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22、空気を震わすほどの
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上空を鉄の龍が周回している様子を窺いながら、アリサは物陰に隠れ、魔力を蓄積させる。
遠くで絶え間なく銃声が聞こえる。マクスウェルがふあふあちゃんを潰すために発砲し続けてくれているのだろう。空気中の魔力濃度が明らかに濃くなってきていて、魔力吸収の効率は上昇し続けている。
深く息を吐き出して、両手を眺める。
今までにないほどに、その身体には力が蓄積されている。けれども、それでもあの龍を墜とすには、まだ足りない。
「もっと、もっとだ」
目を閉じて、意識を集中させる。
今回は、魔力を炎や雷、バリアのように他の何かに変換させたりするわけではない。部分的に集中させ、肉体を強化する、といったような細かい操作も必要ない。ただ、ダムのようにひたすら溜め込んだ魔力を放出させるだけ。アリサにとっては最も得意な、単純な魔力の運用法だ。
だからきっと、大丈夫。と、自分に言い聞かせる。
ただ、正直に言えば、やはり不安は拭えない。ここであの龍を倒せたとして、その次、青の魔女がいったいどんな出方をするのかがわからない。九十万年近く生きてきた彼女は、アリサなんかよりもよっぽど魔法の扱いに長けているはずだ。しかも、蓄積している魔力量は桁違い。それも、一桁二桁の差なんかではない。そんな彼女に対抗する術が果たしてあるのだろうか。
わからない。けれども、それでもとにかく今はあの龍を倒すしかないのだ。目の前の障害を乗り越えない限りは、次の障害に挑むことさえままならない。青の魔女が目の前に立ちはだかったときには、立ちはだかったそのときに考える。
もう一度、空を周回している龍の様子を窺おうとして、物陰から顔を出す。
「あ」
と、それと同時に声が聞こえて、アリサは固まる。それは、どこから聞こえてきた声なのかわからなかったけれども、自らの口が開いていることに気付き、自分が発した声なのだと理解した。
アリサが顔を出した目の前に、ふあふあちゃんが一体、いたのだ。そのふあふあちゃんとバッタリ目が合ってしまった。
ふあふあちゃんは驚き、慌ててその場ですっころんでしまったものの、転んだそのままの姿勢で、大きな声で叫び出す。
「ふななななー!」
まるで、子猫のような可愛らしい鳴き声だけれども、遠くにまで届く芯のある力強い声で。
「え、あ、ちょ……」
これはまずい。このふあふあちゃんは間違いなくアリサの場所を仲間に知らせている。放っておけば、ここはあっという間に白いふあふあの集団に取り込まれる。
けれども、ふあふあちゃんが呼んでいたのは、同じふわふわとした可愛らしい仲間たちなんかではなく、もっと巨大で禍々しく、恐ろしいものだった。
この場から移動しようと、アリサが慌てて物陰から飛び出したと同時に、空気を震わすほどの大きな咆哮が轟いた。ああ、マズい。と、アリサが顔を上げた時にはもうすでに、鉄の龍はアリサに向かって迫ってきている。
「くっ……!」
仕方がない。こうなったら、この攻撃をやり過ごし、再び身を隠す。いちど経験した攻撃だ。防げないことはない。
そうアリサが身構えた瞬間だった。
鉄の龍が大きく口を開くのが見えた。けれども、もう何度も耳にしてきた咆哮はなく、そのかわりに紫色の光がアリサの目に焼き付き、そして全身を覆う。周りに何も見えなくなり、徐々に意識も遠のいていく。
――え、ちょっとまって。もしかして私……ドジった?
そう思った次の瞬間にはもう、ぷつりと意識は途切れてしまっていた。
遠くで絶え間なく銃声が聞こえる。マクスウェルがふあふあちゃんを潰すために発砲し続けてくれているのだろう。空気中の魔力濃度が明らかに濃くなってきていて、魔力吸収の効率は上昇し続けている。
深く息を吐き出して、両手を眺める。
今までにないほどに、その身体には力が蓄積されている。けれども、それでもあの龍を墜とすには、まだ足りない。
「もっと、もっとだ」
目を閉じて、意識を集中させる。
今回は、魔力を炎や雷、バリアのように他の何かに変換させたりするわけではない。部分的に集中させ、肉体を強化する、といったような細かい操作も必要ない。ただ、ダムのようにひたすら溜め込んだ魔力を放出させるだけ。アリサにとっては最も得意な、単純な魔力の運用法だ。
だからきっと、大丈夫。と、自分に言い聞かせる。
ただ、正直に言えば、やはり不安は拭えない。ここであの龍を倒せたとして、その次、青の魔女がいったいどんな出方をするのかがわからない。九十万年近く生きてきた彼女は、アリサなんかよりもよっぽど魔法の扱いに長けているはずだ。しかも、蓄積している魔力量は桁違い。それも、一桁二桁の差なんかではない。そんな彼女に対抗する術が果たしてあるのだろうか。
わからない。けれども、それでもとにかく今はあの龍を倒すしかないのだ。目の前の障害を乗り越えない限りは、次の障害に挑むことさえままならない。青の魔女が目の前に立ちはだかったときには、立ちはだかったそのときに考える。
もう一度、空を周回している龍の様子を窺おうとして、物陰から顔を出す。
「あ」
と、それと同時に声が聞こえて、アリサは固まる。それは、どこから聞こえてきた声なのかわからなかったけれども、自らの口が開いていることに気付き、自分が発した声なのだと理解した。
アリサが顔を出した目の前に、ふあふあちゃんが一体、いたのだ。そのふあふあちゃんとバッタリ目が合ってしまった。
ふあふあちゃんは驚き、慌ててその場ですっころんでしまったものの、転んだそのままの姿勢で、大きな声で叫び出す。
「ふななななー!」
まるで、子猫のような可愛らしい鳴き声だけれども、遠くにまで届く芯のある力強い声で。
「え、あ、ちょ……」
これはまずい。このふあふあちゃんは間違いなくアリサの場所を仲間に知らせている。放っておけば、ここはあっという間に白いふあふあの集団に取り込まれる。
けれども、ふあふあちゃんが呼んでいたのは、同じふわふわとした可愛らしい仲間たちなんかではなく、もっと巨大で禍々しく、恐ろしいものだった。
この場から移動しようと、アリサが慌てて物陰から飛び出したと同時に、空気を震わすほどの大きな咆哮が轟いた。ああ、マズい。と、アリサが顔を上げた時にはもうすでに、鉄の龍はアリサに向かって迫ってきている。
「くっ……!」
仕方がない。こうなったら、この攻撃をやり過ごし、再び身を隠す。いちど経験した攻撃だ。防げないことはない。
そうアリサが身構えた瞬間だった。
鉄の龍が大きく口を開くのが見えた。けれども、もう何度も耳にしてきた咆哮はなく、そのかわりに紫色の光がアリサの目に焼き付き、そして全身を覆う。周りに何も見えなくなり、徐々に意識も遠のいていく。
――え、ちょっとまって。もしかして私……ドジった?
そう思った次の瞬間にはもう、ぷつりと意識は途切れてしまっていた。
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