幼なじみが結婚することになって後悔しまくりのヘタレな俺の初恋がたり

清見こうじ

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再会・再開

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 あれから、10年……。

 杏子のことを引きずっていたわけではないけれど……全くないわけでもないけれど……俺は、未だに独りだった。

 冗談でなく仕事に忙殺されて、出会いがあっても育てている暇もなく、年月は過ぎた。

 役職に付き、ようやく海外と日本を行き来するだけだった日々にゆとりが出てきた……景気の変化で、海外出張が抑制ぎみになったことも、一因ではあるけれど。

 今、結婚を意識して、付き合い始めた女性がいる。付き合う、と言っても、まだお茶や食事をしたり、メールや電話で話したり、そんな恋人未満な関係。

 物静かで、その分、内気な所がある、5歳年下の図書館司書。

 余裕が出来て通い始めた市立図書館で出会った。

 本が好き、ということ以外は、杏子とはあまり共通点はない。
 内気過ぎて、男性と個人的な付き合いをしないまま、30歳の誕生日を迎えてしまった……そう話してくれた。
 そんな彼女だから、なかなか先に進めないでいる。
 お互い、結婚を意識しているのは何となく伝わっているんだけど……一歩がなかなか踏み出せないでいた、そんな時。

 杏子に、会った。

 あれ以来、同級会には全く顔を出さなかったから、実に10年ぶり。
 あの時と同じ、夏の、夜。

「やだ、外山くん? スッゴい久しぶりー!」
 あの日別れたコンビニの駐車場で、まさかの再会、だった。
「みな……えっと、杏子?」

 何て呼べばいいのか悩んで、遠慮がちに下の名前を口にした。

「……子供?」
 杏子の後ろに隠れるようにして、俺を観察している、小さなの男の子を見て、俺は尋ねた。
「そう。タク、ごあいさつなさい。お母さんの小さい時からの、お友達」
 杏子に強引に前に押し出され、それでもキチンと挨拶する男の子。
「トオヤマタクヤでしゅ」
 一瞬、自分の苗字に聞こえて、それから違うことに気付いた。トヤマ、じゃなくて、トオヤマ、だ。
「しゃんしゃいでしゅ」
 舌ったらずな物言いが可愛らしい。
「タクヤくんか。いい名前だね」
「おじちゃんは?」
 ………そうだよな。もう俺だっておじさん、って言われる年だよな。

「外山、司、です」
「トオヤマ、チュカシャ? おじちゃん、おんなし、おなまえ? 」
「タク………おにいさん、って言ってあげて。あと、ト、オ、ヤ、マ、じゃなくて、ト、ヤ、マ、ツカサさん」
「はい、チュカシャおにいしゃん」

「………いいよ、おじちゃんで。そうか、名前、トオヤマだったんだ。遠いに山?」
「うん。そういえば、名前も伝えていなかったんだね、私。………恥ずかしいけど、旦那と親しくなったのも、さっきの名前の聞き違いがきっかけだったのよ。『トヤマさん』『いえ、トオヤマです』みたいに」

 杏子が「トヤマキョウコ」になる未来を妄想したこともあったけど、現実には「トオヤマキョウコ」になったのか。たった一字が大きな違いだ。同じ名前の間違いがきっかけなのに、な。

「相変わらずなんだな。昔も、俺の名前、書き間違えたことあっただろ?」
「……よく覚えているね、小1の時の話じゃない?」
「まあ、その頃からの付き合いだしな。……今日は実家?」
「うん。幼稚園夏休みに入ったから、遊びに寄越せって言われて、昨日からお泊まりで実家に預かってもらったの。仕事終わって、今引き取ってきたところ。普段は旦那の親が見てくれているんだけど」
「子育てしながら、ずっと働いているんだ」

「うん。実は………看護学校に入り直して、今は看護師として働いているんだ」
「え? ………結婚したんじゃ?」
「結果的にはしたよ。でもね、実はずっとモヤモヤしていて。昔、外山くんが言われた時に、はっきりしたの」
「えっ?」

「『看護師になると思ってた』みたいなこと。同級会のあと、車で………そう、ここまで送ってきた時」
「あ、ああ、確かに、そんなこと言ったかも」

「私もね、本当は看護師になりたかったんだよ。でも、人の死や、血を見るのが怖くて、覚悟がつかなかった」
「そうなんだ」
「だけど、介護士として働きながら、利用者さんの看取りに立ち会うこともあって、もっと出来ることがあるのかな、なんて朧気に思うことがあって。その時までは、何となく、だったんだけど」

