きちんと」
尊流は真剣な眼差しでそう宣言して。
それは、いつもとは違う、きちんと自分の将来に向き合おうとする、大人びた目で。
……正直、ちょっと惚れ直しちゃった。
「あ、でも、本当の第一希望は、センセとのウエディングベルだからね……初夜は済ませちゃったけど、将来のために、誓いのキスの練習しよ?」
……ごめん、見直したの、取り消し。
あと、……こんな濃厚な誓いのキス、人に見せられないからっ!
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