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玉ねぎ革命
12 要塞陥落と歴史的勝利
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中花国の戦艦が、首都近くの港に姿を現わした。
港町ヨコハマの要塞が落とされ、続いて、カワサキ要塞も陥落した。
首都トーキョーとの間に、もう要塞はない。
首都は大混乱に陥った。
刑務所の囚人が中花国軍を引き入れたとのデマが流され、スガモ刑務所が襲撃されたくらいだ。
カワサキ要塞陥落の半月後。
首都からほど近い、どろどろの湿地帯で、ジパング軍は、コーリア軍と対峙していた。
ジパング軍は、市民中心の義勇軍で、ろくな武器を持っていなかった。軍服が間に合わなかったので、ぼろぼろの服を着、それどころか、靴さえ履いていない者が殆どだった。
数週間、否、数日前まで、彼らは社畜だった。事務仕事や工場作業には慣れていたが、戦闘経験は全くない。人殺しの経験さえない者が大半だった(中には刑務所からの脱走兵もいたので)。長年の深夜早朝勤務で顔色は土気色、床屋やクリーニング店が開いている時間に家に帰れたためしがないので髪はぼうぼう、服が垢じみているのも致し方がない。
対してコーリア軍は、正規軍だ。兵士達は、ピカピカのブーツに折り目正しい制服、その頭上には、ジパング国とよく似た紅白の国旗が誇らしげに翻っている。
たいそう、かっこいい。
だが、ジパングの市民兵らは怯まなかった。
「革命、万歳!」
「値上げ反対!」
「あの素晴らしいデフレをもう一度!」
「玉ねぎはうまい!」
大声で叫びながら、コーリア軍に飛び掛かっていった。
彼らが持っていたのは、掃除機のホースやら、台所のおたまやら、あとは、スマホだった。
「なんだありゃ」
コーリア軍兵士らは呆然と立ち尽くした。
どう見ても、狂信者か、与太者の集団である。一昔前のアニメ立国のクールさは、みじんもない。
スマホに目を落としながら走って来るので、途中でこけて転ぶやつもいる。そうすると後ろから来る者が躓いて、そのうち、軍の左翼全体が戦わずして壊滅した。
「見るに堪えない」
そもそも武器を持たない者たちと戦う習慣は、誇り高きコーリア軍にはない。
司令官は撤退を命じた。
この戦いは、ジパング軍の勝利となった。
敵は、敵前逃亡したのだから。
ぼろぼろの身なりの、武器もろくに持たない市民兵らが、エリート集団、コーリア正規軍に勝利したのだ。
「今日、いまここから、世界史の新たな時代が始まる」
コーリア軍に従軍していた特派員は、ソーシャル短信サイトに投稿した。
2週間後。
続くもう一つの戦いで、ジパング軍は、中花国軍を破った。
中花軍は、伝統を重んじる国だ。戦争においても然り。彼らは、戦争の流儀を大切にした。
しかし、市民兵中心のジパングには、伝統もしきたりも関係ない。というか、全く知らない。彼らは戦争における暗黙の了解を丸無視して、午後6時に、相手に飛び掛かっていった。
午後6時といったら、まともな軍隊では夕餉の時間である。とても大切な、聖なる時間なのだ。
公平に言って、この古風な習慣についてジパング軍が知らなくても、無理はなかった。元社畜の彼らには、午後6時に家に帰れることなど、ほぼ全く絶対に皆無だったのだから。
飯盒炊飯の最中を襲われ、大切な夕食を踏みにじられ、中花国は甚大な被害を受けた。
夕御飯の時間も守れないような、常軌を逸した連中とまともに戦うなんて、中花国正規軍の誇りが許さなかった。武器弾薬の無駄である。
中花国精鋭部隊は、さっさと撤退を始めた。
再び、ジパング軍は勝利した。
莫大な年間防衛費を計上し、最新鋭の武器を誇る中花軍から、国土防衛に成功したのだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
※1792年8月23日、ロンウィ要塞陥落
同年9月1日、ヴェルダン要塞陥落
※9月2日日曜日~9月6日、パリ虐殺(パリの刑務所襲撃)
