竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも

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1 氷の宮殿

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 「父上、お覚悟を」

 すらりとした体躯に水色の髪、灰色の隻眼の青年が、腰の剣を抜く。
 北の最果て、氷の宮殿の最上階に設《しつら》えられた玉座から、皇帝が馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

「お前が? バートラフ、お前がこの俺を倒そうというのか? 倒せると思っているのか」
「貴方を倒すのが僕の使命です」
 薄ら笑いが、皇帝の青白い顔に浮かんでいる。端正に整った、だが、とてつもなく恐ろしい笑顔だ。
「聖騎士団の差し金か? アンジェリカとかいう聖女に命じられたのか」
 青年は答えない。剣を横に構え、相手の攻撃に備える。皇帝はせせら笑った。
「この俺に逆らおうとは。お前の頭はいったいどうなっている? 気でも狂ったのか?」
「僕はいたって正常です」

 静かな声だった。
 皇帝は深々とため息を吐いた。

「やはり、人間の女を選んだのは間違いだった。愚かで、先を見通すことのできない人間の女を」
「彼女のことを悪く言うな!」

 突如、青年は跳梁した。細身の体が玉座への階段の高さを越え、さらに座った皇帝の頭上に浮かぶ。
 次の瞬間、玉座に向かい、上から深々と剣が突き刺さる。
 だが、剣はただ、椅子の背に貼られた赤いクッションを切り裂いただけだった。
 そこに皇帝はいなかった。

 「愚か者め! 半竜の身で竜王に歯向かうとは!」
嘲るような声が響き渡った。
「お前は、半分が人間という劣った存在なのだ。不完全な息子は、永遠に父を超えることがない」
「黙れ!」

 怒りに満ちた青年を嘲笑うかのように、高い嘲笑が響き渡った。びりびりと空気が震える。
 窓が破れた。
 たまらず、青年は頭を抱え、その場に座り込んでしまった。

 「バートラフ!」
悲鳴のような叫びが聞こえた。
「バートラフ!」

 蹲ったまま、青年が顔を挙げた。
 フードを被った女性が走ってきた。青年を助け起こそうとする。

「愚かな人間に育てられると愚かに育つのか。それとも、元が愚かだったのか」
 嘲るような声が降ってきた。
「よろしい。ちっぽけな屑どもめ。この俺に逆らうとどういうことになるか、眼にもの見せてやる」

 空気の振動はますます大きくなり、宮殿全体が揺れ始めた。上から、ぱらぱらと氷の欠片が落ちて来る。天井に渡された氷の梁に、めきめきとひび割れが入った。
 青年は女性に覆いかぶさろうとした。だが、女性は逆に、水色の美しい髪を自分の胸の中に抱きしめ、上から落ちて来る氷の塊から、必死で彼を守ろうとする。

 庇い合う二人の上で、ついに天井が崩れ落ちた。ぽっかりと青空がのぞく。
 鈍色に澱んだ空には、禍々しい黒竜が横たわっていた。赤い恐ろしい目で、眼下を見下ろしている。

 床だったところに堆《うずたか》く崩れ落ちた瓦礫が動いた。がらがらと音を立てて崩れ、下からすっくと青年が立ち上がった。
 空には、黒い竜が旋回している。青年は唇を嚙み締めた。背負っていた弓を下ろし矢をつがえる。限界まで引き絞られた弦《つる》から、真っ白な矢が、漆黒の竜めがけて解き放たれようとしている。

 黒龍が嘲笑った。
「お前に俺が殺せるのか。俺はお前の父親ではないか。出来損ないのお前は、偉大な父を尊敬していたのではなかったか」

 力の漲っていた青年の肩から、がっくりと力が抜けた。
 ……。






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