 話しているうちに眠たそうに頭を揺らし始めたタクヤくんを、杏子は抱き上げた。

「外山くんに言われて、思い出したの。私は、ずっと看護師になりたかったんだって。家に帰って、小学校の時の卒業文集出して見直してみたの。『笑顔で患者さんを見守って、いざという時に患者さんを助けることが出来るようになりたい』って書いてあった。そうしたら、もう止まらなくなって」
「それで、結婚してから?」
「ううん。旦那には、今から看護師目指したい、迷惑かけるから婚約解消されても仕方ない、って言ったの。でも、結婚して、家族として応援させて欲しいって言われて………甘えちゃった。すぐに受験勉強始めて、幸い社会人入試で拾ってもらえて、次の春に入学して………何とか資格取れました」

「………何と言うか、杏子らしいと言えば確かにそうなんだけど………思い込んだら一直線なんだな、相変わらず」
「外山くんは、ずっと同級会には来なかったから、言いそびれちゃったね」
「いや、でも、いい旦那さんで、よかったな」
「うん。今思うと破談になっても仕方なかったと思うけど、ホントに助けられました。今は病院で働いているよ。………外山くんは?」
「それなりに忙しいかな」
「じゃなくて、結婚とか」
「まだ、独り」
「彼女とか、は?」
「一応。結婚も考えている……まだ、どうなるかわからないけどな。趣味も好みも違うし。本好きなことくらいかな、共通点は」

 俺と、あるいは、お前と。

 主語がどちらでもよかった。そうか。
 俺達は、あまりに似すぎていたんだ。だから、惹かれあい……でも添うことは出来なかった。
 同じ軌道をいく天体のように。
 同じ極の、磁石のように。
 決して、交わることのない、なのに憧れ続ける、お互いに。

「うちのダンナもね、正直、趣味は全然違うの。絵にも本にも興味がない。鉄道オタクで、写真が趣味」
「そうなんだ」
「……でもね、だからあの人と一緒にいるのか退屈かって言うと、そうでもないの。強引に鉄道旅行に駆り出されるのは、正直しんどいけど、夢中で写真を撮っているあの人を見るのは楽しいの……まあ、それも、しばらくはお預けだけど」

 そう言って、そっとお腹を撫でる。

「二人目が出来たの。今、5ヶ月。まだ、目立たないでしょ?」

 面白そうに笑う杏子は、いままで以上に、幸せそうだった。

「幸せなんだな」
「うん」

 てらいもなく微笑む杏子が、眩しかった。

「旦那にはすごく助けてもらっているし、とっても大切に思っている。でもね」
 すっ、と笑顔を消して、真面目な顔をして。

「10年前のあの夜、外山くんが、背中を押してくれたから、今の私があると思う」
「いや、俺は、何も」
「………何もしないでくれたんだよね? あの時」
「杏子………気付いて?」
「さすがに、ね。私にも、ちょっと………かなり、未練はあったし。だって、12年間も好きだったんだよ」

 あっさりと言われて、でもそれは、悲痛なものではなく。
 懐かしい、思い出の領域に入った感情になっているのだ、すでに。

 お互いに。

「そうだな。なんかバカみたいだよな。二人とも12年間も好きだったのに、その倍以上の年数経ってから、こんな話するなんて、な。………今さらだけど、俺も、ずっと好きだった、よ」
「………ホント、今さらだよね。……でも、ありがとう。ツックン」

 昔懐かしい呼び方をされて、何だかこそばゆい。
 杏子に絵を誉められた時のような、あったかい、気持ち。

「今度は、ちゃんと伝えなよ。あんな泣きそうな顔して、笑ったりしないでね」

 それも、気付いていたんだ? ていうか、俺、泣きそうな顔していたんだ……。

「大丈夫。杏子も、体大切にな」
「ありがとう。………じゃあ、ね」

 10年前と同じ言葉で、別れを告げる。

 あの時は、苦しくて、情けなくて。
 我ながらヘタレぶりに、涙が出たけど。

 その短い言葉に、杏子は沢山の想いを込めていたのだろう。それに気付いた今、同じ過ちは繰り返したくない。

 もう、後悔したくない。

 スマホを取り出し、彼女のアドレスを開く。


『遅くにゴメンm(__)m 話したいことがあるんだけど、予定教えて下さい^_^;』


 メール送信。

 不躾だと思ったけど、杏子に背を押してもらった想いを、早く伝えたかった。

 好きだと言う気持ちを、キチンと伝えたかった。


『明日から書架点検で遅くなるので、今から会いませんか?』

 俺は待ち合わせに、近くのファミレスを指定して、送信した。
 深呼吸して、気持ちを整える。

 まず、何て、話そうか。

 ドキドキする。
 あの時みたいに。
 でも、今度は、間違えない。

 勇気を持って。キチンと、進んでみせる。

 今度こそ。

 

 初恋、リベンジ!

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