玉ねぎの値段が4倍にっ! 一揆起こしていいですか?――聖女と戦う革命戦争

せりもも

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玉ねぎ革命

8 トカ御用邸への行進 1

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「知ってる? 王妃のゼイタク」
「また、なにかやらかしたの?」

固まって幼稚園の送迎車を待っていたママたちが噂話に興じている。

「トカの離宮を、農家風に改築したんだって」
「ああ、御用邸のことね」

「首都トーキョー」と呼ばれる資格のある地域は「トナイ」である。「トカ」は、「トナイ」の外側、厳密にはトーキョーではない。

 なお、両者の境界は、何代にも亙って首都で暮らした者にしか、感応できない。ここ1世紀くらいの間に移り住んだ、いわゆるトザマの住人には、全くわからない。


 中花国の都会育ちである王妃は、トカの田舎臭さを殊の外好んだ。彼女は、だだっ広く開けっぴろげの農家風の離宮? を作った。庭園は畑に開墾し、牛や鶏やダチョウを飼った。自らの装いも、トカの農民風の装い野良着を好んだ。


「ふうん。農家ごっこなんかしてるんだ」
「お庭で何を作ってると思う?」
「さあ」
「ハーブよ!」
「えっ! 芋やカボチャじゃなくて!?」


 ジパングの物価高は深刻だった。思い余った主婦たちは、僅かばかりの庭を耕し、あるいはマンションの駐車場を潰して畑にしたりして、食料自給に精をだしてきた。市民農園の申込者は、常に満員である。

 畑仕事には、もちろん、時間が必要だ。

 幼稚園に子どもを通わせているくらいだから、このママたちは、フルタイムで働いているわけではない。働けないのだ。夫婦どちらの実家も遠かったら、フルタイムはまず無理。子どもは急に熱を出すし。また、たとえ親世代と同居でも、今度は介護が必要だったりする。

 ブラックでない職場で、フルタイムで働けるということは、ある意味、とても運がいいことなのかもしれない。


「その上ね、王妃ったら、離宮でペンギンを飼っているのよ!」
「だって、ペンギンって、暑さに弱いでしょ? この夏、大丈夫だったの?」
「だから、魔力を使い放題だったのよ! 水槽や飼育室を冷やすためにね!」
「信じらんなーい。節魔しすぎて亡くなった人もいるっていうのに」


 ここ十数年、ジパングの夏は、異常な暑さが続いた。狂ったような酷暑で、死ぬ人もいた。魔法が生み出すエネルギーで室温を冷やすことが、どうしても必要だった。
 特に今年は、早い時期からの暴力的なまでの暑さに、膨大な魔力が必要となった。国王の名で節魔(力)が求められていた……。


「贅沢な作り物の農家で暮らして、その上、魔力まで使い放題だったっていうの!? ペットのペンギンの為に!?」
「許せない。私なんて、この夏、子どもがいない時は冷却シートの上で過ごしたのよ?」
「わたしは扇風機」
「冷房、使っていいのよ。死ぬわよ」

ママたちは頷き合った。

「冷房だけじゃないわ。うちの子、食が細いから、キャラ弁作ってあげたいの。でも食材が高くて……」
「シンプルに彩りでプチトマト入れて上げたくても、高くて買えないよね」

「ほんとうに何もかも高くて。でも買わなきゃいけないの。必要だから。工夫や節約でどうこうできる話ではないわ」
それまで黙っていたママが、とうとう口を切った。ひどく思い詰めた顔をしている。
「この間、子どもがシャンプーを詰め替えてくれたんだけど。でも、というか、やっぱりこぼしちゃって。わざとじゃないのよ? それなのにわたし……」
しくしくと泣き出した。
「タツルのこと、怒っちゃったの」

「泣かないで、タッちゃんママ」
「そうよ。タッちゃんママが悪いんじゃない。インフレが悪いの」
「こんな時に、ハーブですって?」
「ペンギンに冷房!?」
「許せない!」



 そこへ、園の送迎バスがやってきた。中に乗っていたのは、けれど、園児たちではなかった。

「これからトカの御用邸に行くことになったの!」
PTA会長が窓から顔を出す。
で、王妃の浪費に抗議に行くことが決まったのよ! 一緒に来るなら、延長保育ができるわよ」

「行く! わたし達も行くわ!」
子どもを待っていたママたちは、即座に園バスに乗りこんだ。





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1789年10月、ベルサイユ行進です。前回のバスティーユ襲撃の3ヶ月後です

農家風の離宮とは、プチ・トリアノンあたりをイメージしています




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