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玉ねぎ革命
9 トカ御用邸への行進 2
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トカ御用邸に向かう女性たちの列は(もちろん、男性もいたけど)、長くなる一方だった。相手が女性とあっては、王室警備隊もうかつに手が出せない。彼らは、意気盛んな行列の後ろから、とぼとぼついてくるばかりだ。
「いったいどうしたというのだろうのう。穏やかだったジパングの気候が、まるでグレたように極悪な暑さに変わったかと思ったら、今度は、朕の赤子たる国民が、このように押しかけてきて……」
トカ宮殿に集まった人々を見下ろし、国王ヤマト16世は嘆いた。
「国王陛下、バルコニーへ出て下さい!」
有識者が叫んだ。
「早く! 国民を宥めるのです!」
国民は、王を憎んでいたわけではなかった。
ステルス値上げは失敗したが、秋の訪れとともに、玉ねぎの一大産地ホッカイドーからは豊作の便りが届いた。エネルギー価格の上昇は続いていたので、さすがに3個100円は難しかったが、それでも、善良なスーパーにより、安売りの努力は続けられていた。
玉ねぎの値段が下がったことで、「多目的運動広場の誓い」は達成され、自治政府は解散した。革命政府がそれに取って代わったが、穏健派が主流だった。この時点ではまだ。
「国王陛下、万歳!」
国王が姿を現わすと、我知らず、人々の歓声が上がった。バルコニーから、それに国王が手を振って返す。
「王妃、出て来い!」
そう叫んだのは誰だったか。
「そうだそうだ! 贅沢者の中花女を出せ!」
「あのインバイを!」
「国費を浪費したのはマリコ妃だ!」
国王を讃えた人々が、手のひらを返したように王妃を罵り始める。王妃が出てこなければ、治まりそうにない雰囲気だ。
「王妃。国民の前へお立ち下さい。わたくしがご一緒しますから」
そう言ったのは、王室警備隊のシンセン組副長、ヒジカタだった。
「出た! 鬼の副長!」
「トシよっ! トシがっ!」(ファーストネームがトシゾーだった)
「きゃーーーっ! ヒジカタさぁーんっ!」
ヒジカタがバルコニーへ出て行くと、国王の時を凌ぐ大声援が巻き起こった。
彼はすかさず半身を室内に入れ、王妃をエスコートする。
「あっ!」
外野に有無を言わさず、その前に跪いた。王妃の手を取り、キスをする。
「………………」
群衆の中に王妃を狙撃しようと狙っていた者がいたとしても、毒牙を抜かれたとしかいいようがない。
ヒジカタ副長に促され、王妃は、集まった群衆に手を振った。
「王妃、万歳!」
ついに誰かが叫んだ。
「国王、トナイへ帰れ!」
すぐに強い声がそれに続く。
集まった群衆は散ることがなく、数時間後、国王夫妻は首都トーキョー(トナイ)へ向けて出発した。
そのまま、国王一家は、革命政府の監視下に入った。
陰気な雰囲気のクラヤミザカ宮殿に、半ば幽閉の形で閉じ込められてしまった。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
※
王妃をエスコートしたのは、ラ・ファイエット将軍です、フランスでは。
※
クラヤミザカ宮殿は、テュルリー宮のことです
「いったいどうしたというのだろうのう。穏やかだったジパングの気候が、まるでグレたように極悪な暑さに変わったかと思ったら、今度は、朕の赤子たる国民が、このように押しかけてきて……」
トカ宮殿に集まった人々を見下ろし、国王ヤマト16世は嘆いた。
「国王陛下、バルコニーへ出て下さい!」
有識者が叫んだ。
「早く! 国民を宥めるのです!」
国民は、王を憎んでいたわけではなかった。
ステルス値上げは失敗したが、秋の訪れとともに、玉ねぎの一大産地ホッカイドーからは豊作の便りが届いた。エネルギー価格の上昇は続いていたので、さすがに3個100円は難しかったが、それでも、善良なスーパーにより、安売りの努力は続けられていた。
玉ねぎの値段が下がったことで、「多目的運動広場の誓い」は達成され、自治政府は解散した。革命政府がそれに取って代わったが、穏健派が主流だった。この時点ではまだ。
「国王陛下、万歳!」
国王が姿を現わすと、我知らず、人々の歓声が上がった。バルコニーから、それに国王が手を振って返す。
「王妃、出て来い!」
そう叫んだのは誰だったか。
「そうだそうだ! 贅沢者の中花女を出せ!」
「あのインバイを!」
「国費を浪費したのはマリコ妃だ!」
国王を讃えた人々が、手のひらを返したように王妃を罵り始める。王妃が出てこなければ、治まりそうにない雰囲気だ。
「王妃。国民の前へお立ち下さい。わたくしがご一緒しますから」
そう言ったのは、王室警備隊のシンセン組副長、ヒジカタだった。
「出た! 鬼の副長!」
「トシよっ! トシがっ!」(ファーストネームがトシゾーだった)
「きゃーーーっ! ヒジカタさぁーんっ!」
ヒジカタがバルコニーへ出て行くと、国王の時を凌ぐ大声援が巻き起こった。
彼はすかさず半身を室内に入れ、王妃をエスコートする。
「あっ!」
外野に有無を言わさず、その前に跪いた。王妃の手を取り、キスをする。
「………………」
群衆の中に王妃を狙撃しようと狙っていた者がいたとしても、毒牙を抜かれたとしかいいようがない。
ヒジカタ副長に促され、王妃は、集まった群衆に手を振った。
「王妃、万歳!」
ついに誰かが叫んだ。
「国王、トナイへ帰れ!」
すぐに強い声がそれに続く。
集まった群衆は散ることがなく、数時間後、国王夫妻は首都トーキョー(トナイ)へ向けて出発した。
そのまま、国王一家は、革命政府の監視下に入った。
陰気な雰囲気のクラヤミザカ宮殿に、半ば幽閉の形で閉じ込められてしまった。
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王妃をエスコートしたのは、ラ・ファイエット将軍です、フランスでは。
※
クラヤミザカ宮殿は、テュルリー宮のことです
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