※9月20日、ヴァルミーの勝利(「この場所から、この日から、世界史の新しい時代が始まる」byゲーテ@プロイセン軍)
10月6日、ジェマップの勝利
港町ヨコハマの要塞が落とされ、続いて、カワサキ要塞も陥落した。
首都トーキョーとの間に、もう要塞はない。
首都は大混乱に陥った。
刑務所の囚人が中花国軍を引き入れたとのデマが流され、スガモ刑務所が襲撃されたくらいだ。
カワサキ要塞陥落の半月後。
首都からほど近い、どろどろの湿地帯で、ジパング軍は、コーリア軍と対峙していた。
ジパング軍は、市民中心の義勇軍で、ろくな武器を持っていなかった。軍服が間に合わなかったので、ぼろぼろの服を着、それどころか、靴さえ履いていない者が殆どだった。
数週間、否、数日前まで、彼らは社畜だった。事務仕事や工場作業には慣れていたが、戦闘経験は全くない。人殺しの経験さえない者が大半だった(中には刑務所からの脱走兵もいたので)。長年の深夜早朝勤務で顔色は土気色、床屋やクリーニング店が開いている時間に家に帰れたためしがないので髪はぼうぼう、服が垢じみているのも致し方がない。
対してコーリア軍は、正規軍だ。兵士達は、ピカピカのブーツに折り目正しい制服、その頭上には、ジパング国とよく似た紅白の国旗が誇らしげに翻っている。
たいそう、かっこいい。
だが、ジパングの市民兵らは怯まなかった。
「革命、万歳!」
「値上げ反対!」
「あの素晴らしいデフレをもう一度!」
「玉ねぎはうまい!」
大声で叫びながら、コーリア軍に飛び掛かっていった。
彼らが持っていたのは、掃除機のホースやら、台所のおたまやら、あとは、スマホだった。
「なんだありゃ」
コーリア軍兵士らは呆然と立ち尽くした。
どう見ても、狂信者か、与太者の集団である。一昔前のアニメ立国のクールさは、みじんもない。
スマホに目を落としながら走って来るので、途中でこけて転ぶやつもいる。そうすると後ろから来る者が躓いて、そのうち、軍の左翼全体が戦わずして壊滅した。
「見るに堪えない」
そもそも武器を持たない者たちと戦う習慣は、誇り高きコーリア軍にはない。
司令官は撤退を命じた。
この戦いは、ジパング軍の勝利となった。
敵は、敵前逃亡したのだから。
ぼろぼろの身なりの、武器もろくに持たない市民兵らが、エリート集団、コーリア正規軍に勝利したのだ。
「今日、いまここから、世界史の新たな時代が始まる」
コーリア軍に従軍していた特派員は、ソーシャル短信サイトに投稿した。
2週間後。
続くもう一つの戦いで、ジパング軍は、中花国軍を破った。
中花軍は、伝統を重んじる国だ。戦争においても然り。彼らは、戦争の流儀を大切にした。
しかし、市民兵中心のジパングには、伝統もしきたりも関係ない。というか、全く知らない。彼らは戦争における暗黙の了解を丸無視して、午後6時に、相手に飛び掛かっていった。
午後6時といったら、まともな軍隊では夕餉の時間である。とても大切な、聖なる時間なのだ。
公平に言って、この古風な習慣についてジパング軍が知らなくても、無理はなかった。元社畜の彼らには、午後6時に家に帰れることなど、ほぼ全く絶対に皆無だったのだから。
飯盒炊飯の最中を襲われ、大切な夕食を踏みにじられ、中花国は甚大な被害を受けた。
夕御飯の時間も守れないような、常軌を逸した連中とまともに戦うなんて、中花国正規軍の誇りが許さなかった。武器弾薬の無駄である。
中花国精鋭部隊は、さっさと撤退を始めた。
再び、ジパング軍は勝利した。
莫大な年間防衛費を計上し、最新鋭の武器を誇る中花軍から、国土防衛に成功したのだ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
※1792年8月23日、ロンウィ要塞陥落
同年9月1日、ヴェルダン要塞陥落
※9月2日日曜日~9月6日、パリ虐殺(パリの刑務所襲撃)
※9月20日、ヴァルミーの勝利(「この場所から、この日から、世界史の新しい時代が始まる」byゲーテ@プロイセン軍)
10月6日、ジェマップの勝利
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