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万葉の季節
14 藤原宿奈麻呂の乱
しおりを挟む宿奈麻呂は、機会を窺っていた。(注:後の良継。宿奈麻呂は、「9 難波の防人」参照)
仲麻呂と同じ藤原家でありながら、宿奈麻呂の式家は、遥かに不遇だった。
ひとつには、長兄広嗣が反乱を起こしたことによる。
聖武帝時代、もう、20年以上も前のことだ。
式家が苦渋を嘗めている間、仲麻呂の南家は、隆盛を極めていた。
760年、仲麻呂の庇護者だった、光明皇太后が逝去した。
宿奈麻呂は、この機を逃さなかった。
橘奈良麻呂の乱から、5年。
式家の宿奈麻呂は、南家・仲麻呂に対し、謀反を企てた。
宿奈麻呂の謀反に賛同したのは、3人。
佐伯今毛人。
石上宅嗣。
大伴家持。
*
「うまくいったの? そのクーデター」
息を呑む思いで、俺は尋ねた。
桐原の弟は、首を横に振った。
「残念ながら、陰謀は露見し、クーデターは未然に抑えられてしまいました。宿奈麻呂は、単独犯を主張し、官位を奪われました。まあ、彼は、藤原氏ですから。だから、その程度で済んだのです」
「家持は?」
「この後、しばらく、地方勤務が続きます」
「懲罰人事かな」
「恐らく」
家持も、無傷ではすまされなかったわけだ。
「しかし、仲麻呂の強引なやり方は次第に破綻し、彼の繁栄には曇りが出ます」
亡くなった母とは違い、孝謙上皇(聖武の娘)は、おおっぴらに、仲麻呂と対立していた。彼女には、怪僧・弓削道鏡という、支えがあった。
今上帝の淳仁天皇も、あてにはならなかった。彼はもともと、(仲麻呂以外には)後ろ盾のない天皇だった。
光明皇太后を亡くし、危機感を覚えた仲麻呂は、自分の親族を政治の要職に取り立てた。
これが余計、孝謙上皇の怒りをかったばかりでなく、宮廷の味方をも失ってしまった。
「ついに仲麻呂は、孝謙上皇ら朝廷に対し、反乱を起こします。ですが、敗戦が続き、仲麻呂は、誅されてしまいます」
「家持は、自分の手で復讐できなかったわけか。安積皇子の」
それが、気になった。
仲麻呂に手をかけるのは、家持であってほしかった。
「その時彼は、九州に赴任していましたからね」
言ってから、桐原の弟は、にやりとした。
「仲麻呂の乱は、密告で露見しました。密告なら、九州からでもできます。僕はそう、思ってます」
「そうだったら、楽しいな」
俺が言うと、桐原の弟は、嬉しそうに笑った。
はっとするほど、桐原に似ていた。
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