玉ねぎの値段が4倍にっ! 一揆起こしていいですか?――聖女と戦う革命戦争

せりもも

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玉ねぎ革命

6 阿鼻叫喚

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 スーパー「伝兵衛」の卵売り場で、見事なまでに真っ白な髪の老婦人が、わなわなと震えていた。

「卵が! 卵が!」
車輪付きの台を指さし、うわ言のように繰り返す。

「いや、婆ちゃん、卵の値段は、前からこんなもんだったろ?」
付き添っていた、息子と思しき男性が冷淡に言って通り過ぎようとする。

卵の値段は、おおむね200円台前半。中には300円以上のお貴族様向けのもあるが、そういう高級品は、敬して遠ざければいいだけだ。

老婦人の体が硬直した。目を剥き、彼女は叫んだ。
「1パック98円の特売品が消えましたわ!」


すぐに、砂糖売り場で反響があった。
「砂糖、1キロ100円の特売もなくなったぞ」



スーパー「伝兵衛」は、異様な雰囲気に包まれていた。



納豆売り場は、阿鼻叫喚の惨事になっていた。
両手をべたべたにし、体の各所から糸を引いた幼児が、ギャン泣きしている。

「82粒よ! 82粒!」
我が子に負けじと、ママが叫んでいる。

「うちのゆいなが数えたの! この納豆、1パックに、たった82粒しか入っていないわ! 前と同じ値段でよ!」

「ゆいな、82までちゃんとかぞえられた。ママー、褒めてーーー」

「お黙り。お隣のみさとちゃんは、100まで数えられるわ!」
娘を叱りつけ、ママは膝から崩れ落ちた。
「82粒の納豆で、どうやって茶碗一杯のご飯を食べろっていうの? 1/3 だって食べれはしないわ!」



チーズ売り場では、JCが、スライスチーズを目の前に翳していた。
「向こうの光が透けて見える」



調味料売り場から、悲鳴があがった。
「まるで小人の国のスーパーだ!」

確かに、値段はあまり変わっていない。だが、ドレッシング、焼き肉のたれ、ケチャップ、マヨネーズ、醬油味噌に至るまで、全て、サイズが小さくなっている。



ついに特価菓子パン売り場で怒声が。
「100円ならいいってもんじゃねえんだよ! 前の半分の大きさじゃねえか! 俺の昼飯、どうしてくれる!!」



 CEOらの企業努力は受け入れられなかった。

 後にステルス値上げと呼ばれるようになったそれは、文字通り国民の胃袋を直撃した。食べる量を減らせと言われたようなものだからである。

 冷静に考えれば、製品量減少によるパッケージの変更にかかる手間と費用、同じく少ない量での包装により増えた梱包資材や輸送料など、膨大な費用がかかったはずである。その金を充当させれば、もう少し、値上げ幅は低くなったはずなのだが。



「こんなに働いてるんだ、腹いっぱい食わせろ!」
「生活を守れ!」
「給料上げろ!」
「契約更新!」
「ただ働き根絶、やりがい搾取をなくせ!」
「待機児童ゼロ!」
「介護完全外注!」
「ね、ねんきん……」



騒ぎは地下の食料フロアから、徐々に広がっていった。
生活雑貨、衣料品、家電・文具、百均……。


ついに誰かが叫んだ。
「一揆だ!」


荒れ狂う人の群れは、店の外へ雪崩出ていった。






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