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決意
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沈黙に支配されたまま、車は走り続ける。
来月には、結婚してしまうんだ。
分かりきっていることなのに、何度も、同じ言葉を、繰り返す……心の中で。
だから、どうだと言うんだ?
諦めたいのか……それとも……やり直したいのか?
やり直したい?
始まってもいないのに?
杏子が俺を好きで、俺は杏子が好きだった、あの頃で、止まったまま。
このまま、知らん顔して別れたら、苦くて甘い、初恋として、いつの日か、いい思い出になるかもしれない……何年後か、何十年後かに。
「……結婚するんだ」
心の中で唱え続けていたフレーズが、思わず口に出てしまった。
「え……?」
驚いたように俺を見て、慌てて前を向きなおす。
運転に集中している杏子の横顔が、心なしか強張っている気がする。
辺りは国道を外れ、市街から離れた、薄暗い道だ……もう、家までわずかの所に来ている。
あと10分足らずで、俺の家に着いてしまう。
どうしようか?
車は減速し、赤信号で止まった。
対向車はない。
後続の車も、ない。
だからと言って、いくら何でも、こんな所では……ことに及ぶこともできない。
気分が悪いと言って、車を寄せてもらおうか?
きっと杏子は、親身になって、介抱してくれるに違いない。
そうしたら、あとは、勢いで……。
一瞬の間に、様々な妄想が、頭の中をよぎっていく。ドキドキする。自分の動悸で、耳が痛い。
杏子に聞かれそうで、怖い。
思わず唾を飲んで、その音があまりに大きくて、さらに動悸が酷くなる。
ジッと、杏子を、見つめて。
視線に気がついたのか、杏子も、俺を、見つめる。
「……あのさ……!」
「!」
ビクン、と、杏子の肩が、震える。
全てを見透かされたような気がして、俺は、パッと目を逸らした。
「信号、変わるよ」
誤魔化すように、呟く。
赤から青に信号が変わるのが、目に映った。
前方の暗闇に、コンビニの看板が、ギラギラとやたら光っているのも、目に入った。
家に一番近い、コンビニだった。
「アソコのコンビニで、降ろして」
「え? でもまだ……」
「ちょっと酔い冷ましながら、歩いていく。アソコからなら、じきだから」
散々妄想して、何とか手にいれようと脳内で足掻いてみながら行動には移せず。
そんな俺が最後に下した決断が『何もしないこと』だなんて、我ながら情けないと思う。
気持ちを伝えることも出来なくて。
「じゃあ、ね」
俺をコンビニの駐車場に下ろすと、そう一言言って、あっさり杏子は車を発進させた。
ジッと、見送り、テールランプが見えなくなって……俺はその場にへたりこんだ。
「じゃあね、か」
杏子の最後の言葉……味もソッケもなくて、むしろ清々する。
次に会うときは、杏子はもう南川杏子じゃない。
何になるか聞き損ねたけど、聞きたくもなかったけど、とにかく杏子は、もう人の奥さんだ。
「俺って、バカだ……」
こんな思いをするくらいなら、最初から意地を張らなきゃよかった。
ガラヤンなんかに遠慮せず、自分の想いをぶつければよかった。
結果的に上手くいかなくても、こんな風に、生殺しにはならなかったのに。
「杏子……好きだよ」
誰にも聞いてもらえない、告白。
馬鹿馬鹿しい、独白。
「好きだった……」
自分に言い聞かせるなんて、情けなくって、涙が出る。
「やべ、マジ泣けてきた……」
失恋すら出来なくて、どうしようもない臆病者な自分を慰めながら、俺は、膝に顔を埋めて、泣き続けた。
そして。
来月には、結婚してしまうんだ。
分かりきっていることなのに、何度も、同じ言葉を、繰り返す……心の中で。
だから、どうだと言うんだ?
諦めたいのか……それとも……やり直したいのか?
やり直したい?
始まってもいないのに?
杏子が俺を好きで、俺は杏子が好きだった、あの頃で、止まったまま。
このまま、知らん顔して別れたら、苦くて甘い、初恋として、いつの日か、いい思い出になるかもしれない……何年後か、何十年後かに。
「……結婚するんだ」
心の中で唱え続けていたフレーズが、思わず口に出てしまった。
「え……?」
驚いたように俺を見て、慌てて前を向きなおす。
運転に集中している杏子の横顔が、心なしか強張っている気がする。
辺りは国道を外れ、市街から離れた、薄暗い道だ……もう、家までわずかの所に来ている。
あと10分足らずで、俺の家に着いてしまう。
どうしようか?
車は減速し、赤信号で止まった。
対向車はない。
後続の車も、ない。
だからと言って、いくら何でも、こんな所では……ことに及ぶこともできない。
気分が悪いと言って、車を寄せてもらおうか?
きっと杏子は、親身になって、介抱してくれるに違いない。
そうしたら、あとは、勢いで……。
一瞬の間に、様々な妄想が、頭の中をよぎっていく。ドキドキする。自分の動悸で、耳が痛い。
杏子に聞かれそうで、怖い。
思わず唾を飲んで、その音があまりに大きくて、さらに動悸が酷くなる。
ジッと、杏子を、見つめて。
視線に気がついたのか、杏子も、俺を、見つめる。
「……あのさ……!」
「!」
ビクン、と、杏子の肩が、震える。
全てを見透かされたような気がして、俺は、パッと目を逸らした。
「信号、変わるよ」
誤魔化すように、呟く。
赤から青に信号が変わるのが、目に映った。
前方の暗闇に、コンビニの看板が、ギラギラとやたら光っているのも、目に入った。
家に一番近い、コンビニだった。
「アソコのコンビニで、降ろして」
「え? でもまだ……」
「ちょっと酔い冷ましながら、歩いていく。アソコからなら、じきだから」
散々妄想して、何とか手にいれようと脳内で足掻いてみながら行動には移せず。
そんな俺が最後に下した決断が『何もしないこと』だなんて、我ながら情けないと思う。
気持ちを伝えることも出来なくて。
「じゃあ、ね」
俺をコンビニの駐車場に下ろすと、そう一言言って、あっさり杏子は車を発進させた。
ジッと、見送り、テールランプが見えなくなって……俺はその場にへたりこんだ。
「じゃあね、か」
杏子の最後の言葉……味もソッケもなくて、むしろ清々する。
次に会うときは、杏子はもう南川杏子じゃない。
何になるか聞き損ねたけど、聞きたくもなかったけど、とにかく杏子は、もう人の奥さんだ。
「俺って、バカだ……」
こんな思いをするくらいなら、最初から意地を張らなきゃよかった。
ガラヤンなんかに遠慮せず、自分の想いをぶつければよかった。
結果的に上手くいかなくても、こんな風に、生殺しにはならなかったのに。
「杏子……好きだよ」
誰にも聞いてもらえない、告白。
馬鹿馬鹿しい、独白。
「好きだった……」
自分に言い聞かせるなんて、情けなくって、涙が出る。
「やべ、マジ泣けてきた……」
失恋すら出来なくて、どうしようもない臆病者な自分を慰めながら、俺は、膝に顔を埋めて、泣き続けた。
そして。
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